86 男同士の恋愛相談
ダンス動画も無事撮った。みんな俺よりも奇妙な動きをしていたけど、なんとか動画にできるものにはなったと思う(自己評価)。
あとは、先輩たちがアップしてくれるのを待つだけだ。
みんな、驚くだろうな。
華々しい俺のデビュー動画になるわけだが・・・。
再生回数3桁いかなくても、あいみんに見てもらえるならいいや。
「さとるくんさー、もうちょっと動画の音、高音質にならないの? スピーカーとか全然ないし」
「自分のヘッドフォン使えばいいだろ?」
「それじゃあ、のんのんの可愛さを共有できないじゃん。あ、ほらほら、ここの部分、ちょっと恥ずかしがってるんだよ。可愛いよね」
「・・・・・・・・」
「あ、水着だからって、絶対、エロい妄想はするなよ」
「しないって」
なぜか、家に、XOXOのナツがいる。
全く予期せず、バイトから帰ってきて、あいみんの動画を見ながら一息ついていたらナツが入ってきた。
今、パソコンの前を占領している。
マジで、よくわからない状況だ。
「で、お前は一体何しに来たんだよ」
「推し語りに来たに決まってるじゃないか。のんのんの可愛さを他に語る人がいないんだよ。うぅ・・・こんな、のんのんの姿が全国に・・・これは、ファンにならない人いないだろ?」
すっげー食い入るようにしてみていた。
「そういや、Youtuberとして踊ってみた動画撮ったんだろ? さとるくんが、動画サークルに入ったこと自体驚いたけど・・・」
「まぁな。つか、そんなこと誰から聞いたんだよ」
「あいみんからだよ。誰パート踊ってるの? のんのんじゃなければいいんだけど」
「りこたんだって」
「りこたんか、最後のほうのソロが難しいよね」
本当はあいみんパートを踊るつもりだったが、あいみんパートは花澤さんになってしまった。
先輩が有名だから、当然と言えば当然だけど。
「ちなみに、のんのんパートなら俺も踊れるよ。あまりの可愛さに練習しちゃったんだ。こうだろ」
人差し指を口に当てるしぐさを真似ていた。
妙に上手い。腐女子が歓喜しそうなんだが。
「それ、のんのん知ってるの?」
「言う訳ないだろ。気持ち悪がられるし。あ、でも、XOXOメンバーが『VDPプロジェクト』の踊ってみたするのはありじゃない? ハルに提案してみるかな・・・」
ハルのファンは許さないと思うけどな。
・・・・『VDPプロジェクト』のファンもな。
「海行くんだろ? いいなー、俺も行きたいんだけど」
「お前らなら、いつでも行けるだろ」
「のんのんと行きたいんだよ」
「そんなこと言うと、ファンの子が悲しむぞ」
「ファンの子は大切だよ。本当に、いつも感謝してるし、俺がみんなのためにできることがあれば、全力で頑張りたいと思う。でも、内心はのんのんの笑顔を見ているほうがずっと嬉しい。いいだろ? ここくらい本音を言ったって」
頬杖を付きながらモニターを眺めていた。
「さとるくんはどうなの? 好きな人とかいんの?」
「・・・・・・・・いないって」
言葉に詰まると、ナツが椅子を回してきた。
「は? いんの? その反応」
「ま・・まぁ、好き・・・・じゃなくて・・・気になる程度で、別に好きではないんだけど」
「えーっ!?」
「・・・・・・・」
ポテトチップスの袋を開ける。できれば、これ以上触れられたくない。
この話題から逸らす言葉を必死に探していた。
「誰? 誰だよ」
「いいって、この話は終わりだ。絶対誰にも言うなよ」
「わかってるけど、のんのんではないよな?」
突き刺すような疑いの目を向けてくる。
「のんのんではないよ」
「ふぅ・・・じゃあ、別にいいや」
にやっとしながら、背もたれに寄り掛かった。
「まだ、これからのんのんと付き合う予定の俺からアドバイスするとしたら、ちゃんと誰を好きって言うのは公言しておいたほうがいいよ」
「持論だろ? しかも、予定って・・・」
「俺がのんのん好きを公言するのは、他の男を寄り付かせないためだからな。実際、みらーじゅ都市のみんなはのんのんには俺がいると思って近づかないから」
