救世主(メシア)の加護
気がつくと、私は走り出してた。
ハァハァと息を切らせて、ねじまき貝の階段を宛もなくさ迷っていた。
目指すべきところは、クロノのところだった。
(クロノ…どこ…?
どこかで、泣いているんじゃないかな…?)
移動魔法でどこかで行ってしまったクロノを自分の足で探すのは、とてもじゃないが無謀に近いことだった。
(もしかしたら、ヤァヤァいる魔女の館に帰っているのかも…。
そうしたら、私の力だけじゃ探せない)
私には運命の力があると、ネモフィラさまやウリ、そして少し意地悪なネリさまが教えてくれた。
でも、過去を見られる力って、何の役に立つのだろう?
ネモフィラさまの過去を知ったときだって、ネモフィラさまがただ納得しただけで、命が奪われずに(止めを刺されずに)済んだだけだ。
それに、ネモフィラさまの悲痛な過去を知っただけで、慰めることも癒すこともできなかった。
ただ、自分の脳内に、他人の記憶が流れ込んできただけで、それだけだ。
(こんな能力、意味ないよ…)
ウリは、ヴァニッシングツインと呼ばれるとても強い戦闘能力。(詳しいことは、まだ聞けていない)
ネリは、ツインレイと呼ばれる、強力な生まれ変わりの能力がある。(これも、詳しいことは聞かされていない)
ネモフィラさまは元々能力が備わっていて、“永遠の死に返り”で、武政さんという恋人に逢っていた。
(…ネモフィラさま)
ネモフィラさまのことを考え始めたら、私の走る足は次第に減速して、遂に立ち止まってしまった。
(ネモフィラさまが…死んだ…)
アーウェルサと呼ばれたローブの人物も、ネリさまもそう言っていた。
悪い冗談を言うような雰囲気ではないのは確かだ。
(やっぱり…そうなのかな…)
短い間だけれども、私の運命の力である“ジャッジメントアイズ”で、ネモフィラさまの生まれた第三世代までをすべて見てきた。
それは、ただ見てきたわけではなく、まるで本人の体に乗り移って体験したのようなリアル感だった。
卑弥呼として生まれて、八枝子として生まれ変わって、そしてネモフィラさまとしてこの世に生を受けた。
ネモフィラさまが生きて見てきた景色、嗅いできた匂い、味わった味覚、耐えてきた痛み。
全てを体験してしまったがゆえに、私は肉親以上に親近感を沸いてしまったのだ。
(これが、ジャッジメントアイズなんだ…。
まるで相手の人生を生きているみたいだ)
しかし、だ。
過去が見れても、誰も救えないんだ。
そう思うと悲しさしか込み上げてこない。
(だめだ…行こう)
今はクロノを探さないと。
きっと、どこか人気がいないところで一人で泣いている。
私は重い足を無理矢理あげて、とにかくクロノを手探りで探しに行った。
アナパウロの穴(酒場)を隅から隅まで探したがクロノの姿は見つけられなかった。
もしかしたら、外にいるかもしれないと、出口に出ると、オタマヒコがどんっと待ち構えていた。
「ねぇ、クロノ、知ってる?
緑の髪で…いまは後ろに大きな三つ編みを腰の下まで長く伸ばしているの。
身長は小さくて、元気で、背中に白い羽が生えてるの。
…って、分からないよね」
藁をもすがる思いで聞いてみたが、オタマヒコは眠そうな目をしており、重いまぶたを頑張って上に押し上げているようにしか見えなかった。
オタマヒコは、このズィズィミの万幸湯の交通手段のようなものだ。
他の治癒者が使うためにたまたまこのアナパウロの穴の前にいたのかもしれない。
「ありがとう。ちょっと探してみるね」
私がオタマヒコに背中を向けたときー。
『クロノさまなら、クロノさまの“価値なる器”にいますよ』
その声は空から降ってくるように聞こえた。
聞いたことがある。
これはー。
『ご無沙汰しています。マイチーチャルです。
本来であれば、こんな掌握外のこと、ネリさまに叱られてしまうのですが、居ても経ってもいられず』
この声はそうだ。
エチノダーンが紹介してくれた。
「あなたは、確かこのズィズィミの万幸湯の子供のようなものだったよね?気体のような…そんなものだったよね?」
『はい。ズィズィミの血液のようなものだと思ってください。
そして、安心してください。私は個個人に対して話しかけることができるのです。今こうして話しているのは、ウリさまやネリさまには気づかれていません』
姿が見えないが、きっとマイチーチャルは優しくて素敵な存在なのだろう。
『本来は、ズィズィミの中に出現したハリムシャヒャッキの出現を伝えたり、異物の報告や迷ってしまった治癒者の伝達が仕事です。
ネリさまにも、アーサウェルサの到来をいち早く伝えました。そして、大変失礼ながら、ネリさまとのやりとりも全て傍受していました』
「あなたは、すごいね。まるで、お母さんみたい」
『…!なんという誉め言葉でしょう。ありがたい限りです。
さぁ、イズミさま。クロノさまは泣いています。価値なる器へ急いでください。オタマヒコにもそう伝えております』
「ありがとう、マイチーチャルさん。あとでしっかりお礼をさせてね」
そう言って、私はオタマヒコに飛び乗った。
クロノが泣いている。
誰も助けられないなら、せめてやれることはやりたい。
私の力では死んだ人を生き返らせることはできない。
でも、生きている人なら、もしかしたら少しでも救えるかもしれない。
私はオタマヒコに乗って、1秒でも早くクロノに会えるように、祈るばかりだった。
生きてー。
クロノー。
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