運命の力(カプリシャスギフト)
オタマヒコに乗って30分ほど移動したあと、クロノの“価値の器”にたどり着いた。
ヒルナのときは、大きなリンゴのようなものだったが、クロノのときは何やら糸を紡ぐような形をしていた。
そうだ、昔絵本で見た糸車だ。
なぜ、クロノと関係があるのかは全くわからなかった。
そういえば、私はヒルナもクロノもあまり深くは知らないでいる。
何が好きだとか、何が嫌いだとか、これからどうしたいとか。
異世界に来てから、それこそ怒濤の生活だったので、このズィズィミの万幸湯から帰って、無事にヤァヤァやアロゴやウカのところに戻ったら、いろんな話をしてみたい。
「イズミさんの価値の器は、もっと遠くにあるので、一旦お城に戻りましょう。そこに、“精神分離の魔法”用の価値の器があります」
ウリさまは、変わらず丁寧に案内をして、私たちは城へと戻った。
「姉さまの話をしても良いですか?」
色とりどりの様々な形をした湯船(価値の器)を景色として眺めながら城に着くのを待っていたとき、ウリが話しかけてきた。
「うん、もちろんよ」
「ありがとうございます。それじゃあ、昔話をさせてもらいますね。姉さまは本当は優しくて誰よりもこのズィズィミで働く皆や治癒者のことを思っているのか、改めて伝えたくて」
にこりと笑う顔は、額縁に納めて墓場まで持って帰りたいほどの天使っぷりだった。
「姉さまも、かつて、精神分離の魔法で心と体が分離してしまったことがあるのです。それは、ボクを取り戻すためだって、後から言ってくれました。
姉さまも、あなたと同じ異世界人で、ここではない世界から来ました。そうした異世界人は、ここでは“運命の力”と呼びます。別名カプリシャスギフトと言うのです。
運命の力を持つ異世界人には、2通りいるそうです。生をもたらすものと、死をもたらすもの。そのどちらもが、世界にとっては大きな事件です。一人二人の規模ではないからです」
「そうだったのか…」
もともとロキからは言われていたが、ネモフィラさまに言われて初めて気づいた自分の立ち位置。
「イズミさまをご紹介してくださったネモフィラさまもそうです。たくさんの命を救いになったくださいましたよね」
その裏には、壮絶な過去と尊い犠牲があることを、ウリは知らないのかもしれない。
「なので、ボクもイズミさんには、生のカプリシャスギフトであってほしいなぁと思います」
「死のナイトメアギフトは、どんなかんじなの?最近はあったりした?」
「そうですね。過去には、大きな戦争があったり、流行り病があったりしました。そのときには、このズィズィミの万幸湯は大活躍なのです。たくさんの傷を癒すことができました。心も体も。
でも、ここ数百年は聞いていないですね。ボクの知らないところで起きている嵩かもしれませんが」
ここに湯治に来ているありとあらゆる生き物にも、のっぴきならない理由があるのだと思うと、急に目に入る彼らの姿を愛おしく思えてしまう。
「それじゃあ、ネリさまとウリは、そうした傷を負ったものたちを助けるカプリシャスギフトだったってことね」
「そうだと、いいですね」
隣でオタマヒコを操りながら微笑むこの少女が、死をもたらす“運命の力”であるわけはない。
「そういえば、お姉さまのネリさまは、ウリを精のために神分離の魔法を使ったってことだけど?」
「はい、そうなんです。ネモフィラさまにお願いして、ボクを連れ出してくれたそうなんです。でも、詳しいことはボクもあまり分かっていないというか、お姉さまが話してくれないと言うか…。
ただ、命がけで、ボクを助けてくれたのは事実です。二人だけの家族ですからね。ボクにとって姉さまは特別で、とっても大切です」
ウリが姉を思う優しさが、言葉の節々から伝わってきた。
「あ、お城見えましたね!さて、今日ほどゆっくり眠れる日はないですよー!さぁ、行きましょう」
一人っ子の私には、ネリさまとウリの強い家族愛がとりわけ特別に輝いて見えた。
そして、二人の強い絆に心が癒された気がした。
ただ、一抹の不安として、自分がカプリシャスギフトの死をもたらすものでないことを祈りながら、目の前の城を眺めていた。
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