79 水着試着会
Youtuberとしての活動、MV配信、みゅうみゅうのライブ、ゆいちゃの誕生日配信・・・色々、振り返りたい。
でも、いったんは置いておこう。
今、とても重要なことが、起こっている。
今日は7月1日、夏本番。と言ったら、海だろ。水着でしょ。
んで・・・俺は今、あいみんの部屋にいて・・・。
「さとるくん、これなんてどうかな? 海で遊びたいから、あまり露出の多いのはどうかと思って」
「スクール水着じゃない。あいみ、20歳でしょ?」
「だって、こっちの世界の海に行くってなったら、選べなくなっちゃったんだもん。お腹隠れてたほうがいいかなって」
「出すものなの。スタイルいいんだから、ほら、AIロボットくんが持ってる水着会ったでしょ? そっち着てきなさい」
「うぅっ・・・そう・・・?」
みんなの水着選びに付き合っている。
あいみんのスクール水着を見てから、俺の時間は止まっていた。
これは、これで需要がある。というか、可愛いからなんでも尊い。
「私は、こんな感じでいいかしら?」
「さとるくん、私もどう? 後ろも可愛いの、ほら・・・」
「みんな可愛いと思うよ」
声を絞り出した。
「へへへ、ありがとーさとるくん」
「あ、でも、あいみんの水着は・・・似合うんだけど、湘南でスクール水着って、逆に目立っちゃうから」
「っ・・・そうなの?」
「だから言ったでしょ」
あいみんがカァーっとなって、モニターのほうへ走っていった。
「すぐ戻ってくるから、さとるくん待っててね」
画面を触って、中へ飛び込んでいく。
あいみんのスクール水着が幻になってしまった・・・。
でも、自分の正義感に従ったんだ。後悔はない。
「さとるくんがいてよかった」
「うんうん。水着って大事なイベントだし、ツイッターでもみんな楽しみにしてるって言ってたから」
「やっぱり、こっちの世界のファンの声を聞くのが一番よね。ありがとう、さとるくん」
りこたんとのんのんが話していた。
りこたんは水色のシンプルなもので、のんのんはストライプ柄。
2人とも自分の見せ方がわかっていて、似合っているし大人っぽかった。
「そういえば、ゆいちゃは?」
「なんか、ひもが結べないとかで時間かかってるの。水着のサイズが変わったから色々大変で・・・」
「ゆいちゃは成長期だもんね」
ゆいちゃは・・・なんか、わけわからない水着で来ないかってハラハラしていた。
阻止してやらなきゃな。この中で、唯一アブノーマル側の人間だからな。
「私たちは合格ね」
「緊張したけど、よかった。早く海行きたいね」
「じゃーん、あいみん再登場。よいしょよいしょっと・・・」
ピンクのビキニを着たあいみんが出てきた。
めちゃくちゃ可愛くて、体が震えるんだけど・・・。
心臓止まりそう。推しの水着を間近で見られるなんて。
「似合う? 似合う?」
「・・・・・・・・うん・・・すごく」
鼻血出そうだ。見慣れておかないと、海とか行けない。
「さとるくん、私たちのときと反応違くない?」
「のんのん、しょうがないよ。さとるくんの最推しはあいみんなんだから。でも、ちゃんと私たちのことも推してね」
りこたんがちょっと近づいてウィンクをした。
「へへへ、そんなに似合う。嬉しいな、この水着で湘南に行く」
「みらーじゅ都市で海配信してもいいわね。BBQ配信とか」
「うんうん」
あいみんがにこにこしながらくるっと回った。
太ももからお尻にかけてのラインがもう・・・やばい。
同人イラストをたくさん見てきたけど、やっぱり本物に勝るものはない。
「あいみん、あまりはしゃぐと、ぽろっとしちゃうわよ。さっきみたいに」
「そうよ。気を付けないと、ちっちゃい胸でも出ちゃうんだから」
「ちっちゃくない。それに、こうやってちゃんときっちり結んできたし」
「!?」
ぽろっと、あいみんの胸が? とんでもないワードが。
「はっ。さとるくんの前だよ。みんな」
あいみんがぶんぶん手を振っていた。
目が合うと、りこたんの後ろに隠れた。
「だだだ大丈夫、そんな聞いてなかったから・・・」
「えっと・・・今日は恥ずかしいからもう帰る。ほら、のんのんもりこたんも」
「えー。まだ、ゆいちゃが来てないじゃない」
「帰るの。さとるくん、ぽろっととか記憶消去してね。そんな話ないんだからねっ」
焦ってむきになりながら主張していた。
ダメだ。もう、今のワード心に刻み込んでる。
「なるべく・・・・」
「あ、さとるくん。結城さんにも海行くこと伝えておいてね。水着とか用意もあると思うから」
りこたんがにこっとして手を振った。
「わかった。明日授業で会うから伝えておくよ」
あいみんがりこたんとのんのんの手を強引に引っ張って、モニターの中へ帰っていく。
嵐のようだったけど、いい時間だった。
白い肌にピンクの水着は、火力強すぎて死ぬかと思ったな。
推しは最強だな。消し飛ぶところだった。
モニターのほうを見つめる。
ゆいちゃって、どうなってるんだろう?
