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俺の推しは裏切らない!  作者: ゆき
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89 夏休みの海③

 夕暮れの海が綺麗だった。

 家族連れの人たちが、帰っていくのが見える。

泳いで、ごはん食べたり、お菓子食べたり、泳いだり・・・楽しかったな。


 何より、推しの水着が目の前にある天国みたいな状況だったし。

 『VDPプロジェクト』の4人も、結城さんもはっちゃけてたし、いい思い出になった。

 海とかリア充しかいないって思ってたけど、来てよかったな。


 陰キャ貫いてた高校のときの自分からすると、今の状況は考えられないだろう。



「りこたんと海に来れるなんて夢みたい。学校の悩みとか、たくさん聞いてくれてね、なんか距離が縮まったっていうか、推しなのに友達みたいで」

 結城さんが食べ物の皿を片づけながら言う。

「結城さんに悩みとかあるの?」

「もちろんあるよ。女子同士にしか言えない悩みだけどね」

「意外だな・・・」

「もう、それってどうゆう意味? 私だって悩み、たくさんあるんだから」

「わかったわかった。ごめんって」

 メガネをかけていないと、急に女子感を出してくる。

 中身は、俺と同じくらいディープなオタクなんだけどな。

 りこたんのグッズ集めていたら幸せなのかと、勝手に思ってしまっていた。 



「あ、燃えるごみはこの袋に入れて。まとめて捨ててくるから」

「片づけありがとう。何か手伝う?」

「いや、大丈夫。あとはその辺のゴミ拾っておくから」

 りこたんとのんのんが砂浜から戻ってきた。


「じゃあ、お言葉に甘えて・・・私たちそろそろシャワー浴びてこようと思うけど」

「髪もすごくべとべとになっちゃった」

 のんのんがお団子に結んだ髪を整えながら言う。


「私も行く」

 結城さんが袋を結んでテントの横に置いた。 



「それで? テントの中の2人は・・・・と」

 りこたんがテントを開けた。

 あいみんとゆいちゃが遊び疲れてすやすや寝ている。


「ははは・・・思いっきり寝てるね」

「こんなところで、爆睡できるなんて・・・子供じゃないんだから。羨ましいくらいだわ」

「遊び疲れね。こっちの世界の海に来れるなんて初めてだったもの」

 りこたんがふふっと笑ってテントを閉めた。


「俺、見張ってるから、先にシャワー浴びてきなよ。戻ってきたら、俺も砂流しに行きたいからさ」

「うん、じゃあよろしくね」

 少し離れたところに簡易シャワーのような、無料で使えるスペースがあった。

 海って楽しいんだけど、どうしても海水のべたつく感じがある。


 ぶっちゃけ男だからあまり気にならないが、女子の手前、ちゃんと清潔にしておかないとな。

 不潔って断定されると、ものすごく嫌われるらしいし。

 


