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俺の推しは裏切らない!  作者: ゆき
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87 夏休みの海①

「海だー」

 あいみんが両手を伸ばして叫んだ。


「テントはこんな感じか? 飛ばないように石置いておいたんだけど」

「ありがとう。多分大丈夫、みんなこうゆうふうにしているみたいだし」

 結城さんがちらっと周りのテントを見てから言う。


「おぉ、中は意外と広いんだな。啓介さんよくこうゆうの持ってるね」

「ゆるキャン△にはまって、全く使わなかったテントなんだけどね」

 ゆるキャン△は、年齢問わず、誰でも通る道だ。俺も憧れた。


「啓介さんは、今日、声かけなかったの?」

「呼ぶつもりないけど、来ようとしてたの。でも、アプリ障害が発生して会社行かなきゃいけなくなったんだって」

「マジか・・・・」

 ちょくちょく、自分の将来の姿を見ているようでしんどい。


「これなら、ごはんを海の家で買ってここで食べるのもありですね。お腹が空いてきちゃいます」

 ゆいちゃが海の家のほうを眺めていた。


「啓介さんに感謝しないとな」

 2人分くらいの真新しい簡易テントだった。

 本当、啓介さんいい人だよな。

 啓介さんが彼女がいないとなると、なんだか不安になってくる。


「お兄ちゃんに写真撮って来てって言われたんだった。あとで、みんなで撮らなきゃ」

「・・・・・・・・・」

 まぁ、ここまで準備してくれて、推しの水着を間近で見られないのは可哀そうだし・・・。

 結城さんの話を聞く限り、本当は来るつもりだったんだろうな。




「うん、ここに貴重品以外の荷物を置いていこう」

 りこたんと結城さんが荷物を入れていた。


「早く早く、海入りたいです」

「あいみん、ゆいちゃ、ちゃんと日焼け止めオイル塗らないと」

「あはは、そうだった。私、すぐ赤くなって皮むけちゃうから」


「ねぇ、さとるくん、私、日焼け止めオイル塗ってほしいんだけど」

「えっ?」

 のんのんが手を引っ張ってきた。

「ビビーッ」

 あいみんがスパッと割って入ってくる。


「はいはい、駄目駄目。のんのんの日焼け止めオイルは私が塗ってあげるから」

「あいみ・・・もう、チャンスだったのに」

「さとるくんは、ここで待っててね。すぐ用意してくるから」

「あぁ・・・うん・・・・」

 みんながぎゅうぎゅうになってテントの中に入っていく。


 さすがに全員入るのは狭い気がするんだが・・・。


「みんなで入るとちょっと狭いね」

「りこたん、私も日焼け止めオイル塗ってもらってもいい?」

「きゃはは、くすぐったいのんのん」

「塗りやすいようにしていなさい。ムラがあると変なふうに焼けちゃうから」


 テントからきゃっきゃした声が響いてくる。

 横に座って、リュックを下ろした。

 まさか中に『VDPプロジェクト』のVtuberがいるとは思わないだろうな。


 周囲を警戒していたけど、こっちを見ている人は誰もいなかった。

 逗子海岸は、確かに家族連れが多かった。カップルもちらほらいるけど、ナンパするような雰囲気はないし、ゆったり海を楽しむという感じだ。

 サークルなのか、俺たちと同じような学生グループもいる。

 海の家からは肉の匂いがしてくるし、潮風も気持ちいい。楽しみだな。



「さとるくん、何してるんですか?」

 ゆいちゃが水着にパーカーを羽織ってしゃがんできた。

 プールで着ていた真っ白な水着だ。


「ゆいちゃ・・・な、中に居なくていいの?」

「私はかなり入念に、準備をしてきたので、もう日焼け止めオイルもばっちり塗っているのです。背中は、来る前にのんのんに塗ってもらいました」

 満面の笑みを向けてくる。

 二つに結んだ髪の毛先がぴょんと跳ねていた。


「あいみさんが日焼け止めオイル塗っているので変な気起こしていないか偵察に来ました」

「変な気って・・・・・・」

 少し視線を逸らす。


「なんだかとっても怪しいです。エチエチな気分になっちゃったんじゃないですか?」

