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俺の推しは裏切らない!  作者: ゆき
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73 Youtuberサークルに入ります

 食堂でノートパソコンで動画編集ツールを起動していると、結城さんが覗き込んできた。

「磯崎君ノートPCも持ってたんだ」

「親父のおさがりな。スペックいいからもらったけど、古くて」

 シフトキーが押しにくいし、ctrlキーとfnキーが逆っていう、キーボード操作には多少難があったけど・・・。

 アイパッドで動画編集するのは、さすがにきついもんな。不可能ではないんだろうけど。


「昨日送った動画ファイルは全部見れた? 重かったから、圧縮して3回に分けて送っちゃったけど」

「もちろん、動画ファイル重いよね」


 方耳にイヤホンを差して音楽を聴きながら、結城さんがイメージと秒数を書いた紙と照らし合わせていた。

 大体はぴったりで、パズルを当てはめていくような感覚だった。

「これ、りこたんから勧められたツールなんだけど、すごく使いやすくて」

「あ、XOXOも使ってるらしいもんね」

「・・・そうなんだ」

 あいつら、よく見ると文字の出し方とか、目につくものがあるんだよな。

 敬遠されがちな勉強アカウントでも、たまに面白そうな企画を出して、琴美とかファンのニーズにあっているし。


 最初は、胡散臭いアイドルグループだと思ってたけど・・・。

 見えないところで、努力してるんだろうな。


「今回はあまり時間かけずに、作れそうだよ。結城監督の指示も完璧だしね」

「もう・・・監督だなんて止めてってば。2人で監督でしょ」

 動画の素材も曲も結城さんとりこたんの指示も完璧すぎて、今回の俺、マジで仕事してない。

 あいみんとゆいちゃの動画撮って、音出ししただけだし。


 スパチャ以外の方法で、推しを応援するって誓ったばかりなのに。



「私、そろそろ行かなきゃ。ごめんね、任せちゃって」

「うん。磯崎君は?」

「3限は休み、4限から出るよ」

「その秒数とか、ちょっと間違ってるかも。字汚くて見にくいかもしれないけど、何かわからなかったら連絡して」

「うん」

 結城さんが、小走りで食堂を出ていった。

 


 

 しばらく、動画を編集していた。

 動画を見るほど、可愛いだけじゃない4人の空気とか素直なところとか、良さがものすごく伝わる。この動画は伸びるだろうなって思いながら作業していた。


写り混んでしまった人は消して・・・と。


「ねぇねぇ、君、動画とか編集してるん? 得意なん?」

 慌てて、猫の動画に差し替える。


「えっ・・・あっと、知り合いの動画の編集頼まれてまして・・・」

「そっか、Youtuberとして動画投稿してるわけじゃないんやな。1年生やろ、まさか4年・・・ではないよな?」

「1年生です」

「そんならよかった」

 後ろから男子学生に声をかけられた。



「俺たち、Youtuberやってるサークルなんだけど、入らへん? 編集するのに人足りなくて」

「Youtuber、のサークル・・・ですか?」

 顔を上げる。


 見た目は陽キャ・・・うーん・・・陰キャっぽい気もするんだけど。

 見分けがつかないな。

 Youtuberって誰でもなれるもんなのか?

 

「やっぱり、興味あるんやな? 説明するわ」

「いや、俺、音楽とか何か才能あるわけじゃないんで・・・」


「才能はみんな一つくらいは何かあるやろ。俺たちがやってるのは主に企画動画や。学生向けの。大学生ってこんなんやで、とか、一発撮りでどこまで歌えるかとか、あとオタ語りとか・・・」

 何も言っていないのに、どんと横に座ってカバンからタブレットを出して説明してくる。

 『もちもちサークル』というチャンネル名でやっているらしい。


 チャンネル登録者数は現在7万人、1年続けているのにパグの動画に数日で抜かされたと文句を言っていた。 

 どこかで聞いたことあるような名前だったけど、高校の時は佐倉みいなばかり見ていたし、今はあいみんばかりだったし、志望する大学にそんなサークルがあるとも知らなかったな。