「次、落としたら罰ゲームしようぜ」

「いいよー罰ゲームはくじ引きね」

「えー、また私なっちゃったらどうしよう。足取られちゃうんだもん」 

 男女5人くらいのグループが近くでビーチボールをしていた。

 どこかの大学のサークルらしい。大学の単位が・・・とか話していた。


 リア充め・・・と言いたいところだが、今日は俺も女子と海来てるわけだし。

 そこまで、妬ましい気持ちは起こらないな。


「すぴーすぴー」

 テントを開けると、あいみんとゆいちゃがくっついて寝息を立てていた。

 すごく無防備だ。

 パーカーの中から水着が見えていて、少し砂が付いていた。


 暑そうだけどな。まぁ、本人たちがいいならいいんだけど。


 ドン


「あっ、すみません」

 ビーチバレーをしていた男が、後ろからぶつかってきた。


「おっと・・・」

 やばい。バランスを崩して・・・。


「今のはこいつが罰ゲームだよな」

「えー、今のは投げてきた奴が・・・・」

 リア充の声が後ろから聞こえてくる。



 バサッ


「っ・・・・・・」

 テントに敷いたタオルに手を付いた。ゆいちゃに覆いかぶさる。


 キスしそうな距離だ。


 心音がバクバク鳴っていた。前も思ったが、小さくて、すっぽり収まるような体型だった。

 あいみんはよく寝ているし・・・。


 大変な体勢になってしまったが、間一髪、二人の体には触れてない。

 このまま、何事もなかったように・・・そうっと。


「んん、あいみさんどうしたんですか・・・って、えぇ!?」

 ゆいちゃがぱっと目を覚まして口を塞いだ。


「ごめん、これは違う・・・誤解で」

「さ・・・さとるくん・・・な、何しようと」

「何もしようとして無いって」

 すぐに体を起こす。

 ゆいちゃが、顔を火照らせながら固まっていた。

 唇がぷるぷる震えている。


「すぴー。むにゃ・・・むにゃ・・」

 あいみんが寝返りを打って、足でテントを蹴っていた。

 こんな状況なのに全く動きが無いのが不思議だったが・・・でも、助かった。

 推しの寝相も可愛いし、寝顔は尊かったが・・・。


 テントから飛び出る。焦るあまり、砂浜に足を取られそうになった。

「はぁ・・・・・・」

 息を付いて、その場に座り込む。


 まずい誤解ができてしまった。


 さっき背中に当たってきたリア充は楽しそうに飛び跳ねている。

 何もなかったように遊んでいた。


 こっちは、社会的立場を失いそうなんだけど。

 ゆいちゃにからかわれないようにしていたのに、これじゃ、自らネタを作りにいったようなものだ。

 しかも、水着の状態であんなことになるとか、言い訳にしかならなさそうだし。

 どれだけ何か言われるか、覚悟しておかないとな。 


「あの・・・さとるくん?」

 ゆいちゃがそっと出てくる。


「さっきはごめん!バランス崩して・・・って言い訳に思えるかもしれないけど、本当、本当に何もしようとして無いから。マジで100パーセント事故だから」

「あ・・・・・・」

「その・・・怖い思いさせてごめん」

「・・・・・・そっか・・・」

 ゆいちゃがぼうっとしながら、しゃがんで視線を合わせてくる。   


「何も驚いたりして無いので大丈夫ですよ」

「いや、嘘だろ」

「さとるくんがあいみさんの前で、そんなことするわけ無いですし」

 ぺたんとその場にお尻を付けた。


「そ、そ、それに動揺なんてしてないですから。さとるくんを、い、異性として意識したことないので・・・」

「どうゆうことだよ?」

「えっと・・・その・・・何でもないってことです」

 前髪をぐしゃぐしゃっといじっていた。

「だ・・・だから、急にあんな体勢になっても、怖くないっていうか。全然、動揺しないです。するわけないじゃないですか」

「ふうん。じゃ、もう一回やってみるか?」

 腕を組む。


「えっ? 何言ってるんですか?」

「ゆいちゃは何も動揺しないんだろ?」

「それは・・・・違う問題でして・・・」

 なんかイラっとしていた。


「あ・・・あいみさんがいるので・・・だ、だ、駄目に決まってるじゃないですか」

「ふわぁ・・・呼んだ?」

 あいみんが目を擦りながら出てきた。


「あ、あいみさん」

「よく寝た。寝すぎてふらふらする。あー、ゆいちゃ、前髪ぐしゃぐしゃになってる」

「へ? あ・・・・」

 ゆいちゃの横に座って、前髪を直していた。


「ゆいちゃ、さとるくんに嘘ついてたでしょー」

「そ、そんなことないですよ。全然嘘なんてついてないです」


「ゆいちゃは嘘をつくと、前髪のここくしゃくしゃってする癖あるんだから。ねぇ、なんの話をしていたの?」

 あいみんがゆいちゃに迫ると、ゆいちゃの顔が真っ赤になっていた。


「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」


 ・・・・っと、俺はテントでも片づけようかな。


「あいみん、荷物外に出していい? テントの砂払いたいから」

「いいよ。ごめんごめん、一応タオル敷いて寝てたんだけど、やっぱり汚れちゃったかな?」

「意外と大丈夫みたいだよ。濡れティッシュで拭いておこう」

 淡々と片づけをしながら誤魔化す。

 ゆいちゃは座ったまま、前髪を直していた。


 さっきの、みんなに見られなくてよかったな。

 誰かに見られてたらと思うと身震いする・・・命拾いした。


 危うく、海に来て推し事ライフが終了するところだった。

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