ウリの出産
「ネリさまを…出産…?」
言葉の意味は理解できても、行動の意味は理解できなかった。
でも、ウリの真剣な目を見ると、決して嘘ではないというのは明白だった。
「はい、そうです、出産」
それがどうしましたか?当たり前のことですよ、とも言っているかのようだった。
「ウリ、すまぬが、理解できぬ」
クロノも困惑している。
「難しいですかね?ただ、ボクが元いた世界では普通のことでした。この世界では、“オス”は出産しないんですもんね」
「いや、オスメスの話ではなくだな…」
ウプッ
ウリが再び、口許を手で押さえた。
押さえたはずの指の間から、ウリの体液がピュッと音もなく飛び出す。
「は…始まりました…っ」
苦しそうに息を荒らげながら、額に汗の玉を滲ませた。
「う…っ」
ウリはお腹を抱えるようにして、前屈みになる。
「ハァッ…ハァッ…」
定期的に何か大きい波のような刺激や痛みが押し寄せているようだった。
「ウリさま…!」
エチノダーンも遠くから心配そうに見つめる。
「ちょっと、タオル取ってくる!」
そう言ってヒトデの姿をした影が急いでどこかに向かった。
「あぁ…あぁあああぁ…っ!」
ウリの声が一際大きくなった。
何度か悶絶を繰り返していた中で一番大きい痛みの声だ。
全員が、“今だ”と確信した。
“今、ネリさまが産まれる”と。
「うっ…ふん…っ!ハァッ…!」
ドピュッと半透明で乳白色の液体が膝まづいたウリの膝の辺りを水溜まりにした。
ポトポトと、後から後から液体は絶えず流れ出す。
(まさか…ウリは男の娘なのに…出産って…?
どこの穴から出てくるの?そんな器官、ないはずなのに…)
「あぁ…っ!」
短くウリの断末魔のような声がミテラに響いて消えていった。
四つん這いの姿勢になって、初めてウリの“出産”の意味が理解できた。
なんと、なんとだ。
今見ているシーンをそのまま言葉で表そう。
ウリのちょうどへそがあるあたりから、“何か”が出てきている。
出てきている、ではなく、生まれて落ちてきているという方が正しい。
本来へそがある場所に大きな穴が開いているようで、そこからあの乳白色の体液がじわりじわりと垂れてきている。
なぜか安心したのは、生まれてくる場所が、他ならぬウリの“ヘソ”だったことだ。
てっきり人間のように股間から産まれてくるとばかり思っていたので、そこは不思議と納得感があった。
そしてその“穴”から、幕に包まれた大きな卵のようなものが、今まさに産み落とされようとしている。
小柄なウリの頭と同じくらいはあるだろうか。
大人の頭よりは小さいが、確実に痛みを伴うであろう大きさの何かが、へその穴を介して、今この世にうぶ声をあげようとしている。
「ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ」
小刻みな息が続く。
「ウリ…!がんばって!」
私は気づくと、ウリに声援を送っていた。
ウリは四つん這いの姿勢で、こちらをちらりと見て、目から涙を流しながら、あの天使のような笑顔でこくりと頷いた。
「エチノダーン!まだいる?タオルとそれから温かいお湯を持ってきて!あとは何かタライのようなものを!」
何となく昔得たうろ覚えの知識で、出産に必要そうなものをエチノダーンに求めた。
「クロノとヒルナはポットベリードさんを探して呼んできて!」
「う、うむ!」
「わ、分かった!」
私はこれくらいしかできないが、いま命懸けで“ネリさま”を産み出しているウリに対して、できることを探した。
「~~っ!うぅぅううぅう~~っ!はぁ…っ!」
へその穴から垂れ下がった卵の白身のような球体は、重力に逆らわずに、だらんと下がり、床に着きそうなほどにウリの体から離れ始めた。
「あっ…!」
短い喘ぎがあって、そのあとはウリの荒い呼吸だけになった。
同時に乳白色の液体が床にトロリとそれこそ卵のように広がった。
ウリは四つん這いの姿勢から寝っ転がるようにして体を休めた。
「はぁっ…はぁっ…」
額だけではなく、全身から汗が流れ、ぐっしょりとその小さな体を濡らしていた。
「ネリ…また…会えた…良かった…」
そう言うとウリは、到底ネリと呼べない(人とは呼べない液状の球体)を優しく引き寄せ、ペロリと舐めた。
まるで、動物の母親が生まれたばかりの子供を舐めるかのように見えた。
「ウリ…おつかれさま…大丈夫?」
「はい…ありがとうございます。おかげさまで…無事に…ネリを産めました…」
乱れた息を整えるこの少年は、紛れもなく母親のそれだった。
こうして、ウリという少年は、ネリという名の妹(液状の球体)をへその穴から出産したのだった。
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