 ・・・・結局、全然動画編集が進まなかった。


 ドアを開けて、ベッドに倒れこむ。

 『もちもちサークル』略してもちサーの話を聞いて、メールアドレスとLineIDまで交換してしまった。

 あの花澤って男、大学3年生らしい。

 普段、あまりしゃべらないと言っていたが、絶対嘘だ。あんなにしゃべる人間見たことなかったから圧倒されてしまった。


「おっかえりなさーい。さとるくーん」

 あいみんが家の中に入ってきた。

 体を起こす。


「あいみん、どうしたの?」

「外から、さとるくんがこっちに来るの見えたから、帰ってくるーって思っておじゃましたよ」

 髪をふわふわさせながら揺れていた。


「動画、動画、どうどう? 順調?」

 白いブラウスのレースを触りながら、ソファーに座っていた。

 ノートパソコンを出して、椅子に座る。


「結城さんが書いた紙があるし、りこたんから聞いた動画編集ソフトも使いやすいから、一応順調だよ」

「そっかそっか、よかった」

 あいみんが頬を上げていた。


「みらーじゅ都市のAIロボットくんたちにも定点撮りのダンス動画見てもらったんだけど、評判良くてね・・・」


 ふと、Youtuberになったらあいみんが抱えている問題とか、気にしていることとか、理解できるんじゃないかって思った。

 でも、イケメンじゃないし、特に何か取り柄があるわけでもないから、『もちもちサークル』でYoutuberになったところで足を引っ張るだけじゃないかもしれない。


 今一歩、決断ができないな。



「あれ? さとるくん聞いてる?」

「ごめんごめん、考え事してた・・・」

「どうしたの、何か悩み事でもあるの?」

 あいみんが眉を下げて立ち上がった。


「相談に乗るよ。私は何があっても、さとるくんの味方だよ」

 心配そうに近づいてくる。

 こんな可愛い推しがいつもいてくれるんだもん、俺って恵まれてるよな。 


「・・・大学の先輩にYoutuberサークルに入らないかって誘われたんだよ」


「えぇっ!? さとるくんがYoutuber?」


 目をまん丸にして驚いていた。

 そりゃそうだよな。

 誰から見ても、何か特技があるわけでも、イケメンなわけでもないし。




「動画編集してたら声かけられたんだ。Youtuberって動画編集の技術もセンスも必要らしくて、まぁ、正直全然自信はないんだけど・・・」

「やりなよ。さとるくん」

「え?」

 あいみんが手を握り締めてきた。


「やらないで後悔するより、やって後悔したほうがいいよ。さとるくんならできるって。私はVtuberだし、いろんな意見があるけど、やっててよかったって思うほうが多いもん」

 芯の通った声で話す。


「私もね、本当はみらーじゅ都市からこっちの世界に配信するってすごく怖いことで・・・だって、みんな悪口とか言ってくるって聞いてたし。傷つくだろうなって・・・でも、今では応援してくれてる人も増えて」

「・・・・・」

 ブラウスの裾をくるくる丸めながら話す。


「今振り返るとね、あの時、やろうって決断できなかったときのほうが怖いなって。こうやってさとるくんにも会えなかったし、武道館ライブなんて目指そうとも思わなかったし。本当に本当に、やってよかったなって」

 あいみんの話を聞いてると、沸々と勇気が湧いてくる。

 俺でも何かできるんじゃないかって思うんだよな。



「わかった。やってみるよ、俺」


「本当・・・?」

「あいみんの話聞いてたらさ、迷うくらいならやって後悔したほうがいいなって。学生のうちしかこんなに自由に決断できる時間ないもんな」

「やったー、『もちもちサークル』、私もチャンネル登録しておくね」

 あいみんがぴょんと跳ねて喜んでいた。


「推しの前で、やるって言ったんだからね。男に二言はなしだよ」

「わかってるって」

 後で、花澤さんに入部しますって返信しておこう。

 あの勢いだと、もう、入るって思ってるかもしれないけど。


「へへへ、みんなにも教えてくるね。嬉しいな、さとるくんがYoutuberの世界へ」

 軽くスキップしながら、ドアのほうへ歩いていく。

「あ・・・・」

 バタンとドアが閉まる。

 どうしてそんなに嬉しそうなんだろう。


 自分たちの動画が楽しみなのか、俺がYoutuberになるのがいいのか・・・。

とりあえず、色々あいみんが応援してくれてるんだし、俺も色々調べなきゃな。

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