ジャッジメントアイズが見た過去
シャバンッと価値の器の中からフォイを飛び散らして、ウリを呼んだ。
「ウリ!どこにいる?!」
「はい、なんでしょう?どうかされました?」
幕の奥にいるような少しこもった声がすぐに帰ってきた。
「ちょっと、こっちに来てほしいの」
私の声も少し強ばっていたのかもしれない。
雰囲気を察して、ウリも心配そうな顔で小走りで走ってきてくれた。
「あ」
価値の器のすぐそばまで来て、ウリは急に立ち止まった。
「あ」
ウリの顔がゆでダコのようにすぐに真っ赤になったので、理由がわかった。
「ごめん、ごめんっ。そんなつもりじゃなくてね。まぁ、女同士だから別に体見られても大丈夫だよね」
はははと私は頭を掻きながら、再び体をフォイの中に体を沈めた。
「あぁ…あの…ボク…」
顔を両手で塞ぎながら、へなへなとその場にしゃがみこむウリの耳(魚のヒレのようなもの)は、通常時の透明な水色とは異なり、真っ赤な夕日のように染まっていた。
ふいに32歳独身女性の上半身裸を目にしてしまっては、さすがの小学生中学年くらいの歳の子でも刺激が強いのかもしれない。
異性の親の性的部分を初めて意識するようなものか。
いや、でも、待てよ。
ウリは女の子のはずだ。
こんなに取り乱れることなんて…。
「もしかしてだけど…ウリって、男の子…だったりする?」
首から上だけをフォイからだして、ウリの様子を伺いながら言った。
「…はい、ボクは男の子ですよ。こんな格好をしていますが、ボクは僕なのです。
すみません、隠していたつもりじゃないんですが、いつも間違われてしまうので…。
あと、すみません。不意にもイズミさまの、その、胸とか…見てしまって…」
ウリは完全にあわあわしていた。
「その…なんていうか…お胸が…キレイで…いや!ボクは何を言っているの!ごめんなさい!今の忘れてください…っ」
涙声で今にも泣きそうな目で謝られると、それはそれでどこか性的な部分が刺激されそうだ。
それに、こんなうら若き可愛い乙女(男の子)に、あんなことを言われると、こちらも恥ずかしくてなんとも返しがたい。
「大丈夫よ!私は気にしてないわ。急に呼び出しちゃった私に非があるし…それに減るもんじゃないし、私の体傷だらけだしね、ホラ」
がんばってフォローしてみて、改めて傷だらけの体をフォイ越しに見た。
「あれ…?傷が…無くなっている…?」
いつの間にか、傷が綺麗に消えていた。
おかしい、ネモフィラさまにあんなに痛め付けられた後なのに…。
「フォイは、外側の傷なら秒速で直してしまいますよ。ズィズィミの血液のようなものなので、栄養も薬とはけた違いです。
戦いの傷なら、小一時間で全て直せますよ」
ウリが、膝についた石ころを払って立ちながら説明してくれた。
「すごいね…フォイって」
「はい!我々の自慢です!」
立ち上がったウリの股間が、若干盛り上がっていたことを、私は誰にも言わずに墓場まで持っていくことを固く心に誓った。
「そういえば、どうされたんですか?」
「あのね、フォイの奥に人がいたの…!」
「え?人ですか?」
「うん、長いローブを被った人で…私何回かその人のこと、見たことがあるから間違いないわ」
ウリは怪訝な顔をした。
「おかしいですね。この価値の器のフォイには、誰も近づかせてはいないんです。その…大切なものがあるから…。
ちょっとボクも見てみて良いですか?」
先ほどの乱れた表情とは打って変わって、ウリは真剣な眼差しと顔つきになった。
「イズミさまのお着替えは、あちらの椅子のところに置いていますので、すみませんが、一度お着替えしていただけますか?」
「うん、もちろんよ」
私は脱衣所に向かった。
「うーん。何もいませんでしたね」
着けていた大きめの水中ゴーグルをおでこの位置に移動させて、顔についたフォイを拭きながら言った。
「私の見間違えかぁ、それなら良かった。旅の疲れとか思い込みだったのかも。ごめんね、お騒がせしたね」
「…案外そうでもないかもしれないですよ…」
ウリは価値の器の奥底をぼんやりと眺めながら呟いた。
「実は、ここには、私たちの両親のお墓があるのです。もともと、お墓だったのが、ズィズィミの意思により、精神分離の魔法用の、ひいてはネリの治癒用の価値の器になったのです」
「…そうだったの…」
二人の両親は、二人がこんなに若いのに既に亡くなっていたんだ…。
「もしかしたら、イズミさんが見たのは、父か母かもしれないですね」
悲しそうに笑うウリの顔に心が酷く傷んだ。
「ねぇ、もしよかったら、聞いても良いかな?あ、もちろん。無理にはと言わないけれども」
「大丈夫ですよ。イズミさんは、“過ぎ来し方の鏡”でしたよね?
この“過ぎ来し方の鏡”は、別名ジャッジメントアイズと言われています。つまり、過去を司ることができる神眼なのです。
ジャッジメントアイズの前には、過去の隠し事はできません。ボクの口からでよければ、お伝えしますね。ボクたち兄妹の過去と両親の死の話を」
フォイは、ただ柔らかく水面を揺らして、緑と白の花を浮かび上がらせ、煌々とした光を絶えず放っていた。
この地に眠る二人の両親の過去に私は耳を傾けた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
更新の励みになりますので、いいね!やブックマークをどうぞよろしくお願いします!
書籍化を目指して日々更新していますので、明日もまたぜひ読みに来てくださいね\(^o^)/




