81 屋内プールのスライダー
「再生回数、すごいじゃん。もう30万回いったの?」
「そうなの。こうやって応援コメントも・・・」
りこたんがパソコンの画面をスクロールさせていた。
たった2週間で30万回・・・MVもダンス動画も伸びていた。
4人それぞれのファンや、この動画でVtuberにはまったというコメントもあった。
ゆいちゃが特に人気急上昇だ。
普段から可愛いけど、踊ってるゆいちゃは活き活きしていて、普段のよくわからない配信よりずっと輝いてるもんな。
「そっか、さとるくんも結城さんも試験期間だったんだもんね」
「あぁ、俺は昨日で終わったけど、結城さんがまだ残ってるんだって」
テスト期間の1週間、完全に推しから離れていた。さすがに、勉強しまくった。
ツイッターも浦島太郎状態だ。
解放された勢いであいみんの家に来ると、りこたんしかいなかった。
「みんなさとるくんと会えないから寂しがってたわよ」
「今日、みんなはどうしたの?」
「情報処理研修・・・って言っても、私たちの場合はアンチから身を守る方法とか月1で教えてもらってるの。Vtuberとして顔を出す上で、とっても大事なことだから」
「そうだな。人気になるほどアンチも出てくるからな。りこたんはいかなくていいの?」
「みんな今日が期限なのに忘れてたのよ」
なるほど。ちゃんと、スケジュール管理してるの、りこたんだけだもんな。
ペットボトルの水に口を付ける。
「ねぇ、さとるくんって、好きな人とかいるの」
「俺にはあいみんっていう最推しがいるから・・・そうゆうのは・・・・」
咽そうになった。
「動揺してる。怪しいわね」
「動揺するだろ。いきなりそんなこと言われたら」
にやにやしながら見てくる。
りこたんに聞かれるなんて、予想外だった。
のんのんとか、ゆいちゃならこうゆう話題に食いつくのもわかるんだけどな。
「まぁ、いいわ」
りこたんが野菜ジュースのストローを突いた。
「そうそう。ゆいちゃから、伝えてって言われてたんだけどね・・・」
「ん?」
ゆいちゃ・・・余計な気遣いを・・・。
「屋内プールなのに、こんなにたくさんスライダーがあるのね」
「そうなのです。私もずっと行ってみたくて。平日だから空いててよかった」
「これで空いてるほうなんですね。東京ってやっぱりすごいです」
琴美とゆいちゃと舞花ちゃんと、東京サマープールに来ていた。
実家のほうから日帰りバスが出ているらしく、テストの息抜きということで、親父が許したらしい。まぁ、根詰めても成果は出ないからな。
「・・・楽しみだね、琴美。あっ・・・」
舞花ちゃんは水着が恥ずかしいのか、ちょっと引っ込み思案になっている。
目が合うと、ぱっと逸らされた。なんか・・・気まずい。
「私たち、スライダーに行ってくるから、お兄ちゃん荷物係しててね」
「変な男に引っかかるなよ」
「んなわけないじゃん。過保護ぶらないでよ」
「はいはい」
わけわからないくらい荷物多いし。琴美の中で、俺は完全に便利屋だな。
「舞花、ゆいちゃ、いこいこ」
「うん」
「あ、私、ちょっとトイレ行ってから行きますね。次のスライダーから参加します」
「了解。気を付けて」
ゆいちゃが琴美たちに手を振っていた。
同い年だからなのか、打ち解けるのが早かった。今話題の動画とか、学校のこととか、メイクのこととか、他愛もないことを3人で楽しそうに話していた。
たまにゆいちゃが話しを振ってきた。俺が、完全に孤立した状態で琴美たちに付き添うよりはマシだったけどさ。
琴美と舞花ちゃんが、スライダーのほうに走っていくのを確認してからゆいちゃが隣に座ってくる。
「トイレ行くんじゃなかったのか?」
「ふふん、さとるくん随分不愛想ですね。私の水着にドキドキしちゃったのですか?」
「違うって」
舞花ちゃんと海に行くってチラッと言ったら、なんだかんだ自然な流れで、東京サマープールへ一緒に来ることになってしまった。
「舞花ちゃんは色白なのですから、屋内プールのほうがいいです。私もそうですけど、太陽の日差しは日焼け止め塗っても、すぐに真っ赤になってヒリヒリするんですよ。すごく痛いんです」
「そうなのか・・・」
「それに、2対2のほうがこうゆうところはいいのです。スライダーも2人乗りが多いですから」
言ってることはすごくまともなんだよな。
「ゆいちゃもよかったのか? せっかくの休みなのに」
「もちろん、楽しいですから。それに、さとるくんをこんなところで一人にしたら、ひたすらあいみさんの動画見ちゃって、琴美ちゃんに見つかって、ドン引きされますよ」
「・・・・・・」
図星すぎて、何も言い返せない。琴美にキモイって言われるところまで想像できた。
「舞花ちゃん、可愛いじゃないですか」
「冷やかすなって」
「頑張って2人きりになれるようにしてあげますよ。任せてください」
「いいよ、ゆいちゃがやるとろくなことにならなそうだから」
「ふふん、見くびらないでくださいよ」
ゆいちゃがにやにやしてきた。頬杖を付いて、視線を逸らす。
「あー、楽しかったー」
琴美がちょっと跳ねながら戻ってきた。