「なってないって」

「本当ですか? 反応を見るとかなり怪しいんですけど」

「別に・・・」

 すぐにからかってくるんだよな。

 今日はゆいちゃの行動や言葉に、絶対動揺したりしないって決めていた。


「ふふん、まぁそうゆうことにしておいてあげます。さとるくんは日焼け止めオイル塗らなくていいのですか? 焼けちゃいますよ」

「俺はいいよ。黒くなるだけだし」

「塗ってあげますよ。私もオイル持ってるんです、ほら・・・」

 ゆいちゃが、オイルのボトルを振っていた。


「いいって・・・・」

「・・・・・・・」

 ゆいちゃがパーカーの紐をいじりながらむっとする。


 何か言おうとしたとき、テントがもぞもぞ揺れた。


「じゃーん、見て見て、さとるくん、似合う?」

「いいじゃん。すごく似合うよ」

「ありがとう。身バレしないように、意外な色の水着にしてるの。みんなそうだよー、ゆいちゃもね」

「はい、そうなんです」

 あいみんが青い水着で元気よく砂浜をぺたぺたしていた。


 きめ細やかな肌に、空の色のような水着・・・。

 妖精にしか見えない。推しが尊い。海がめちゃくちゃ似合う。


「へへへ、じゃあ、海入ろうよ」

「あいみん待って、私も行くから」

 りこたんと結城さんがテントから出てきた。

 一気に華やかになったな。波のほうに走っていく。


「あれ? のんのんは?」

「ナツのLINE対応だよ。昨日から鬼のように連絡来ていたらしくて、かなり怒ってるの。ブロックしたら、違う電話番号から来ちゃったらしくて」

「そっか・・・・」

 りこたんが冷やかすように話していた。


 なるほど。俺が今日、海に行くって言ったからか。

 押すだけじゃなくて、引いたら? ってアドバイス、華麗にスルーしてるな。


 俺にはそんな真似できない。

 ただしイケメンに限るとか言われてる世の中だ。

 ナツと同じような行動をすれば、事案になる気がする。




「ふわぁー気持ちいい」

 あいみんが浮き輪に乗ってぷかぷか浮いていた。

 波に乗って揺らいでいる。すっぴんになったら、少しだけ子供になった気がするな。

 まぁ、どちらにしても可愛いことには変わりない。


「砂浜ってさらさらしてるんだね。みらーじゅ都市よりも人が多いし、海の家もたくさんあるし、なんだか楽しい」

「よかったな」

「うん。海の家も美味しそうなのたくさんあるし・・・お昼も楽しみだね」

「ねぇ、この大きな浮き輪ってこれで合ってるのかな? バランス崩したら落ちそうなんだけど」

「うぅっ、私泳げないのに」

 結城さんとりこたんが恐竜の形をした2人用の浮き輪に乗っていた。


「えっ、さとるくん」

 浮き輪を掴んでやる。

「ほら、こうやって、波のほうにやれば」

「きゃっ」

 波のタイミングを見計らって砂浜に押してやると、勢いよく進んでいった。

 結城さんが落ちそうになったところを、りこたんが引き上げていた。


「ハハハハ、楽しいだろ?」

「磯崎君、もう・・・落ちそうになっちゃったじゃない」

 文句を言っていたが、楽しそうだ。


「さとるくんって、意外といたずら好きだよね?」

「そうか?」

「私も何かさとるくんにいたずらしたいんだけど・・・何しようかな? うーん・・・」

 少し意地悪い顔をしてにやけていた。


「えっ、いたずらって・・・」

「そんなにびくびくしないでよー」

 あいみんがゆらゆらしながら近づいてくる。

「思いつかなかった。思いついたらやってみる」

 へらーっと笑いながら、浮き輪を持ち直していた。


「・・・・・・・」

 よかった。

 推しからいたずらとか、どう対応していいかわからない。


 

「あれ? ゆいちゃは?」

 さっきからずっと見ていなかった。


「のんのんと一緒だと思ったんだけど・・・ん?」

「でも、のんのん、りこたんたちといるし・・・」

 砂浜で波に当たっていたのんのんに、りこたんと結城さんが話しかけていた。


「えっ、じゃあ、ゆいちゃは?」

 いつもくっついてくるゆいちゃが、どこにも見当たらなかった。  

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