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俺の推しは裏切らない!  作者: ゆき
73/183

72 山下公園で撮影

「はい、結城さんの分」

「ありがとう」

 ペットボトルのお茶を渡す。


 ベンチに座って、お茶を飲みながら、ひと休みしていた。

 横浜の山下公園に来ている、結城さんが選んだ海や船の見える撮影場所だ。


 芝生のところで、あいみんたちがストレッチしたり寝転がったりしている。

 潮風が気持ちよかった。


「磯崎君、今日3,4限とってなかった?」

「3限は出席取らないし、予習はしてるから、次の授業のときなんとか頑張るよ。マジで友達いないから、ノートとか大変なんだけどな」

「私もだよ。4限はたまたま休講でよかったけどね。こんなに天気いい日に撮らないわけにいかないよ」

 ふぅっと息を付いていた。


 昨日の日曜日撮影する予定だったけど、曇りと雨になってしまい、急遽日程をずらしていた。

 でも、平日のほうが人通りが少なくて、撮影しやすそうだな。


「今日は、配信の日だから、早めに撮り終われるといいんだけど」

「うん」

 のんのんがゆいちゃに背中を押されてストレッチしていた。

 あいみんとりこたんが軽く振りのチェックをしている。


「音は小さく流して、後で音を被せるから」

「そうね。あ、そういえば、磯崎君が撮ったクレープの動画すごくよかったね。ショーウィンドウよりもそっち使ったほうが2人の自然な笑顔が出ていてよかったんじゃないかな?」

「そう? あいみんは、口にクリームついてるから気にしてたんだけど・・・」


「そこが可愛いじゃん」


 結城さんが強く言ってきた。

 だよな、だよな。心の中でガッツポーズを取っていた。


「結城さんもりこたんとのんのんの動画すごくいいじゃん。風が吹いて髪が靡いてるところとか、アニメみたいに見えたよ」

「よかった。ありがとう」

 嬉しそうに微笑んだ。


「大変だったでしょ。あんな程よい風とかなかなか起きないし、カメラワークもいいし」

「あ、風はお兄ちゃんのTシャツで起こしてたんだけどね。ビルの屋上意外と風が無いの想定外で、うちわとか全然用意してなくて・・・。でも、カメラワークは私だよ」


 茶を噴きそうになった。


「・・・・・・・」

 さらっと言ったが、すごい光景しか浮かばない。

 え? あの人、上裸になってTシャツ振り回してたってこと?

