82 妄想シチュ追加
『こんにちはーみなさん、最近元気にしてました? 私は、私は、へへへ、最近パンケーキを作るのにはまってます』
東京サマープールの椅子に座って、あいみんの配信アーカイブを見ていた。
恥とか捨てた。もう、とりあえず最推しの動画で自分を取り戻すしかない。
リア充がいようが、妹がいようが、堂々と推しを見てやる。
あいみんは最高の癒しなんだからな。
「お兄ちゃん、さっき見たらロッカー空いてたから、荷物ロッカーに入れてきたら?」
イヤホンを外す。
「いいよ。俺、どうせ暇だし・・・」
「さとるくん、向こうのほうもたくさんプールあるんですよ。ここにいたら勿体ないですよ」
ゆいちゃが琴美にぴったりくっつきながら言う。
「そうです。ここは2対2になるのはどうでしょう。私、まだスライダー行きたいですけど、舞花ちゃんはちょっと疲れちゃいましたよね?」
「はい・・・」
「そうなの?」
華奢な舞花ちゃんが髪をタオルで拭っていた。
「ごめん。人酔いしちゃったのもあって・・・少しだけ休憩しようかなって」
「そうだったの。じゃあ、私たちはスライダーに行ってくるから・・・」
流れるプールで、流れるまま移動していた。すっげーぼうっとする。
ゆいちゃ、意図的に誘導してきたな。舞花ちゃんと2人きりにさせるなんて、どうゆうつもりなんだよ。
「お兄さん、あいみさんの動画見てたんですか?」
「まぁな」
「あいみさん可愛いですもんね」
舞花ちゃんが人混みを避けながら付いてきた。
浮き輪でぷかぷか浮いていると、実年齢よりも幼く見える。妹の友達だから、そう見えるんだけどな。
「琴美が心配ですか?」
「こうゆうところ、すぐに声かけてくる男がいっぱいいるからな」
実際、原宿であいみんが変な奴に声かけられてたし。よく、ナンパなんてできるよな。
「あ、さっき声かけられました」
「えっ」
「でも、琴美が未成年なんで警察呼びますよって言ったら、速攻退散していきました」
「ははは・・・だよな」
よく考えたら、あいつがナンパに乗るわけなかった。
XOXOのハルのボイスで、目を覚ましている、オタクなんだからな。舞花ちゃんには内緒だが。
「私、この前ゲームの声優のお仕事いただけたんです」
「マジか、すごいじゃん」
「Vtuber始動はまだですが、こうやって徐々に声の仕事をいただけるのは嬉しいです」
水の中で少し跳ねていた。
「そういえば、俺もYoutuberになるんだよ」
「えっ、そうなんですか?」
「そう。びっくりしただろ」
「お兄さんがYoutuberって・・・ふふっ」
「笑うなって」
「ごめんなさい。イメージが無くて、でも、とってもいいと思います。お兄さん魅力的ですから」
舞花ちゃんが微笑みながら言う。
「『もちもちサークル』っていう、大学のサークルなんだ。まだ、俺は動画に参加してないけどさ、見てみてよ。そのうち、出てくるから」
「楽しみにしてます」
何気ない会話をしながらプールを流れていると、男女グループの男が舞花ちゃんにぶつかりそうになっていた。
「危ない」
「あっ」
舞花ちゃんの腕を掴んで引き寄せる。
「あ、すみません」
男が軽く謝って、グループの中に入っていった。
女子を前にすると、あんなふうに、前見えなくなる男っているんだよな。
「大丈夫? 舞花ちゃん小さいから・・・え・・・・」
「・・・・・ありがとうございます。こ、琴美に見られたら怒られちゃうので」
手を離した。体がすっぽり腕の中に収まっていた。
「いえいえ、嬉しいんですけど・・・その・・」
「ごめん」
「・・・・・・・」
浮き輪で顔を隠していた。なんか、少し気まずい感じになってしまったな。
バッシャーン
「ぷはぁ」
ゆいちゃが水の中から勢いよく出てきた。
「ゆ・・・ゆいちゃ!? 何やってるんだよ」
「潜水してたのです」
「は?」
濡れた髪を整えていた。
「琴美は?」
「今、お手洗いです。かなり並んでるので時間かかってます」
「私も・・・お手洗いに行ってきますね。すぐに戻ってきます」
舞花ちゃんが浮き輪を掴んで、プールの端のほうまで泳いでいった。
