69 動物コスが尊い
『みんないつも応援してくれてありがとう。また、深夜の6時間配信してほしい? そっかぁ、じゃあまた企画しちゃおうかな』
あいみんが画面の向こうで手を振っていた。
今日は着ぐるみ配信で、トラのコスプレをしていた。
お腹を出していて、ショートパンツで、少し露出が高い気がするけど・・・。
『がぉーがぉー、みなさんこの後のりこたん、ゆいちゃ、のんのんの配信も見てね。見なきゃ、飛びついちゃうから。がぉーがぉー』
・・・・可愛いから、どうでもいいや。
配信が終わったところで、もう一度戻ってスクショを撮っていく。
誰か同人でもいいから、グッズ作ってくれないかな。
俺に絵を描く才能があったら・・・。
巻き戻して・・・と。
『今日は何しようかな。ゲーム? うん、しよしよ。おすすめある?』
神回確定だな。これは。最初の照れているところも、余すことなく可愛い。
間近で見たら、失神するレベルだ。
「やほーさとるくん」
「あいみん!?」
椅子から転び落ちそうになった。
「そんなに驚く? さとるくんから連絡あったから来たのに。あ、トラのコス似合う?」
トラのコスプレしたあいみんが家に入ってきた。
尻尾を触りながら、回って見せてくる。
そうだ。配信のあまりの可愛さに忘れてたけど、俺が呼んだんだった。
「えっと・・・うん」
「何々? 何の話?」
「ほら、ロゴ紹介動画の話なんだけど・・・」
「うんうん。結城さんと話してくれた?」
可愛すぎて、頭が真っ白になる。
あいみんが、ソファーに座ってこちらを見上げていた。
「そ・・・そう、ロゴを最初に出してMVみたいに歌とダンスを入れたらどうかなって話になって」
「いいね。へへへ、私たちの歌とダンスの成果を見せるってことだ」
「結城さんが監督で、こっちの世界で撮りたいって言ってたんだけど・・・・」
「うん。任せて、4人の予定空けるから」
結城さんの想いとかも話すつもりだったのに省略してしまった。
あいみんが、コスしてくるなんて想定してなかったって。
結城さん、ごめん。
後でまとめてみんなに送っておくから。
「それで・・・あ、みゅうみゅうって知ってる? Vtuberなんだけど、ZEPPのライブにゲストとして呼ばれたらしくて」
「え、そうなの!? それはビックニュースだね。みんなにも伝えておくよ」
ぱっと明るくなった。
あれだけ、結城さんと熱く語ったんだから、ちゃんと、真面目に話さないとな。
一呼吸置く。
「こうやって、Vtuberが広まっていくといいなって話してて、MVの話が出たんだよね。ゲストでも出られたら、武道館ライブへの一歩じゃないかって。みゅうみゅうはMVをたくさん出していたらしくて、『VDPプロジェクト』もMVを出したら・・・」
バーン
突然、ドアが開く。
「あいみさん、やっぱりここにいた」
オオカミのコスプレをしたゆいちゃが入ってきた。
ふさふさの尻尾を垂らしている。
「駄目ですよ。今日はコスプレしてるんですから、こっちの世界に来たら目立っちゃうじゃないですか」
「え、今日のコスって、ゆいちゃはゴリラじゃないの?」
「のんのんから絶対オオカミって指令が有ったのです。残念です」
しょぼんとしながら、あいみんのほうへ駆け寄っていった。
のんのん、マジでセンスいいな。
「ちなみにりこたんはペンギン、のんのんはウサギらしいです」
「りこたんのペンギン・・・結城さん、啓介さん歓喜だろうな・・・」
「結城さんと啓介さんが限界オタしてるところも見てみたいなぁ」
あいみんがさらりとすごいことを言った。
オタの勢い、配信者が思っている以上だからな。
「それに、こんな格好で言って、さとるくんが急にオオカミになっちゃったらどうするんですか?」
「えっ・・・」
「こうやって、グルルルルルルって」
「きゃははは、止めてってば。くすぐったい」
ゆいちゃがあいみんをくすぐっていた。足をばたばたさせて笑っていた。
「私だって、トラなんだからね。がおー、がおー」
「ひゃははは、あいみさん、止めてください」
あいみんがゆいちゃをくすぐり返している。
何この尊い時間。動物のじゃれあいみたいになってる。
「ゆいちゃ、力が強いって」
「だって、オオカミだもん。ふふん、さとるくん、羨ましいですか?」
ゆいちゃが得意げな顔でこちらを見てきた。
