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俺の推しは裏切らない!  作者: ゆき
84/183

83 踊ってみた参考動画

「でさー、ラブコメの主人公ってあり得ないくらい、女の子に好かれるんだよな。中には積極的な子もいたりして」

「はぁ・・・」

「ラッキーでスケベな状況になったりするんだよな。主人公属性っての? あんなの現実じゃ起こりえないんだけど。羨ましくて」

 『もちもちサークル』の部室に行くと、がんじんさんが急に今季アニメのラブコメについて語りだした。

Pythonちゃんを作り出しただけあって、かなりアニメに入れ込んでいる。


「可愛い子に一気に迫られるってどうゆうことだよ。な、磯崎」

「・・・えっと・・・」

あくまでアニメの話だよな。


「がんじん、磯崎、夏休みの予定立てようや。みんなテストも終わったことだし」

花澤さんが口を出した。


「夏休みなぁ、動画上げたいな」

「せや、今月動画1本もあげてないねん。なんかいいのない? 磯崎とかさ、フレッシュな感性で俺たちがまだやってない企画とかない? ほら・・・」

 花澤さんがパソコンを操作しながら言う。

 動画っていっても、あいみんの動画くらいしか見てないし・・・。


「踊ってみた・・・とか流行ってますよね」

 ふと、口に出す。


「踊ってみた。それ、『もちもちサークル』が避けてきたやなんだけどな」

がんじんさんが噴き出した。

「あっ・・・そうだったんですか。じゃあ、別に俺も踊れないんで」


「いや、それにしよう。あとでみんなにもラインしとくわ。Youtuberとして遅かれ早かれ乗り越えなきゃいけない壁や。俺ら3人と・・・2人で5人がちょうどいいかな」

