表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の推しは裏切らない!  作者: ゆき
81/183

80 テスト勉強中の癒し(耳かき)

 びっくりして、スマホを落としそうになった。


「えっ? そうなんですか?」

「そうだよ。当り前じゃん。湘南なんて、ナンパだらけだよ」

「・・・・・・・」

 あいみんたちを湘南に連れて行くなんて、考えが甘すぎた。

 危なすぎる。盗撮だってあり得る。


「か・・・考え直します・・・」

「そうしとけ。サーファーならいいけどな」


 『もちもちサークル』の部室には花澤さんとがんじんさんしかいなかった。

 テスト期間に入るから、みんな必死に勉強しているらしい。

 まぁ、俺もかなり遅くまで勉強する日々が続いてるんだけど・・・推しがいるから乗り切れてる。


「海か。いいよな」

 がんじんさんが筋トレしながら答えた。


「で、お前はなんで筋トレしとるん? 別に海行く予定もないやん」

「夏休み入る前に女子からの誘いがあるかもしれないだろ」

「そんなイベント起こるの、ほぼ女子の居ない俺たちの学部では天文学的数値や。動画編集でもしとけ」

 花澤さんがパソコンの画面でPythonちゃんを動かしていた。

 フットワークの軽い元気いっぱいの女の子という設定らしい。


「夏休み動画一本取りたいなー。海行くか海、海企画考えようぜ」

「はい・・・」

「んなことより、磯崎、湘南行くつもりだったって、まさか女の子と行くわけじゃないだろうな?」

 がんじんさんが首にタオルをかけながら睨んできた。


「いや・・・えっと・・・・」

「怪しいぞ、お前。いきなり海デートなんてハードル高いんだからな。しかも湘南」

「せや。湘南はマッチョな陽キャしか行けんのや」

 完全に個人の見解な気がするんだけど。

 でも、俺も上京してきたばかりで知らないことばかりだ。

 あいみんたちを連れて行くのは無しだな。別の方法を考えないと。


「あ・・・・すみません」

 舞花ちゃんからラインが来ていた。


『琴美ちゃんと海に行くのですが、お兄さんも一緒に行きませんか?』


 ドキッとする。舞花ちゃんから・・・。

 まぁ、琴美が行きたいとか騒ぎ出したんだろうけどな。


「ん? どうした? バイトか?」

「妹と海に行くことになりました・・・」

 すぐに返信をして、スマホを置く。

「妹いるの?」

「まぁ・・・・」

「そんなん仲ええん? 羨ましいわ、うちも兄妹欲しかったな」

「そんないいものじゃないですよ。いいように使われてますし」

 琴美の話をしながら、舞花ちゃんのことを考えていた。

 琴美たちとどこか行くって、面倒に思っていたくらいだったけど。


 舞花ちゃんの気持ちを聞いてから、意識するようになってしまったな。





「こんばんはーさとるくん」 

 あいみんとゆいちゃが、配信で着ていたもこもこの部屋着で家に入ってきた。

 甘いお菓子の匂いがする。


「勉強中ですか?」

「テスト前だからな。そろそろマジでやらないと単位落としそう。今日、サークルの先輩にも色々聞いてさ」

 ノートにペンを置く。

 花澤さんとがんじんさん、めちゃくちゃ頭がよかった。

 俺がずっと悩んでいたアルゴリズムの質問とか、学部違うのにすらすら答えられるし。


 勉強しないと、留年してしまう。推しの水着に浮かれてる場合じゃなかった。


「そっか・・・今日配信無いからゆっくりしようと思ったんだけど、邪魔しちゃ悪いかな。今日はクッキー焼いたから、この差し入れ置いたら帰るね」

 あいみんがそっと机に手作りクッキーを置いてきた。


「ありがとう。ちょうど休憩しようと思ってたからいいよ」

 椅子を回して伸びをする。


「わかった、じゃあ、今日はいつも頑張ってるさとるくんを癒そう。頑張れって言うと、頑張り過ぎちゃうから」

「いいですね。そうしましょう」

「えっ」

 天使だな。俺を癒すってどうゆう・・・・?