「・・・・・・・・」
理屈はわかるんだけど・・・。
のんのんがいきなり俺と付き合いたいとか言い出したのって、こいつのせいな気がする。
「でも、まぁ・・・早く付き合いたいよな。のんのんがOK出してくれたらいいのに」
「少し引いてみたら? 恋愛って駆け引きが必要なんじゃないの?」
「それ、ハルにも言われた。でも、のんのん見ると突っ走っちゃうんだよ」
モニターに映ったのんのんを眺めながら言う。
「さとるくんって彼女いたことあんの?」
「ないよ。受験勉強ばかりだったし」
中学高校共にクラスの女子と話す機会もなかった。
佐倉みいな追いかけていたから、そこそこ楽しかったけどな。
「XOXOメンバーの中で俺だけなんだよな。彼女いたことないのって」
「えっ、あいつら今、彼女いるの?」
「XOXOとして活動したころには、もうみんないなかったけど・・・フユなんて幼稚園の頃から彼女いたし」
「はぁ? 幼稚園?」
リア充の極みみたいな奴だな。あの、無口そうな奴か。
「俺も同じ反応だった。でも、いいんだ。俺は一途にのんのんが好きなんだ」
「へぇ・・・ナツが童貞って意外だな」
「ちょっ・・・・童貞とは言ってないぞ」
むきになって言い返してくる。
「いや、彼女いたことないのに、童貞じゃなかったらまずいだろ」
「っ・・・・それは・・・そうだけど」
しゅんとして、前髪を触っていた。
「・・・という、さとるくんはどうなんだよ」
「俺は童貞だよ。別に、隠す気もない」
「じゃあ、その好きな子とやらと付き合って、童貞卒業できるといいな」
「いや・・・付き合う気はないし、付き合えるとも、思ってないよ」
ポテトチップスを抓む。
「どうして?」
「どうしてって・・・釣り合う自信ないし。だから、まぁ、推しを推していたほうが気がまぎれるっていうか、楽なんだよ。今は、『VDPプロジェクト』が上手くいくように協力するほうが大事だ」
「へぇ、気持ちはわかるけどさ」
他の男には取られたくないが、な・・・・。
「それって、逃げじゃないの?」
「厳しいな・・・こっちも、気持ちが追いつかないんだよ。色々とな。それに、好きになったわけじゃなくて、ほんの少し気になってるだけだから」
「へぇー」
こぼれたポテトチップスを拾う。
遠くにいたアイドル、佐倉みいなの結婚だけで深い傷負ってるのに、いざ自分の恋愛となると、どうすればいいかわからない。
参考書があるなら読み漁りたいくらいだ。検定があるなら取得後に、好きな人を作りたい。
ぶっちゃけ、惹かれているってのも、受け入れられない状態だし。
「ははん、恋愛初心者だな?」
「うるせぇな・・・童貞がプロなのかよ」
「片思いのプロだからね。それに、俺はいつかのんのんと付き合うと思ってるし」
こいつの自信どこから出てくるんだろうな。
つか、恋愛がポンコツってこと以外のスペックが完璧か。
イケメンアイドルだし、歌もダンスも上手い、勉強もできるってなれば、そりゃ、あんなに拒否られても、鋼のメンタルを持てるだろうよ。
「で、その子のどんなとこが好き・・・いや、惹かれてるの?」
「どんなところって・・・意外といろんなことを見ていて、一生懸命で、ちょっと臆病なところとか、可愛いなって・・・」
「いつから?」
「まぁ・・気になってたのはかなり前からだけど、自覚したのは最近・・・・て、もういいだろ」
「なるほど。その回答で大分絞られたな」
「特定は止めろよ。マジで」
ナツが頬杖を付いて、こっちを見下ろしてきた。
「しないし、誰にも言わないよ。まぁ、互いに片想いってことで頑張ろうぜ」
「・・・あぁ・・・・」
「あと、自信持てよ。勉強したり、サークル入ったり、バイトしたり、色々頑張ってるんだろ」
「んなこと、みんなやってるって。別に、特別じゃないよ」
「その当たり前を、努力することがモテる秘訣だって言ってたよ。ハルがね」
言うことまでイケメンなんだよ。
ハルに彼女がいたことあるってことだけは、琴美にばれないようにしなきゃな。
気になっている・・・か。口にすると、なんだか変な気分だな。




