不穏なお茶会(ティーパーティー)
「いや~!ウリさまは、やっぱり素敵だったのねー!」
ウオミドロという魚の卵で作った白く濁ったお酒に酔いながら、エチノダーンはウリへの称賛の言葉をずっと言い続けていた。
アナパウラの穴に集まる治癒者たちも、お酒が回っていたり、ウリの討伐凱旋を見て、興奮を色を隠せないでいる。
ざっと1000人はいるかと思うくらいの広い酒場は、時を増すごとに人も増え、活気も増している。
まるで、海外のビールホールような雰囲気になってきた。
「エチノダーンは、いつからウリと一緒にいるのじゃ?」
テーブルで魚の丸焼きを食べながらクロノが聞いた。
「もう20年になるかなー!ウリさまとネリさまは、歳を取らないからね!ずっと若いままだけど、中身はもうご立派だよ!」
小学生くらいにしか見えない双子の令嬢は、時が止まっているみたいだ。
「クロノも何百年と生きているからな。あまり不思議なことではないのじゃ。
ちなみに、20年前どのようして出会ったのじゃ?」
長い緑色の髪を三つ編みして、クロノは続けた。
「ズィズィミができてしばらくだよ!
もともとこのズィズィミは、もっと小さな湯治場だったんだって!そう、手のひらに乗るくらいって、ウリさまが言ってた!」
「そんな小さいものが、こんなに大きくなるのか?!」
ヒルナが海草サラダのような、うようよ蠢くものを口に頬張りながら驚いた。
「うん☆詳しいことはウリさまよりも、ネリさが知ってるんだって!
なんでも、ウリさまはハリムシャヒャッキと戦ったときに、記憶喪失になっちゃったみたいでね!
でも、最近は大丈夫なんだって!」
華麗なステップをしながら、エチノダーンはテーブルの上をくるくる回った。
「ウリ、やっぱり大変だったんだね…」
「うんー、そうなんだ!そのときはね、頭が一部しか残らなくて、腕も足も散り散りになっちゃったんだって!
ウリさまの血なのか、ハリムシャの血なのか分からなくて、ハリムシャが、ウリさまの目とか髪とか食べちゃうから、そりゃもう大変だったんだってー!
なんとかネリさまが対処したりして、最終的にはネモフィラさまの力も借りてようやく命を繋ぎ止めたんだって!
半年くらいは寝ていたみたい!ウリさまの生命力ってすごいね!」
象よりも大きくて俊敏で獰猛なハリムシャヒャッキだ。
記憶喪失で済んだくらいで、良かったほどだと思う。
やはり、命がけの戦い。
ネリはこのズィズィミにいる何千という命を救ったのだ。
「もうすぐウリさまの用意も終わる頃だと思うから、移動しようー☆
このアナパウラの穴の中央ホールだと、治癒者がいすぎて、ゆっくりウリさまとお話しできないからね!
VIPルームがあるからそこに行こう!」
(VIPルーム?!)
その甘美な響きに誘われて、私たちはアナパウラの穴の上層階の階段を登って行った。
通されたVIPルームと呼ばれる部屋は、落ち着いた内装であるものの、こだわりを感じるアンティークのインテリアがあったり、お金や手間がかかっているのは誰でもすぐに分かった。
全体的に濃いめの朱色で統一され、掃除も行き届いている。
観葉植物のような大きな海草に似た植物が、部屋のアクセントとなっている。
まるでドールハウスにも見えるこの部屋は、こじんまりとして、少人数で談笑するには丁度よさそうだ。
窓からは、眼下にアナパウラで楽しいひとときを過ごす治癒者が
両サイドに3人ずつ、誕生日席が2つで、計6人がゆったりと座れるテーブルと椅子が真ん中にあった。
「さぁ、座ってー!もうすぐウリさまが来るよ!」
ガチャッ
すぐに後ろからドアが空く音がした。
「あ!ウリ…」
そこにいたのは、ネリさまだった。
頭に王冠を乗せたネリさまは、不機嫌そうな顔で部屋の中にいる者たちを確認した。
「エチノダーン、ウリは?ポットベリードは?」
短く、早く、そして低く言った。
「まだお見えになってないです!始めに来たのがワタシたちでした!」
「…ふぅーん」
ネリさまは、さらに不機嫌そうに返事をして、とりあえず部屋に入ってきた。
そして一番奥(元いた世界で言うところの上座)にどかっと腰を下ろして、足を組んだあとに、頬杖をついて、こう言った。
「エチノダーン、お茶は?」
「あ、はいー!ただいま!」
まるで飯使いへの命令だ。
ふんっと鼻をならしたかのように、どこか部屋の一点を眺めながら、イライラした雰囲気を最大限に出しながら、ネリさまは座っていた。
言わずもがな、空気は最悪だった。
私とヒルナとクロノは、ネリさまの陰湿な雰囲気に巻き込まれて、その場から動けなくなっていた。
ガチャッ
またドアノブが廻る音がした。
(ウリが来た?!助かった?)
私はウリの天使のような笑顔を想像した。
だが、期待は外れた。
「申し訳ございません、ネリさま。先程のハリムシャの件で対応しており遅れました」
入ってきたのは、ネリさまの側近のポットベリードだった。
巨大なタツノオトシゴもどきが、息を切らしながら入ってきた。
「被害はなかったんじゃないかしら?」
睨むような視線をネリさまはポットベリードに向けた。
「それですが、治癒者がひとり、怪我をしたようです。しかし、命には別状ありません。ハリムシャ用の“価値ある器”に搬送しました。
その価値ある器が大幅な移動をしており、位置把握と移動に間取っておりました」
「だから普段からオタマヒコでの視察を念入りにと言っていたのかしら。何のための私の側近なの?」
鋭い言葉が、部屋の空気をさらに冷たくする。
「見立てが甘いって言っていたでしょ?最近はハリムシャの発生回数も増えていて、ズィズィミ自体が昔の何百倍も広く成長している。さらに、知名度も上がって治癒者が増えたり、国の要人も来るようになった。
私はズィズィミで商売をするつもりはないけれど、犠牲者を出す気もさらさらないわ。
早く報告書をちょうだい」
ネリさまは、そう言うと深く腰を掛けていた椅子から立ち上がり、颯爽と入り口に向かった。
「あ!ネリさま!お茶のご用意ができまして…!」
エチノダーンが焦りながら、慌てて言った。
両手には、ティーカップとソーサーがある。
「お茶会ごっこは終わり。ウリには個別に討伐凱旋のお祝いをしておくわ。後は仲良くお遊戯会でもしていて」
吐き捨てるように言って、ひとり部屋から出ていった。
「…」
部屋の中には、ネリさまの香水のような甘い香りと、不穏な思い空気だけが渦巻いていた。
(…居心地悪!)
私は吐きそうな空気を必死にこらえたのだった。
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