 



「ふわぁ・・・あいみさんの膝枕、気持ちいいのです」

「ゆいちゃ、頭を動かすと、耳かきできないから」

「はーい・・・ふふふ、くすぐったい」

 タオルを敷いたあいみんの膝枕で、ゆいちゃが耳かきをしてもらっていた。


「ゆいちゃ・・・・この状況は?」

「耳かきは人を癒すそうです。リラックス効果があります。このように楽しいのです」

「・・・・・・」


 それはやってもらうほうだった場合だろうが。 

 ゆいちゃ、狙って言ってるな。ちょっと、意地の悪い顔でこちらを見てくる。


「さとるくんも、あいみさんにやってもらいたいのですか?」

「そっかそっか、さとるくんもやってほしいよね?」

「・・・・・・」

 あいみんが、ゆいちゃの頭をぽんぽんと撫でながら言う。


 ヘドバンする勢いで頷きたかった。

 ゆいちゃの位置が、死ぬほど羨ましい。


「しょうがないな。じゃあ、ゆいちゃの次はさとるくんね」

「え・・・うん」

 マジか。あいみんの膝枕とか、いいの? 俺、明日死にそうなんだけど。


 メールがきているふりをして椅子を回した。

 心を平静に保つのに、軽く瞑想(自己流)していた。 




「こうでいい? さとるくん、首痛くない?」

「全然大丈夫、ありがとう・・・」

 あいみんの太ももが柔らかくて、ちょっとぎこちないけど、一生懸命で、ひたすら可愛い。


「こうかな? 痛い?」

「くすぐったいけど、全然いいよ」

「よかった。リラックスできるでしょ。私こうゆうの得意なの」

 自信ありげに言う。最上の癒しだな。

 耳かき自体はあまり気持ちよくなかったけど、あいみんが膝枕してくれただけで嬉しい。


「さとるくん、緊張してる?」

「いや・・・」

「へへ、さとるくんが緊張しちゃうと、こっちまで緊張しちゃうよ」

 緊張するなってほうが無理あるんだよな。

 あいみんがくすくす笑いながら、耳掃除をしてくれた。



「あっ・・・」

 しばらくすると、急にあいみんが手を止めた。

「もう19時だ。今日、配信無いからって、みらーじゅ都市の取材入れてたんだった」

「そっか」

 腹筋に力を入れて体を起こす。

 ほんの数分だったのに、数時間やってもらったような価値があった。


 あいみんが耳かきをティッシュにくるんで仕舞う。

「ごめん、さとるくん、ばたばたしちゃって。また来るね」

「うん、じゃあ」

「勉強、無理しないようにね。ちゃんと寝るんだよ」

 ぱたぱたして帰るあいみんを見送っていた。


 レッドブルなくても、翼を授けられた感じがする。

 テスト勉強、気合入れなきゃな。久しぶりに徹夜するか。




「・・・ゆいちゃ、何してるの?」

 すっかり忘れてた。ゆいちゃがベッドにごろごろ転がっていた。


「2人でいちゃいちゃし始めるから、居場所がなかったんじゃないですか。ここで、身を隠していたのです」

「いちゃいちゃって・・・ゆいちゃが言ったからだろ」

「本当にすると思わなかったんです」

 もぞもぞ動きながら話す。なんとなく不機嫌だ。


「とりあえず起きろって」

「眠くなっちゃいました。いちゃいちゃを見過ぎて」 

 ちょっと膨れながら言ってくる。無理やり両手を引っ張った。


「ほら、起きろって」

「むむむ・・・」

手を無理やり引っ張ったら、ものすごく抵抗してきた。

「嫌です」


「じゃあ・・・・」

「ひゃっ・・・・」

 手首を抑えつけて、ゆいちゃの上に覆いかぶさる。 

 小さくてすっぽり収まるくらいのサイズだった。


「んなことしてると、マジで犯すぞ」


「・・・ぁ・・・・・」

 赤面しながらこちらを見上げる。小さな口をちょっと震わせていた。

 まぁ、可愛い・・・けどな。


 深く息を吐いてから、手をどけて、座り直す。

「あんまり無防備にしてると、こうゆう男もいるってことだ。気を付けろよ」

「はい・・・・気を付けます・・・」

 ゆいちゃが、顔を赤くしたまま、ゆっくりと起き上がった。

 やりすぎたか。まぁ、これくらいしてやらないと・・・な。


「・・・次耳かきしてほしくなったら言ってくださいね。私もしてあげます」

「いいって。ゆいちゃの耳かきはなんか怖いから・・・」


「遠慮しないでください。あっ、さとるくん、えっと・・・・」

「ん?」


 っっっっっっっっっ!?

 すごいことを、耳元でささやいてから立ち上がった。


「・・・ってことです」

 ちろっと舌を出した。


「・・・ゆいちゃ・・・・?」

「内緒ですよ。この話はここで終わりです」

 ぐちゃぐちゃになった髪を軽く直してから、少し体を伸ばしていた。 

 勝ち誇ったように、にこにこしながら、こちらを見てくる。


「じゃあ、今日も練習頑張ってきますね。さとるくんも勉強頑張ってください」

「う・・・うん」 

 跳ねるように、鼻歌を歌いながら家を出ていった。


 ゆいちゃは・・・まぁ、すごいことを言ってきたけど、置いておこう。

 今は勉強に集中しなきゃな。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