聖剣ヴァニッシングツイン
私たちは色々と戦闘の準備をしたものの、結果的にクロノの移動魔法用の扉(魔方陣から召喚したもの)の隙間から、ウリを見ることになった。
五感を駆使して戦ってくるハリムシャヒャッキと呼ばれる怪物と、まったりゆったり癒し系メイド(これでも第一王位)のウリが戦えるなんて、一ミリも想像できなかった。
「あれ~」「ひゃ~」と敵に翻弄されるイメージしかない。
しかし、あの冷徹な第二令嬢のネリさまが、そこまで心配していないということは、ウリにもそれなりの価値筋があるということだ。
見るからにインテリでロジカルシンキングが大好きそうな悪役令嬢のネリさまには、勝算がある。
それが、異世界から来たものに与えられる“運命の力”なのだ。
それは、それぞれの個性によって与えられる神からのギフトであり、ウリの能力は“ヴァニッシングツイン”と呼ばれるらしい。
「いってきまぁす」とのほほんと出ていったウリは辺りを見渡して、敵のハリムシャの位置を見定めた。
なんでも、ハリムシャヒャッキは、1キロメートル先からでも敵を見つけると時速120キロくらいで突進してくる獰猛なやつらしい。
それもあって、下手に隊を組まないことが、勝利への一歩だとネリは言っていた。
そもそも、第一王位のウリを一人で戦場にいかせるのも、如何なるものか。
今から何が始まるのか?
ウリは移動魔法の扉から、ハリムシャが出たとされる場所の近くでしゃがんだ。
辺りを組まなく探し、敵の居場所を見定めている。
すると、すごくと奥の方で、何やらに白い塊が動くのが見えた。
「あれが…ハリムシャ…?」
ハリムシャヒャッキと呼ばれる敵はおぞましい姿をしていた。
こんなに遠くからでも分かるくらいに、像よりも大きい生き物が、草の中を闊歩していた。
全身が針のような鋭い物で覆われている。
まるで歩くハリセンボンだ。
針はその巨体を包む以上に長く、それぞれが触手のように意思をもって蠢き、何か野性の感で空気のわずかな振動すら逃さないといった様子だった。
さらによく見ると、その針のような触手の先は赤くなっている。
恐らくだが、あれが猛毒なのだろう。
こんな生き物とどう戦うのか?
「ウリ…」
私は売りが心配でならなかった。
『じゃあ、いきますね』
とハリムシャを指差して、ウリはジャスチャーを私たちに送った。
緊張が走る。
ウリは、その小柄な体を一目散にハリムシャへ向かって走らせた。
普段はおっとりしたウリだが、なかなかに速い。
しかし、ウリが走ったのと同時に、ハリムシャは瞬間的に気付き、ウリの方に体を向け、その長い触手をなんと伸ばして来た。
ビュンッ
と空気を切り裂き、耳をつんざくような音が遠くからでも伝わる。
ウリはバク宙をして、ギリギリのところで毒の触手を交わした。
そして、一度着地をしたかと思えば、すぐに方向転換をして、またハリムシャに向かっていった。
しかし、ハリムシャに近づけば近づくほど、ハリムシャの感覚も研ぎ澄まされていくのか、触手の伸びるスピードも増して、一本から十本と本数も増えてきた。
(そろそろ…やばいんじゃ…)
ウリはすんでのところで触手を交わすが、応戦一方で攻撃はしない。
いや、できないのだ。
ハリムシャの攻撃回数が多すぎて、隙がない。
(どうするの…ウリ…)
しばらくハリムシャの攻撃が続いたあと、さすがのハリムシャも動物であり、体力がなくなったのか、少し動きが鈍くなった瞬間があった。
そのときー。
ウリは片膝立になり、何かに祈りを捧げるようなポーズをして、呪文のようなものを唱えた。
「母なる大地に父なる神よ、我の声に応えて響け…聖剣ヴァニッシングツイン…!」
一瞬ウリの体全体が赤く光ったかのように見えた。
かと思えば、次の瞬間にウリはその場からいなくなっていた。
そして、何が起きているか分からないままに、気がつくとハリムシャが、息絶えていた。
しかも、半分に体が引き裂かれていた。
断面は大きなナイフで切ったかのように、切れないな断面をしていた。
ザァァァァァッ
さっきまで晴れていた空から大粒の雨が突然振りだした。
「雨?」
「あ、あれ!」
ヒルナが指差した。
真っ二つに分かれたハリムシャの体の片方の上に小さな影があった。
ウリだ。
ウリの小ささが、ハリムシャヒャッキが如何に大きいかを感じさせた。
雨は、ハリムシャから出た血だったらしい。
時間差で、血が吹き出したのだ。
次から次へと流れ出る血の雨のなかで、ウリはからだ全身を赤色に染めていた。
「いかがでしたか?ボクのヴァニッシングツインでした!」
ウリは真っ赤な顔で、私たちに笑顔を向けた。
まさに、赤い天使だった。
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