「琴美ちゃん、次は私もあのスライダー乗りたいのですが、一緒に行ってもいいですか」
ゆいちゃが琴美に声をかける。
「えっあれ?」
一番大きなスライダーを指していた。ゆいちゃって絶叫系大丈夫なんだな。
意外というか、なんというか・・・。
「怖くて難しいかな。ごめん」
「あ、私もです。ごめんなさい。あまり怖いのは苦手で・・・・」
だろうな。スマホをいじりながら話を聞いていた。
「えっ・・・じゃあ、あっちの」
「でも、せっかく、来たんだもん。ゆいちゃも好きなの行ってきなよ。ほら、お兄ちゃん、ずっと暇だったでしょ? あれ2人用なんだから行ってあげて」
「は? 俺?」
「うん。それでね、その次3人で乗れるのすごく面白そうだから、行ってこよ」
「うん、琴美ってば、はしゃぎすぎだよ」
「舞花もはしゃいでるくせにー、荷物私たち見てるね。ねぇねぇ、クレープ食べよ」
琴美がにこにこしながら言う。
すごい不意打ちで矢が飛んできたんだけど・・・。
「・・・じゃあ、行こっか、さとるくん」
「・・・・・・・・」
散歩に行けなかった子犬みたいな目で見てくる。あからさまに残念そうな顔するなって。
階段を上がっていくと、ゆいちゃがプルプル震えていた。
「もしかして絶叫駄目なの?」
「みらーじゅ都市ではこうゆうのないのです。だから、初めてで、なんだか怖くなってきました」
手すりに掴まりながら、プールのほうを見下ろしていた。
「じゃあ、止める?」
「さとるくんは、怖いのですか?」
「いや、俺は別に絶叫いけるし。どっちでもいいよ」
ゆいちゃが、列を一歩進みながら口をもごもごさせた。
「大丈夫です。琴美ちゃんが見てますっ」
「いや、あいつ何も見てないから」
遠くのほうで、琴美たちがクレープを食べているのが見えた。
変な男が近づいてこないかだけは、目を光らせないとな。まだ、女子高生なんだから。
「あわわ・・さとるくん、順番が近づいてきましたよ」
「じゃあ、覚悟決めなきゃな」
ゆいちゃの頭をぽんと叩く。目をぐっと瞑って擦っていた。
「や・・・やだ、りっくん触りすぎ」
「誰も見てないんだから」
正面にいた大学生くらいのカップルがイチャイチャしながらゴムボートに乗っていた。
リア充の光は体に毒だな。ゆいちゃが・・・固まっている。
「なぜ、私はこれにさとるくんと乗ることになったのでしょう・・・」
「・・・・・」
それな・・・。マジで。
「知らん。早く行くぞ」
「わっ」
ゆいちゃの手を引いてゴムボートに乗った。
まぁ、あんなカップルじゃなければそこまで密着することもない、普通のスライダーだ。
ゆいちゃが後ろに乗って、持ち手にしがみついていた。
滑走すると水しぶきが飛んで気持ちよかった。
楽しいな。スライダーって。ほとんど行ったことなかったけど、自由な大学生って感じだ。
体重を移動させてスピードを付けていた。
「意外と楽しいな、ゆいちゃ」
「さ、さとるくん、怖いのですっ」
回転するところに来ると、ゆいちゃがするする降りてきて密着してきた。
後ろから抱きつかれる。
「こんな・・・危ないって」
「こ、怖いのです」
胸が頭にあたって、真っ白な肌が触れて・・・。
やばいだろ。こんなの。すっげー柔らかいし。
ゆいちゃも、余裕が無いのか、際どい格好で絡んできた。
「あー、さとるくん変なこと考えてます」
「うるせぇな、この状況で考えないのがおかしいだろうが」
「きゃー」
ゆいちゃがもう一回ぎゅっと抱きしめてくると、スライダーの中に入っていった。
スリルとかそうゆうの無い。
「あっ・・・さとるくんっ・・・あっ」
なんでそんなエロい声が出るんだよ。
ゆいちゃの胸がふかふかしていて、声も可愛くてやばかった。足はガンガンあたってるし。
ゆいちゃ推しに、俺、殺されるな。
バッシャーン
水しぶきと共に、一番下へ落ちていった。
さっき、イチャイチャしていたカップルが手を繋いで歩いていた。
「ふわぁ・・・楽しかった」
「嘘つけ。あんなに怖がってた癖に」
「いいのです。最終的に楽しかったのです。恥ずかしかったこともあった気がしますけど、忘れました」
ゆいちゃが真っ白な水着で、プールを泳いでいる。
「さとるくん、まだエッチなこと考えてるんですか?」
「考えてないって」
嘘だけど・・・。ゆいちゃの胸がぷるんと揺れていた。
いや、絶対、推し変はしない。あいみんが最推しだ。
あいみんの可愛さを思い出して、色々抑えようとしていた。
「へへへ、楽しかったですね。落ち着いたら、琴美ちゃんたちのところに戻りましょうか」
「っ・・・・」
「それとも、もう1回乗ってイチャイチャしちゃいますか?」
「いいって、もう・・・勘弁してくれ」
ゆいちゃが満面の笑みを浮かべながら、ぷかぷか浮いていた。
「プールって楽しいのです。ね、さとるくん。きっとさとるくんと一緒だから楽しいのです」
「あ、そ」
あんな状態で、色々考えないほうが無理だろ。
女子の体に触れたの初めてだったんだけど・・・あの柔らかさを思い出してしまう。
やばい。しばらくプールから上がれない・・・・。




