76 ゆいちゃはご立腹
「えーさとるくん、誕生日配信リアタイしてくれないんですか?」
「ごめんごめんって」
ゆいちゃが頬を膨らませて詰め寄ってきた。
久しぶりにゴリラの被り物を付けている。
「しょうがないから、ね、ゆいちゃ。琴美ちゃんのお願いなんだから」
「むむ・・・・でも・・・でも・・・誕生日は特別ですよ。特別なのに、他のVtuberの子を優先させるだなんて」
「琴美の頼みで仕方なくだって。俺だってみんなの配信のほう見たかったよ」
ゆいちゃの誕生日配信リアタイできないことを伝えると、数分後、ゆいちゃが家に突入してきた。
後ろから付いてきたりこたんが必死に宥めていた。
まさか、こんなに怒られるとは思わなかった。
ベッドにはあいみんの抱き枕があるんだけど・・・全然、気づいてる素振りないからいいか。
「ほら、MV配信はなるべくリアタイできるようにするから。誕生日配信が19時半からで、ちょうどライブと被っちゃうんだよ」
「・・・・りこたーん。さとるくんがひどいよー」
「よしよし」
ソファーに座っていたりこたんに飛び込んでいた。
りこたんがそっと、ゆいちゃの被り物を取る。
「Japan アイドル音楽ライブだけど、そのVtuberのみゅうみゅうって子が出るのよね?」
「あぁ、ゲストとはいえ、Vtuberのライブって見たことないし。みんなが呼ばれたときの参考になるかもしれないと思ってさ」
「でもでも、あいみさんだったら、あいみさんの誕生日優先させるくせに」
ゆいちゃが、ビシっと指さしてきた。
うっ・・・推しの生誕祭と妹の頼み・・・。
ストレートに推し、と言いたいところなんだが・・・。
「はぁ・・・。それでも、琴美を優先させるよ。あいつ性格の悪いリア充だけど、なかなか友達との仲も続かないんだ。そんな妹の数少ない交友関係維持のためだからさ、ごめんな」
「・・・・・・」
ゆいちゃの隣に座った。まだ膨れてる、全然機嫌が直らない。
りこたんが口に手を当てて少し悩んでから、何かひらめいたような表情をした。
「そうね・・・じゃあ、今から数分間さとるくんがゆいちゃの言うことを絶対聞くっていうのは? 誕生日先取り、王様ゲームみたいな」
「えっ!?」
「楽しそうですー。それでチャラにしてあげます」
ゆいちゃがぱぁっと明るくなって顔を上げた。
「・・・・・・・・」
にやりと笑う。りこたんが申し訳なさそうにこちらを見てきた。
コンビニで美味しいスイーツ買ってくるとかか、ゲームやるとかか・・・。
まぁ、そんなことで機嫌が良くなるならな。
・・・・で、俺は今、目隠しされて、両手を後ろに縛られて、自分の部屋の床に座らされている。
全然許す気ねーじゃん。
俺、今から何されるの? めちゃくちゃ怖いんだけど。
「さとるくん・・・大丈夫なの?」
「うん、数分後には戻るから」
りこたんが心配そうに声をかけている。ドアがばたんと閉まる音がした。
ゆいちゃがぺたぺた歩いてくる。
何も見えない。さすがに緊張感が・・・。
「へへへ。一度こうゆうのやってみたかったんです」
「どうゆう趣味持ってるんだよ。まだ未成年だろ?」
「何か言いましたか? 駄目ですよ、王様は私です」
頬をすうっと撫でてくる。
「さとるくん、私は今、さとるくんと二人きりなんですよ。パァンって叩いても、誰も気づかないんですよ」
「だから、マジで怖いって・・・」
「ふふっ・・・なんか面白いです」
パンっと手を叩いて、楽しそうにからかってくる。
ゆいちゃの声だから、悪女になり切れてないというか、ちょっと間抜けな感じなんだよな。
「安心してください、私はあいみさん大好きなのでそんなことしないです。ちょっと意地悪いことしたいだけですよ。えっと、あとは何しようかなー」
ごそっごそごそ・・・。
なんか、クローゼットの中とか見られてる気がする。
やばい、まずい。嫌な予感がする。
「えっ、ゆいちゃ? 何して・・・」
「さとるくん・・・これは、かなりエッチですね。はっ・・・ベッドにまで・・・」
「ちょ・・・・」
