運命の分岐点
部屋に残された私たちは、複雑な気持ちを抱えながら、その場に立ち尽くしていた。
エチノダーンは持っているティーカップとソーサーの置き場を失い、ただただネリさまが出ていった扉を眺めた。
「と、とりあえず、座ろうか」
いたたまれなくなり、私はとりあえずみんなに声をかけて、着座を促した。
「…そうじゃな」
「うん」
ヒルナもクロノも、ネリさまの迫力に押されていた。
全員が座ったことを確認して、私はみんなが思っているであろうことを切り出した。
「ねぇ、ネリさまって、いつもあんな感じなの?なんていうか、言葉が鋭いって言うか、視線が強いと言うか」
私はもしかしたらまだ扉の奥にいるかもしれないネリさまのことを気遣って、遠回しに聞いてみた。
「そうねー、ネリさまはウリさまに持ってないものを持っているからねー!
いつもあんな感じだけど、最近は増してきつくなっている気がするよー!」
「もう少し柔らかい物腰でないと、殿方もつい来ないじゃろう」
クロノは、なんだかネリさまがいなくなって羽を伸ばせているのか、本音が出始めている気がする。
「ネリさまは結婚しないって豪語してるよ!
世継ぎは第一令嬢のウリさまにって、もう遺言書も公開されてるんだー!」
エチノダーンは、持っていたティーカップとソーサーをテーブルの上に置いて一息ついた。
「そうね、きっとなにか理由があるんだと思うけど、もう少し優しくできたらいいよね…」
あんまり人のことをとやかく言うのは嫌だった。
時分も細々と言われるのが嫌だからだ。
でも、命がけでウリがみんなを守ったのに、公務を言い訳にして出ていくなんて。
しかも、頑張っているポットベリードさんにも苦言を言うなんて。
「上司はいつも、小言が多いのよ…」
私はふと、前いた世界での仕事の上司を思い出した。
悪い人ではなかったはずだ。
でも、口を開けば数字だ売り上げだ見込みの話ばかり。
異世界でも、やはり仕事は世知辛いのか。
トントントンッ
小気味良くドアをノックする音が部屋の中に響いた。
「みなさま、遅くなりました~」
そーっとドアを開けて、顔を覗かせたのは、戦いの天使ウリだった。
服装はいつものメイド衣装に戻っている。
「あぁ、やはりみなさまお揃いで!
あれ?ネリはまだ来ていないんですね。だとすると、ポットベリードさんもまだですね。
それなら、お茶を淹れますので、少しお待ちくださいね」
ウリは慣れた手つきでカップボードに向かったが、ティーカップとソーサーが無いことに気づき、後ろを振り向いたときにエチノダーンの困っている顔を見て、何かを察したようだ。
「エチノダーン、何かありましたね?」
「そうなんです…!」
エチノダーンは、事の経緯を話した。
「まぁ、ネリがみなさんにご迷惑をお掛けしたのですね。それはすみません」
ウリは深々と頭を下げた。
「なぜウリが謝るのじゃ?ネリがやったことじゃろ」
クロノはふんっと、ふんぞり返りながら言った。
どうやらクロノは、ネリさまのことが好きではないらしい。
「ネリとボクは一心同体なのですよ。それが双子というものです。どちらかが辛いときは、片方も辛いのです。どちらかが幸せであれば、片方も幸せです。
つまり、どちらかが失礼なことをしたら、片方も失礼なことをしたのと同じなのです」
ウリの言葉に嘘はなさそうだった。
「さて、ではみなさん、ネリと仲良くなりにいきましょう。公務で忙しいのはいつものことです。手が空くのを待っていたら、みんなおばあちゃんになっちゃいますよ」
ウリはすっと椅子から立ち上がり、おいでおいでと手招きをしてみんなを誘った。
そしてこの時のウリの決断が、ズィズィミにも関わる大きな分岐点となることを、平和ボケし始めた私たちはまだ気がつかなかった。
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