 ちょっと意味わからないけど、多分撮影現場はカオスだな。


「け・・・啓介さん、いいお兄ちゃんだね」

「いいかどうかはわからないけど、こうゆうときだけはいてよかったと思ってるよ。だけはね。普段は、面倒だからいい」

 結城さんが”だけ”を強調していたけど、照れ隠しだろうな。

 俺も琴美にまんまと乗せられたら、迷いなく同じ行動しそうだし。




「なーに話してるの? さとるくん」

 あいみんが後ろから顔を出してきた。


「ほら、あいみ。ちゃんと草払わないと」

「わっ、こんなに付いてた」

 のんのんがあいみんの服の背中に付いた草を払っていた。



「体も温まったし。とりあえず、軽く踊ってみましょうか。ここがセンターでバミリの石置いておきますね」

 ゆいちゃがかがんで小石を置いていた。

「MVはラスサビからダンスになるんですよね?」

「うん。そのつもりだよ」


「わかりました。ここで~の少し前のところからかけましょうか。あ、でも、フォーメーションとか見たことありませんよね?」

「・・・うん」

「じゃあ、きっと一度見たほうがいいですね。フルでいきましょう」

 珍しくてきぱき動いていた。


 そっか・・・。

 武道館ライブをしたいって、最初はゆいちゃだけの夢だったもんな。



「皆さん、準備はいいですか」

「はーい」

 あいみんが大きく手を上げる。4人が位置に付いていた。


「さとるくん、音出しお願いします」

「あ・・・あぁ」

 さっき送られてきた、4人で『三原色』をカバーした音源をかける。




 あいみんを中心にみんなの表情が変わった。

 小さく口ずさみながら、歌詞によって、表現を変えて踊っている。

 4人の声にぴったりだ。ハモリも音程が取れているし、ダンスも手の高さまで揃ってる。


「これは、定点のダンスバージョンとMVバージョンを作ったほうがいいかもね」

 結城さんが小さく呟いていた。何回も頷いて同意する。

「あんなに配信で忙しかったのに、練習してたんだな」

「うん・・・」

 楽しそうに踊る4人を正面から眺めていた。



「どうだった? どうだった?」

 音が終わるとすぐに、あいみんが駆け寄ってきた。

「本当に良かったよ」

「やったー。外で踊るの初めてだから緊張したけど、なんか楽しくなっちゃって」

 嬉しそうに微笑んで、両手を上げていた。

「うん。定点とMVバージョン撮りたいんだけどいいかな? 今のを見て、MVだけだともったいないなって」

 結城さんが立ち上がった。


「もちろん。ねぇ、みんな、次、定点で、MVバージョンと別々に撮るって」


「私も踊れてたかしら? 鏡が無いとフォーメーション間違いそうになっちゃって」

 りこたんが不安そうにしながら結城さんに聞いていた。

「大丈夫。みんな揃ってたよ」

「そう・・・? よかった」

 定点撮りの準備してくると言って、結城さんがカバンから三脚を出していた。



 



「結城さん体固いですね」

「ははは・・・運動、苦手で」

「大丈夫です。私がこうやって押せば・・・」

「ゆ、ゆいちゃ・・・いたた」

 結城さんがゆいちゃに誘われて、芝生でストレッチをしていた。

 りこたんが隣でクスクス笑っている。


 MV撮影のときのあいみんの動画を何度も見直していた。

 素直で、キラキラしていて、歌もダンスも上手い、人気Vtuberの理由が凝縮されていた。

 この、動画2本を出したら、もっともっと『VDPプロジェクト』を見る人が出てくるだろうな。


「さとるくん、何してるの?」

 隣に座ってきた。スマホを覗き込んでくる。


「ほら、さっき撮った動画見返してたんだよ。どこをどう編集しようかなって」

「さとるくんが作るなら何でも大丈夫」

「確かにな。こんなに素材がいいんだもん、いいものができるに決まってるよな」

「違うよ。さとるくんが作るからいいものになるんだよ」

 あいみんがにこにこしながら言っていた。


 こんなに可愛くて一生懸命で人気者なんだから、いつか遠くに行っちゃうんじゃないかって思うよな。


「・・・・・・・」

「さとるくん?」

「あぁ・・・えっと・・・ここの部分とか特によくて・・」


「これ貰っていい? のど乾いちゃった」

 あいみんが横に置いていたペットボトルを取った。


「あ、それ俺の・・・」

「私のなくなっちゃったの。一口頂戴」

 ペットボトルの蓋を取って、一気に飲んでいた。


「ふはぁ・・・ありがとう。はい」

「うん・・・・・・」

 戸惑いながら受けとると、あいみんが立ち上がった。


「今のは完全に間接キスだね。他の人としちゃだめだよ」

「っ・・・・・」

 手を後ろにやって、からかうような笑みを浮かべる。

 ドキッとする。ほんっと、可愛いよな。



「あー疲れたね。ねぇ、今日は甘いもの食べたい。パフェ食べて帰ろうよ」

「いいわね。私、ここ行きたかったの」

「りこたんは情報が速いですね。あ、結城さん、さっきよりも少し柔らかくなってますよ」

「本当?」

 結城さんがゆいちゃにストレッチ方法を習っていた。


「さとるくん、こうして2人で座ってるとデートみたいね」

「えっ?」

「海がきれい、あ、あの船どこにいくのかしら。ねぇ、夏になったら2人で海でも行かない? 新しい水着買ったの」

 のんのんが隣に座って、腕を組んできた。


「だめだめだめー。のんのんは油断も隙も無いんだから」

「あいみっ・・・」

 あいみんがのんのんを避けて、強引に間に座ってくる。

 ミツバチみたいにお尻をきゅきゅっとさせていた。



「2人で夏の計画立てようと思ってたのに・・・」

「さとるくんは私推しなの」

「付き合ってるわけじゃないでしょ? おっぱいは無い癖にお尻だけは大きいんだから」

「いいもん。おっぱいだって、前より少しずつ少しずつ大きくなってるんだもん」

 のんのんが頬を膨らませて、あいみんの脇腹を突く。

 体がびくんとして、こちらに倒れそうになってきた。

「ひゃあっ」

「あいみん」

 真っ先に人目を気にしてしまったけど・・・。

 なんかカップルの多い場所だな、ここ・・・。

 両脇共に、鬱陶しいほどイチャイチャしていて、誰もこっちを見ている人なんていなかった。


「のんのん、もう、そこ弱いんだから止めてってば」

「さっきの、お返しよ」

「ほらほら、喧嘩しないで早くパフェ食べて帰るよ。今日は配信があるんだから」

 りこたんが言うと、2人がしぶしぶ立ち上がった。


「・・・・・・・」

 遠くに行ってしまったと思っていたけど・・・。

 いつの間にか、いつもの4人に戻っていた。 

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