顔が沸騰しそうなくらいあっつくなった。
「はわっ・・・こんな、刺激的な・・・」
「わわ、わかったから。もう見るなって」
もうライフゼロだ。
先週、買ってしまった同人のミニタペストリーは完全に18禁だ。
しかもあいみんだけじゃなく、4人が描いてあるっていう、もうアウトなやつだ。
終わった。俺の推し事が終わった。
「・・・・・・・」
「おーいおーい」
放心状態でいると、ゆいちゃが目隠しを外してきた。
「大丈夫ですかー?」
「はい・・・・」
俯いて目を逸らす。
「さとるくん、私のこんな姿を見たいなんて願望があったんですか?」
「・・・・・・それは・・・」
例のタペストリーを横に置かれた。
「かなりエッチですね」
「・・・・・・」
死にたい。女子に性癖がばれるとか・・・。
「安心してください。誰にも言わないですし、こんなことで引かないですよ。まぁ、これは私が18歳になってもアウトっぽいですけど」
「すみません・・・でも、俺も健全な男なんで。これくらい持ってて当然というか」
「はい、スレスレですが、情状酌量の余地ありです」
「・・・・・・調子乗りすぎました」
ゆいちゃが目の前にぺたんと座ってきた。手を縛っていた縄を解く。
「こっちこそ、ごめんなさい。私の誕生日配信忘れちゃったのかと思って、ちょっと意地悪しすぎました。クローゼットの中見ちゃったのは、やり過ぎました。本当に反省してます」
「いや・・・えっと・・・」
「それに、女の子だって、こうゆう願望あったりするんですから、堂々とするのはどうかと思いますけど・・・でも、そんなに落ち込む必要ないですよ。当然のことですよ」
ゆいちゃに頭を撫でられる。
ミニスカートのレースが少し捲れていた。
「まだ、落ち込んでます?」
「そりゃ・・・・・・反省して」
「・・・うーん・・・本当に気にしないのに」
「プライドの問題で・・・」
真っ白な首筋をぽりぽり掻いている。
「・・・じゃあ、私のちょっと恥ずかしい性癖をさとるくんにだけ教えます。絶対内緒ですからね」
ゆいちゃが耳元に口を近づけてきた。
あーなって、こうなって・・・そうゆうのを・・・・。
「だから・・・・」
えっっっっっっっっっっっっ。
「・・・が好きなんです・・・で・・・」
おっ・・・・。
えっっっっっっっっっっっっっっっっ!?
ぱっと離れると、右耳を押さえた。
ゆいちゃが全身真っ赤にして、汗をかきながらこちらを見つめる。
「はいっ・・・これでチャラです。さとるくんのこれだって私は何も言えないのです」
「あぁっ・・・うん・・・」
あまりの、ハードなシチュエーションにドキドキしていた。心音がやばい。
18歳未満アウトなやつじゃん。この子、18歳なのに・・・。
色々と絵が浮かんでしまい、固まってしまった。
「あー、さとるくん想像してますね」
「だって・・・・・・」
「想像はなしです。想像禁止です。とにかく、そうゆうことなので、色々見ちゃったのは許してくださいね」
タペストリーなんて可愛いものだった。
というか、聞いていいものだったのか? こんな話。
「ゆ・・・・ゆいちゃって、彼氏とかいたことあるの?」
「無いですよ。全然っ・・・妄想です。全部妄想。妄想だからすごくなっちゃうんです。ちょーっとだけエッチなことに興味があるだけです。もうっ・・・恥ずかしいことをさらけ出したのですから性癖の話は無しです。おしまいです」
ゆいちゃが早口で言って、立ち上がった。
「わ・・・わかった・・・」
「でも、さとるくんがそうゆうことしたいって思ったら、してもいいですよー。私、あいみさんたちの次にさとるくんが好きですから」
ちょっと屈んで髪を耳にかける。
「もう・・・からかうなって、わかったから勘弁してくれ」
「へへへ、楽しかったです。じゃあ、また配信見に来てくださいね。誕生日配信来れないのは、仕方ないことにしますので」
へらっと笑って、家から出ていった。
ゆいちゃが・・・意外だった・・・。
でも、今日のことはとりあえずセーフってことになったな。




