守れなかった
眩しさに目が慣れて、徐々に状況が理解できた。
ぽたぽたと、鮮血が下に滴る度に、じんわりと床の血溜まりが広がっていく。
血溜まりの上には、宙に浮かぶネリさまがいた。
そしてその胸元には、何か黒くて固くて太そうな物が刺さっているように見えた。
だらりと頭を垂れ、手足も力なく揺れている。
「…っ!」
その場にいる誰もがこの場面に息を飲んだ。
そして、混乱する頭の中で必死にこの状況を理解しようとした。
「…ネリ…」
「…ネリさま」
ウリもエチノダーンも、この状況を必死に解釈しようとしている。
「あ、あなたは誰ですか…。ネリに…ボクの大切な妹に何をしたのですか…?」
血だらけのネリにばかり意識が向いていたが、よく見ると、ネリの胸元に刺さるものは、あるものに繋がっていた。
「…?!」
それは、見たことがあるものだった。
そう、これはー。
「ネモフィラさまの、ときにも、いた…ローブの人…?!」
そうだ。
思い出した。
頭がフル回転する。
ネモフィラさまが、村の外れの洞窟の中で密会していた人物。
そして、ネモフィラさまに“永遠の死”を与えた人物。
血が酸化したかのような浅黒いくすんだ朱色のローブを頭からすっぽり被ったその人物。
背丈はそこまで大きくはない。
私よりも小さいくらいだ。
でも、その禍々しい存在感とオーラは来るものを寄せ付けない圧力があった。
なぜ、ネリさまのところに!?
そして、なぜネリさまの命を!?
「…」
そんなことをいくら考えていても、先には進まないし、この状況をよくすることはできない。
何か、行動を取らなければ。
シュンッ
私よりも先に何かが動いた。
それは風のように音や空気の流れだけを残して、動いた。
「くっ…」
空気を裂く音と共にローブの人物がふわっと飛んだ。
「避けるとは」
その声はウリだった。
まだ正体が明かされていない、ウリの運命の力である“ヴァニッシングツイン”だろうか。
「ウリさま…!」
エチノダーンが心配そうな声をかける。
「あれが、ヴァニッシングツインなの?」
「違うのね!ヴァニッシングツインなんか繰り出したら、このアナパウロ自体が吹っ飛んじゃうのね!
あれはただの応戦だと思う…それに!」
「ネリ」
ウリは、ローブの人物を倒すわけではなく、あくまでもネリさまを救いに行ったのだ。
ウリの両腕には完全に絶命したネリさまがぐったりと抱き抱えられていた。
人の死をまじまじ見るのは、生まれて初めてだった。
「あなた、何が狙いなの?」
私は叫んだ。
「…」
ローブの人物は答えなかった。
「ネモフィラさまも誑かして、ネリさまにまで手を出して、どうするつもりよ!」
「交換条件だ。相手もそれを望んだ、私もそれを望んだ。それだけだ」
ローブの人物は、少年のような高い声だった。
深く被るローブからは表情は読み取れない。
「ちょっと待ってよ!」
「直に“その時”がくる…それまでだ…“永遠の死”が果ててしまったからな…。新しい躯が要るのだ」
「躯って何よ!勝手なこと言わないで!
それに、ネモフィラさまが果てたってどういうことよ!」
私はローブの人物を必死に呼び止めた。
今の私にはこれしかできなかった。
「知らないのか。哀れなことだな。
それに…忘れてしまったのか?」
「ど、どういうことよ?」
「…ふん、なるほどな。余計なことを。
時の神の季子よ。無駄なことだ。お主がいくらあがいても運命は変わらぬ」
「うるさいのじゃ!クロノは諦めぬぞ!」
バシュッ
ローブの人物は体を鞭のようなもので縛られた。
よし、これで足止めができる。
「まだまだ力が弱いな。成長がない」
バンっと軽々とクロノの魔法を一瞬で払いのけた。
「赤髪のエルフよ、時は近いぞ。また会おう」
「待て!」
ヒルナも応戦した。
手のひらからたくさんの光の粒を出して、槍のように飛ばした。
しかし、ローブの人物の前には透明なレンズのような膜があり、全て無になった。
「タチバナイズミ。私はお前が欲しいのだ。望みがあればいつでも読んでほしい」
そう言って、ローブの人物は霧のように空気に溶けて消えていった。
「…っ!」
言葉にならない悔しさが込み上げる。
なにもできなかった。
見ていることしかできなかった。
守れなかった。
何一つ。
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