「・・・いつからいたんだよ」
ゆいちゃが、顔を半分水面につけながらこちらを見ていた。
「さとるくんが舞花ちゃんにくっついたところからです」
「違うって、あれはそうゆうつもり全然なくて。危なかったから」
「じゃあ、どうゆうつもりだったんですか? 詳しく教えてください」
「男があたってきそうになったんだって」
ゆいちゃがぐいぐい迫ってきた。自然と端のほうに追いやられる。
なんで俺が責められなきゃいけないんだよ。
「ゆいちゃ、周り見ろって、ぶつかるぞ」
「周り見ないで、イチャイチャしてたのはどっちですか?」
頬をぷくっとさせていた。
なんでこんなに怒ってるんだか。自分で誘導したくせに。
「そうゆう気分になって、我慢できなくなったんじゃないですか? 舞花ちゃん可愛いですからね」
「フン、可愛いことは確かだけどな」
「上手くいったみたいでよかったです。私もお手洗いに行ってきますね」
なぜか不機嫌になってしまった。
マジで意味わからん。ゆいちゃが離れていこうとしたとき・・・。
「あっ・・・君、一人? 友達とはぐれちゃった感じ?」
「え・・・・・」
「めちゃくちゃ可愛いね。アイドルか何かしてるの?」
色黒の男に声をかけられていた。秒でナンパとか、すげーな。
マーライオンみたいな髪の野郎だ。
「わ・・・私・・・・」
「向こうで一緒に話さない?」
「あの・・・・」
か細い声を出していた。こんなのも断れないのかよ。
ゆいちゃの体を抱き寄せる。
「すみません、こいつ、俺の彼女なんで」
「さ、さとるくん・・・・」
「チッ、うっぜーな」
舌打ちして、戻っていった。
耳にゴールドのピアスを付けて、チャラチャラしながらプールを彷徨っていた。
いるんだよな。水着でナンパしてくる、下心丸出しの奴。
「気を付けろよな。なんか言い返すくらいしろって」
かなり強く言うと、ゆいちゃが驚いたような顔をした。よく見るとスッピンなのに、な。
「はい・・・」
「・・・・・・」
ゆいちゃが顔を赤くして、俯いていた。
白い水着が水に映っていて、可愛らしいというか・・・まぁ、目立つのも仕方ないんだけどな。『VDPプロジェクト』のメンバーで、ファンもたくさんいるんだから。
「さとるくん、おっぱい触ってます」
「わっ・・・・」
勢いあまって、触れてしまった。すぐに体を離す。
「い・・・・意図的じゃないからな」
「わかってますよ」
マシュマロみたいな感触がばっちり残っていた。
ゆいちゃの水着は用心しなきゃな。間近だと破壊力があるから、磁場を狂わせる。
ゆいちゃがにんまりしながら泳いでくる。
「さとるくん、またエチエチな気分になっていませんか?」
「・・・・なってないって」
「本当に?」
「そんなに、ならないよ」
正直、めちゃくちゃ、なってる。
ゆいちゃの太ももがあたりそうなくらい近づいてきているし。
でも、これは、さっきのスライダーのこともあって、完全に不可抗力で。別に何も深い意味はない。
「私は、ちょっとだけ、ドキドキしました。さとるくん、かっこよかったですよ」
「へ・・・? あ・・・」
「あのままの体勢でいても、私はよかったのですが、人混みの中ではちょっと・・・」
前髪を触りながら笑いかけてくる。
「エチエチな妄想しても許してあげます。あ、ハードなのは駄目ですよ。ちゃんとソフトなのでお願いします」
「・・・・・ソフトって・・・」
「私も妄想のシチュが追加されてしまいました。事前に言っておきますけど、妄想しちゃいますからね。私はさとるくんには伝えましたが、かなりのエチエチなのです」
「っ・・・・・・」
どんなシチュを妄想したんだよ。てか、この状況でんなことを・・・。
水着の紐を直しながらへらーっとしていた。思わず目をそらす。
「もう、からかうなよ」
「へへへ、プールって楽しいです。みんなへの内緒が増えちゃいましたね」
「・・・・・・・・」
完全に、ゆいちゃのペースに吞まれてしまった。舞花ちゃんとくっつけようとしてるんだか、あいみんとくっつけようとしてるんだか、全部からかってるだけなのか、全然わからない。