来なさそうだし、家に戻るか。まぁ、推しの水着が見れたし、満足ってことで・・・。
「さとるくん、言い訳はないのですか?」
「・・・・ありません」
ゆいちゃがプンプンしながら家に乗り込んできた。
長いワンピースのようなTシャツを着て、ソファーで足を組んでいる。
「あいみさんの水着を見たから、帰ってもいいやって思ったんですよね? わかってますよ。誤魔化せませんよ」
「・・・・・ごめんなさい・・・」
正座して説教を受けていた。
全面的に俺が悪かった。
「もうっ・・・ちょっとくらい待っててもいいじゃないですか。みんなの水着は見て、私のはいらないとかひどいです」
「ごめんって。本当」
平謝りだ。でも、あいみんの水着で色々耐えられなかったんだ。
「どうせ、あいみさんの水着を見て、興奮して、早く家に帰らなきゃって思ったんですよね。さとるくん、部屋に戻るとエッチなことばかりですから」
「・・・はい・・・・・」
「私だって色々選んで決めてたんですよ。ひどいです」
ごもっともだ。的を得すぎていて、何も言えない。
「ゆいちゃは、水着、着たの?」
「そうですよ。今も着てきたのにさとるくんいなかったから怒ってるのです。3人はちゃんと見たのに、私だけいいやって、ずるいのです。仲間外れです」
ビシっと言われた。
「ごめん。えっと・・・じゃあ今から、見に行くよ。あいみんの部屋に行けばいい?」
「ここでいいです。私、このシャツの下に水着着てるのです。ちょっと目を閉じててください・・・」
ゆいちゃが恥じらいながら後ろを向いた。もぞもぞしている音がする。
深く息を吐いて、目を閉じた。
嫌な予感がする。やばい水着だったら全力で阻止する心構えだけしていた。
「まだか?」
「い、いいですよ?」
目を開けると、白い水着を着たゆいちゃが立っていた。拍子抜けというか・・・。
華奢な体なのに・・・胸がちょっとはみ出ていて、腕を前にやると谷間が・・・。
「どうです? 合格ですか?」
「・・・・・・・」
目をぱちぱちさせて、近づいてくる。
短い髪の毛先をふわふわ触っていた。
「え・・・と、うん・・・・」
「さとるくん、照れてますね?」
「違うって」
部屋で女の子が水着でいることに動揺しただけだ。
だって、当然だろ。今、ゆいちゃが家にいて白いビキニを・・・。
「可愛いと思うよ・・・」
「よかったー」
ゆいちゃがしゃがんで、Tシャツを着て、ソファーに座る。
一挙一動を目で追ってしまった。
「はい、私の水着イベント終了ですー。次は湘南です、楽しみにしててください」
自信ありげに言う。そりゃ、自信あるだろうな。
「ふふん、さとるくん、なんだか口数少ないですね」
「そんなことないって」
「もしかして私を見て、エッチなこと考えましたか? 意外とおっぱい大きいのですよ。びっくりしました?」
「まぁ・・・・・」
「なるほどなるほど。いい反応です」
目をそらしてると、にやにやして調子に乗ってきた。
完全に遊ばれてる・・・。
ここは童貞だってばれない程度になんか言ってやらなきゃな。
「俺、ゆいちゃが思ってるよりもエロいからな」
「えっ? 急にどうしたんですか?」
「さっきみたいな水着でいると、急にオオカミみたいになって、襲うかもしれないってことだ。気を付けろよ。強引にでもやるからな」
「・・・・・」
ボンとソファーに座って、腕を組んだ。
これくらい言って、脅してやらないと。
顔を近づけて、首を傾げてくる。
だぼっとしたTシャツが触れそうになっていた。
「さとるくん、私のほうがエッチだと思いますよ。この前話したじゃないですか。処女だけど、最近は特にエッチなのです」
「っ・・・・・」
真面目な顔で・・・。
「だから、さとるくんがそうゆうのしても許してあげます。特別ですよ」
ゆいちゃが自分の胸に手を当てながら、しっとりとした声で言ってきた。
「えっ・・・それってどうゆう・・・」
「へへへ。冗談に決まってるじゃないですか」
「・・・・・・」
俺、ちょろすぎる。秒で立場が逆転してる。
「よーし」
ゆいちゃが勢いをつけて立ち上がった。
「これでみんな水着合わせできたし、海に行くのが楽しみですね」
「うん・・・」
ドアから出ていったのを確認して、ふっとソファーに横になった。
勝敗はないのに負けた気分だ。




