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ネトコン13参加作品

星を拒んだリッピー

作者: 白夜いくと

(流れ星よ来るな。僕に願い事なんてないのだから)


 静けさの夜。小さなアリンコのリッピーは折れた足でそう思っていました。このまま誰にも知られずに朽ちていく。愛もなければ友情もない。彼は女王アリの分身。役目を終えた存在。死ぬことなど怖くない。


 ――本当に?


 何者かがリッピーに囁きます。落ち着いた大人の女性の声でした。


「本当さ。思う事。考える事は僕には必要ないんだ。僕が生きたことによって世界が大きく変わることなんてないし、これからも世界は続いていく。僕の命は軽いんだよ」


 突風。砂ぼこりと共に吹き飛ばされるリッピー。抵抗することも出来ずにただ砂の嵐に呑み込まれていきます。


 ――リッピー。もし生まれ変われるとしたら何になりたいですか?


「あなたは誰。僕は僕以外の生き方を知らない。だから何度でも同じ生き方をするよ」


 ――それではあなたが可哀そうです。人間なんてどうですか。


「ニンゲン?」


 ――あなたよりも大きくて、甘いものをたくさん食べて、働いた分の幸せを感じられる者たちです。


 リッピーは初めて考えました。それらは一つ一つが独立していて、自分の意思で働くのかと。しかし、いったい何のために。人間には女王アリがいないのかと不思議に思いました。彼らの生きる目的は何なのだろう。


「幸せって何ですか」


 ――わかりません。


「ニンゲンは何のために生きるのですか」


 ――わかりません。それ故に自由なのです。


 体が凍えてきたリッピー。そこに一筋の光が差します。流れ星です。まるでリッピーを見送るかのように、その数は増えていきます。


「よくわからない自由は要らないや。女王様の分身として働いて働いて死ぬことが、僕の役割。役割のない僕は僕じゃないんだよ」


 輝きが消えたとき、リッピーの魂はぬけて、再び女王アリの腹の中へと宿りました。




(――おかえりなさい。そしてありがとう。リッピー)


 巣の中で女王アリは、一滴の涙を流しました。

読んでくれてありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 生き甲斐でしょうね。 使命を果たして、使命のために死ぬ。 それは崇高なことだと知っているのでしょう。 アリの本能はこの作品の通りなのかもしれませんね。
[良い点] こんにちは。 役割があって、それを全うして一生を終える。 自由はないかもしれませんが、迷うばかりの人間からすれば羨ましくもありますね。 色々と考えさせられる、深いお話だなと思いました。…
[良い点] おはようございます。 リッピーの愛。 女王アリの愛。 こういう美しい愛がわたしは好きです。 ただ自己犠牲というのではない、共同体を構成する美しい愛。朝から本当に素晴らしいものを読ませ…
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