「さとるくんはそんなことしてこないもん」
「・・・・・・・・」
あいみんと良好な関係を築きたいからな。
変われるなら、ゆいちゃの位置に移動したい。
「あいみさんもわかってないですね。男の人はオオカミなのですよ。いつこんな風に襲ってくるかわからないのですから」
「あっ・・・もうゆいちゃってば・・・・」
ゆいちゃが勢いよくあいみんに抱きついて押し倒す。
「ふわぁ・・・あいみさんのおっぱい柔らかいです。食べちゃいたいです」
「・・・はうん・・・・」
「いい反応ですね。噛みついちゃいます。オオカミなので」
「ゆいちゃ、力が、あっ・・・・・」
ゆいちゃが、あいみんの髪に鼻をくんくんさせていた。
なんかめちゃくちゃエロい。
へっへっへと笑って、あいみんのおっぱいに顔をうずめようとしたとき・・・。
「!」
あいみんが、一瞬こちらを見て、ゆいちゃの頬を両手で軽く叩いた。
「もう、さとるくんの前では、そうゆうのしないって約束したでしょ」
「はっ・・・そうでした。オオカミになりきってしまいました」
ゆいちゃが、ぱっと離れてソファーに正座していた。
「すみません・・・だって、あいみさんあまりに可愛いから。ねぇ、さとるくん」
「え・・・うん・・・」
急にキラーパス出してきた。
「・・・さとるくんまで・・・んと・・・」
えぐいって。
今の状況じゃ、どう反応したらいいかわからん。
「ゆ、ゆいちゃも可愛いでしょ? この尻尾とか、えいっ」
あいみんがトラの手で、ゆいちゃの尻尾を掴んでいた。
「ひゃっ・・あいみさん」
「へへん。さっきのお返しだよ」
いたずらっぽく笑っていた。今の様子・・・動画に撮りたかった・・・。
バン
「のんのんっ」
「ゆい、ここにいた。オオカミの耳、綿出てきてるから縫い直さなきゃって言ったでしょ」
ゆいちゃとあいみんがすんとした。
「はい・・・」
「あいみも、コスすると、すぐテンション上がっちゃうんだから」
「はーい・・・」
のんのんが叱ると、二人ともしゅんとしていた。
ウサギにトラとオオカミが怒られてる・・・。
「ほら、ゆいちゃ、行くわよ。配信までに直してあげるから」
「うん・・・お願い」
のんのんがゆいちゃを連行していく。
「あ、さとるくん、私ウサギのコスするからぜーったいリアタイしてね」
「う・・・うん」
「絶対可愛いから。きっと、私が4人の中で1番よ」
のんのんがにこっとしてくる。
「あーゆいちゃ、よく見たら、手の部分もほつれてる。ダメって言ったのに、はしゃいでたでしょ。すぐ雰囲気に乗っちゃうんだから」
「楽しくなっちゃって。さとるくん私の配信も見ー・・・あっ」
ゆいちゃが話している途中でドアをばたんと閉められてしまった。
「・・・・・・」
「・・・・・・・」
あいみんが座りなおしていた。俯いて、少し恥ずかしそうにしている。
「・・・それで・・・なんの話だっけ?」
「えっと・・・・えっと・・・」
何もかもぶっ飛んでいた。
すげー真面目な話してた気がする。
「あっ・・・さとるくんがオオカミになるって話だったよね」
「えっ!?」
そんなぶっ飛んだ話していない。
「さとるくんがオオカミになっても、今、私のほうが強いんだからね。がおー」
あいみんが両手を上げて、トラのポーズを取って立ち上がった。
キリッとした表情を作って、歯を見せてくる。
「・・・・・・・・・・」
唐突な可愛さに硬直してしまった。
よく見ると、着衣乱れというか・・・ゆいちゃ、やってくれたな。
「さとるくん、顔真っ赤だよ。こっちまで恥ずかしくなってきた」
「だ、だって・・・」
椅子からずり落ちそうになる。
「んんー今日はもう帰る。DMで話聞くから・・・」
トラの手で顔を隠しながら、体を振っていた。
「今日は、トラのコスする日だから、動物っぽく演技してたんだからね。いつも真面目なんだから」
「わかってるわかってる」
あいみんが強めに言ってからドアのほうに走っていった。
「がおーがおー。がおー。にゃーじゃないよね」
尻尾を触って、ぶつぶつ独り言を言いながら、家から出ていった。
数分後、りこたんのペンギンのコスプレで、限界オタになった結城さんから、文字数いっぱいのDMが届いていた。安月さんからもLINEが届くだろうな・・・。
ため息をつく。
明日、お互い正気に戻ってからMVの話をしたほうが良さそうだ。




