悪役令嬢ネリ
「…遅かったかしら」
第一声は、向こうからだった。
遠くからでも分かる。
この人、絶対に機嫌が悪いと!
高いところにある王座に頬杖をつきながら、少し見下したような視線で、私たちを真っ直ぐに睨む。
「ネリさま!すみません!これでもいつもより、道を短縮して来たんですよー!
いつもは半日かかるところを、それはもうかなりばっさりと通らないで来たのです!」
エチノダーンが焦りながら、弁解をした。
目がぐるぐると周り、焦点が定まっておらず、焦る様子が手に取るように感じられる。
ヒトデのようなその体は、ふらふらと朱色の絨毯の上で震えていた。
「それに」
冷たく刺すような言葉が広間にこだました。
ネリさまと呼ばれるこの令嬢は、明らかに小さい声で呟くように話しているが、声はスピーカーで拡張されたかのように大きくはっきりと聞こえた。
「令嬢に謁見するのに手土産もなければ、先に挨拶もない。お辞儀もなければ敬礼もない。
あの大魔法使いのネモフィラの知り合いもこの程度なのかしら。ハッ!馬鹿馬鹿しい。時間がもったいないのかしら」
兎に角すごく怒っている。
そして、この子の語尾には、“~かしら”がついているのか。
ふむふむ、かわいい。
なんて考えている余裕はない。
まずは謝らなくて。
でも、ネモフィラさまを悪く言うのは、感に触る。
ネモフィラさまの苦労も苦痛も知らないでいるくせに。
「あの…っ」
「ネリ、だめですよ。初対面の方ではないですか」
言葉が被ったので、身を引いてみると、後ろからゆっくりと歩くのは、あのメイド姿の少女だ。
魚のヒレような耳とフリフリのスカート、そしてチューブトップで隠しただけの肌面積が大きい服装、そして頭にはメイドの象徴であるカチューシャがついていた。
「それに、お土産は先ほど皆さま方から先にいただきましたよ。ネリの好みに合うか不安で、先にボクに相談してくれたのですよ。
あとは、特級大魔法使いネモフィラさまからもたくさんのお土産をいただいています。
ネリの好きなジダラクの饅頭やボンノウの団子、大好きなマンダラの身を炒って甘くしたものもありますよ。
ネモフィラさまの住むところの名産ばかりですよ」
ふふふと余裕のある笑みを見せながら、ウリと名乗った第一令嬢は、ネリさまに近づいていく。
「あまり、自分のお師匠さまを悪く言うものでもないですよ、ネリ」
ウリさまは、「ねっ」と上目使いでネリさまにおどけた表情を見せた。
そして、私たち3人には(恐らくエチノダーンにも)ウインクをして、おまけに舌までペロリと見せたのだ!
(なんという…天使…!)
「…くっ…」
ネリさまは拳を握りながら、王座の上で悔しがっていた。
二人は並んで顔を見合わせていた。
こうして並んでみると、よく似ている気がする。
高貴なネリさまは、ウリさまなオレンジ色の髪をもう少し薄くして金色に近い髪の色だ。
高い位置から結んでいるツインテールは毛先が豊かにカールしていて、とても似合っている。
大きな瞳は、ウリさまにも引けをとらないほど魅力的で、ややつり目なところがこれまた良い。
耳はウリさまと同じで、魚のヒレのように先が尖っていて、先にいくほど透明度が増している。
服装も似ているが、それほど露出は高くないものの、白のベアトップはお揃いでスカートはドレスのように大きな広がりを見せている。
肌は双子ということもあり同じで、太陽をたくさん浴びたようなやや褐色である。
ネリさまの頭には、立派な冠のようなものがついていた。
珊瑚で作られたようにも見えるが、決して安っぽくはなく、気高い印象を与える繊細な作り込みを感じる。
「ふんっ。用が済んだらすぐ立ち去るのかしらっ。長居は認めていなくてよ。
ワタシは忙しいんだから。行くわよ、ポットベリード。
ウリ、あとは任せたわ」
「はい、お姉さま」
ウリさまは、メイドさながらに、ふわふわのスカートの両端をもって、軽く頭を傾けながら、体を少しだけ上下に動かした。
「ネリさま、次は予算の確認でございます。そのあとは、新しくできた湯場の特徴をまとめておりますので報告を。そのあとは、最近の治癒者の傾向をー」
ポットベリードと呼ばれた、巨大なタツノオトシゴもどきがネリさまの後についていった。
ネリさまもウリさまも、背丈は130センチくらいの小柄である。
ポットベリードは、恐らく2メートルはあるだろうか。
「はい、みなさん、すみませんびっくりさせてしまって。うちのネリが失礼しました」
ウリさまが、下がり眉で困った表情を見せてくれるものだから、ドキドキしてしまった。
「口ではあぁは言っていますが、本心は“ゆっくりしていってね”になりますよ」
また、ふふふと笑ながらウリさまは微笑んだ。
「あんな言い方じゃ、分かるわけあるまい」
クロノがじとっとした目で答えた。
「あまりにも度が過ぎれば、制するつもりだった。ミーを悪く言うものは誰であろうと許さない」
ヒルナも少しほっとした顔をしている。
「さぁ、それでは、さっそく湯処にご案内しますね。まずは、ヒルナさまから。湯処が近い場所から順に行きましょう。その次はクロノさま、そして最後はイズミさまです。
イズミさまの湯処は普通に歩くと片道5年くらいはかかるのですが、今回はそれでも近場に持ってきましたので、ご安心ください。
エチノダーン、一緒に行きましょう」
良い香りがしそうな話し方で、ウリさまはエチノダーンを頭に乗せて歩き出した。
「ガッテン承知よ!さぁ、皆さま方の悩みは何かしらねー!」
「こらこら、だめですよ。治癒者の個人的な悩みに付け入ってはいけない決まりですよ」
「忘れてないよー!でも、やっぱり気になるわよねー!我慢するけどね!」
エチノダーンはすっかり元気を取り戻して、ウリさまの頭の上でくるくる回っていた。
天使と悪魔。
まさに、絵に描いた悪役令嬢だった。
さぁて、これからどうなるものやら…。
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