「了解。磯崎が好きだって言ってたVtuber、『VDPプロジェクト』だっけ? あの子たち最近踊ってみた出してたじゃん」

「そうですね・・・」


「決めた。『テストから解放された陰キャ男5人、Vtuberのフリで踊ってみた』って動画上げよう」

「え・・・・・」

 想像する限り、地獄絵図だ。


「はははは、絵面が絶望的だな。でも、いいじゃん。絶対目立つって」

「せや、ダンスって見せ方でかっこよくなるらしいで。知らんけど」

 恐ろしいくらいに、とんとん拍子に話が進んでいく。

 すごい、ノリがいい。これが、Youtuberのスピード感なのか。


 あいみんたちの踊っている姿が自分に置き換わるとか・・・あれ、俺が編集したんだよな。

 まさか、こんなことになるとは思っていなかったんだけど。





「磯崎君、久しぶり」

 食堂でアイパッドを見ていると、結城さんが話しかけてきた。


「あぁ、テストお疲れ。どうだった?」

「なんとか単位は大丈夫。1つギリギリだったけどね。受験時の感覚思い出した」

「俺も。休んだところノート送ってくれてありがとう。本当、助かったよ」

「ううん」

 野菜ジュースにストローを差して隣に座る。


「あれ?」

 メガネを触りながら、覗き込んでくる。


「ゆいちゃの動画? 珍しいね、磯崎君があいみん以外の動画を見てるなんて」

「あ、いや・・・別に何か変わったことがあったわけじゃなくて」

「ん?」

 反射的に焦ったけど・・・何も焦ることないんだよな。後ろめたいことがあるわけでもないし。


「『もちもちサークル』っていう、Youtuberサークルに入って、踊ってみた動画を出すことになったんだよ」

「磯崎君、踊るの?」

「流れで・・・・・」

「いいじゃん。あいみんたちに教えてもらいなよ」

 結城さんの表情がぱっと明るくなった。


「でも、踊ってみたとかやったことないんだよね・・・まさか、ぱっと口に出した企画がどんどん進むなんて。しかも、俺がフリ覚えてくるって言う」

「最重要課題じゃん」

「自信ないんだけど。そもそも、ダンスなんて小学校のよさこいくらいしかやってないし」

「ふふふ、いいなぁ。『もちもちサークル』、楽しそうだね。女の子もいるの?」

「女子はいないんだよ。男ばっか」

「そっか、残念」

 結城さんがバッグからりこたんクッズを出していた。


「ところで、みんなで海に行くって話だけど・・・この前、りこたんに水着選んでもらって」

「そうなの?」

 少し照れながら頷く。

 この前、プールに行ったばかりだからすっかり忘れてたな・・・。みんなには内緒ってことになっている。

「湘南は混んでるから、逗子のほうに行かない? って。ファミリーも多いしね、海の家のBBQも楽しそうだよ」

「うん。そうしよう。それがいいよ」

 食いつき気味に頷いてしまった。


「磯崎君は湘南派だと思ってたのに。あー、あいみんがナンパされないか心配なんでしょ?」

「そ・・・・そうじゃないけど。家族連れが多いと安心じゃん。あいみんたちにも伝えておくよ」

「うん、よろしくね。日程とかも、決まったら教えて」

 結城さんが楽しそうにしながら、逗子の海の家を検索していた。




 あいみんが海に行ったら目立つだろうな。

 赤い水着だということはわかってるんだ、絶対めちゃくちゃ可愛い。似合わないわけがない。

 今日の『VDPプロジェクト』配信で、みんなの水着披露か・・・。あと、3時間・・・。


「やほー」

 あいみんが家の中に入ってくる。


「あいみんっ」

「あー、ゆいちゃの動画見てる。まさか、お、お、推し変?」

 衝撃を受けながら口をパクパクさせていた。


「違う違う違うって、Youtuberの『もちもちサークル』で踊ってみた動画出すんだよ。ほら、ゆいちゃは反転のフリ動画載せてるだろ?」

「あっ・・そっかそっか。踊ってみたね・・・って」


 あいみんが、息を吸い込む。


「えーっさとるくん、踊れたの?」

「全くの初心者だよ。しかも男5人で踊るっていう・・・」

 会ったことない2人も、XOXOのようなビジュアルを持ち合わせているとは思えない。

 再生回数100回行くかどうかの動画企画だけどな。


「すごいじゃん。私が教えてあげるよ」

「えっ・・・」

「任せて。私、ゆいちゃの次に教えるの得意だから」

 あいみんがにこにこしながらこちらを覗き込む。

 推しに教えてもらえるなんて・・・緊張して動けない気がするんだけど。


「おじゃまします。あー、やっぱりあいみさんここに居ました」

「もう、すぐさとるくんの家に来ちゃうんだから」

 ゆいちゃとのんのんが入ってくる。 


「だって、楽しいんだもん」

「今日は水着配信なんだからね。ファンもみんな楽しみにしてるし、ちゃんと着替えしなきゃ」


「もう着てるよ、ほら」


「!?」

 あいみんがTシャツを捲り上げた。赤い水着に小さな胸が収まっていて。

 心臓が止まりそうになった。

 水着なんだけど・・・そうゆう見せ方はちょっと・・・。


「あ・・・あいみさん・・・さとるくんの前です」

「水着だもん。ね、さとるくん。変じゃないよね」

 顔を真っ赤にしながら訴えてくる。


「えっと・・・うん・・・・」

「っ・・・」

 慌ててシャツを下ろしていた。

 あいみんがのんのんの背中に抱きついて隠れる。


「さとるくん・・・配信ちゃんとリアタイしてね」

「えー、あいみ。私もさとるくんと話したいのに・・・・」

「のんのんに配信用のメイク教えてもらうの。海で使うようなナチュラルなやつ」


 あいみんがのんのんにぴったりくっついたまま戻っていった。

 すごくすごく可愛い。動きが小動物みたいで、天然であんな姿を・・・配信が楽しみで仕方ない。




「あいみさん、可愛いですね」

 ゆいちゃがポツンと取り残されていた。


「ゆいちゃは帰らないの?」

「あからさまに帰ってほしそうに言わないでください」

「・・・・・」

 ゆいちゃがいるとゆいちゃの動画が見れないんだよな。

 あくまで、踊ってみた動画の参考で見てるだけなんだけど。


「ねぇ、さとるくん。今日の配信は、前の水着と違うんですよ。白じゃなくて、ちょっと濃い目のピンクなのです。見たいですか? 私も着てるんですよ」

「いいよ。配信で見るし」

「先行で見せておこうかな? って思ったのです。デザインも結構可愛いんです」

 ゆいちゃがTシャツを抓んでいた。さっきのあいみんみたいに見せられるとか・・・。


「い・・・いいって・・・あとでリアタイするから」

「むぅ、もうっ・・・」

 頬を膨らませて、ぷいっと背を向けてきた。よくわからないところで、機嫌が悪くなる。


「じゃあ、配信でちゃんと見るんですよ。あいみさんだけ見て、見てなかったってのはナシですからね」

「わかったわかった」

 ゆいちゃ対応の模範解答がほしい。


 居なくなったのを確認してから、パソコンに動画を映す。

 定点撮り、反転で三原色のフリを笑顔で踊っていた。

 水着もまぁ・・・この距離じゃなければ、見たくないわけじゃなかったんだけどさ。

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