67 スパチャ以外にできること
今日は重要な日だ。
スマホアプリで自分の口座を確認する。バイトの給料が6万円入っていた。
仕送りがあるとはいえ、かなり厳しい状況だが・・・。
スパチャ、してみたいんだよな。
100円からでもできるっていうし・・・。
未成年だからちょっとハードルが高いけど、できる方法も書いてあるし。
ただ、欲しいグッズもたくさんある。
食費もかかるし、水光熱費、スマホ代もかかる。
スパチャは一度やりだすと、止まらなくなりそうで手を出せないんだよな。
あいみんの可愛さが100円だと済みそうにない・・・・。
「さとるくーん」
どこからともなくあいみんの声が聞こえる。
幻聴か? まぁ、あれだけ毎日あいみんの声を聴いていればな。
「おーい、おーい」
アパートに近づくにつれて、大きくなってくる。
まさか・・・。
「あ、やっと気づいた。おーい、さとるくーん」
「っ・・・?」
ぱっと見上げると、あいみんがベランダから身を乗り出して、手を振っていた。
危ないだろ。これは。
走ってアパートの階段を駆け上がる。
ピンポーン
「はーい」
あいみんがにこにこしながら出てきた。
「早かったね。走ってきたの?」
「あいみん、外で大声出すのは危ないから・・・ほら、どこにあいみんのファンがいて、みんながいいファンだとは限らないからさ・・・・」
息切れしながら、壁に手を付いた。
あまり運動していないせいか、少しくらくらした。
「悪いファンもいるの?」
あいみんが首を傾げて、ドアを閉める。
「ファンだったのにアンチになるとかいろいろあるだろ。あいみん、最近知名度上がってるんだから、ここに住んでるって知られたら、ストーカーみたいなことしてくる人もいるかもしれないし」
「そっか・・・そうだよね・・・」
腕を掴んで、ハッとしていた。
「気を付ける」
「うん、俺も変な奴がうろうろしないか見るように・・・って、りこたん。久しぶり」
りこたんが、絨毯に正座していた。
かなり久しぶりに会った気がする。
「さとるくん上がって、上がって」
「あ、あぁ。おじゃまします」
あいみんが服を抓んで引っ張ってきた。
「・・・・・・・・」
りこたんが顔を真っ赤にしてふるふるしていた。
「ど、どうしたの? りこたん」
「その、飲み会のときは大変失礼しました」
「えっ?」
「だって、すごく迷惑かけちゃったから。泣いたり笑ったり怒ったり、めちゃくちゃで、変な姿見られちゃったし」
かしこまって頭を下げてきた。
「恥ずかしくて・・・」
泣きそうになりながら呟く。
りこたんは本当に真面目だよな。
「いやいやいや、もう忘れたから。本当、全然何もなかったから。結城さんなんてりこたんと連絡取
れないことのほうが心配してるよ」
「そう・・・・・・・?」
「うん。何も気にしてないよ」
何度も頷いた。
「ほら、さとるくん、もう忘れたって。飲み会のことは全然覚えてないって。私たちが酔っていたこと覚えてないみたいな感じで忘れちゃったんだよ」
「・・・・・・・・」
そこまでは言っていない。
あいみんの酔っている姿だけは完全に記憶しているし、絶対忘れられない。
脳内のメモリに深く記録されている。
あいみんがりこたんの横に座って、背中をぽんぽんと叩いた。
「うん、じゃあこの話はもうなかったことにする。よかった」
りこたんがパンっと頬を叩いた。
「そんなことよりも、さとるくん、さっきはにやにやしながらスマホ見てたけど何見てたの? 歩きながらスマホを見てると危ないのに」
「っ・・・・・」
そんな、顔に出ていたか?
気持ち悪いって思われそうだ。マジで、気を付けないと。
「別に何でもないって。普通にニュース見てただけだよ」
「いかがわしいサイトでも見てたのかな? って思って。さとるくん意外とそうゆうの好きそうだから」
「まさか・・・」
「そうかなぁ?」
じとーッとした目で見てくる。
「本当のこと言わないなら、みらーじゅ都市の海開きしても、私の水着見せてあげないから」
「・・・・・・・」
「どうする? 本当にニュース見てたの?」
「うっ・・・・・・」
それは、痛い・・・。ダメージがでかい。
「はぁ・・・バイトの給料日だったんだよ。今日・・・」
「そうだったの?」
「うん。スパチャするかどうか迷ってたんだ。2人に言うのは変な話だけど、ほら、俺、まだ未成年だから・・・色々ハードル高くてさ」
あいみんとりこたんが顔を見合わせる。
「いいよ。気持ちだけで十分だから」
「そうだよ。さとるくん未成年だし、親の同意が無きゃダメでしょ? それに、色々、『VDPプロジェクト』のこと手伝ってもらってるし。たくさん応援してくれてるのわかってるし」
「そうそう、スパチャだけが応援じゃないのよ」
2人とも思いっきり首を振っていた。
「そうか・・・・」
「でも、そんなこと考えてくれてたの? 可愛いなぁ、よしよし」
あいみんが頭を撫でてきた。
「・・・・・・」
たまに年上ぶってくる。年上なんだけど・・・。
「でも、なんか応援したいんだよ。こう、目に見えるような形で、HPも作っちゃったし」
りこたんが座りなおす。
「難しいわね。結城さんも、さとるくんも、十分すぎるほど応援してくれてるから」
「そうそう、もう仲間って感じで・・・」
「仲間・・・・・」
じん・・・とする。
嬉しい言葉だな。結城さんにも伝えておこう。
「仲間なら、なおさら何かないかな? 俺もできることで」
「うーん・・・・あっ」
あいみんが思いついたような表情をする。
「ねぇねぇ、じゃあ、『VDPプロジェクト』の動画編集手伝ってもらおうよ」
「それはいいわね。もし、時間があればだけど・・・さとるくん、勉強も」
「いいよ。時間作るから、大丈夫」
前のめりになった。
「へへへ、ありがとう、さとるくん」
あいみんがにこっとする。
華奢な肩をくいっと上げてして、小動物みたいな動きをしていた。
これだけで、スパチャだったら相当投げてしまいそうだもん、危ないよな。
「どんな動画作るの?」
「今まで配信ばかりだったから・・・ロゴの発表動画作ろうと思って」
りこたんがアイパッドをスクロールしていた。
「あ、ロゴって誰のになったの?」
「はいはーい。私の、私の」
あいみんが手を上げて主張してきた。
「あ、結城さん以外は言っちゃ駄目だよ。ネタバレになっちゃうから」
「3万人も応募してくれたの。抽選で3名様に、サインをプリントしたタオルを送るつもりでね」
「そっか。そういや俺も結城さんも投票したよ」
あいみんが作成したロゴは真ん中にVDPとプリントされた可愛らしいロゴだった。
ハート(あいみん)、鍵、スペード(のんのん)、クローバー(ゆいちゃ)のモチーフが重なるようにして描かれている。
「さとるくんはもちろん私にでしょ?」
「えっと、俺も結城さんも、それぞれの推しに・・・」
「じゃあよし」
あいみんが満面の笑みを浮かべていた。
りこたんが、こちらを見てふふっと笑う。
「モチーフとかね、ここの輪っかの意味とか伝えたいなって思って。まだ『VDPプロジェクト』始動の動画しかなかったから、少し成果を見せたいのもあるの。私たちダンスも歌も途中だけど・・・」
あいみんがロゴをなぞって説明していた。
「確かにな。それぞれの配信で登録者は増えてるけど、目標は4人で武道館を目指すことだもんな」
「うん、そのために練習、頑張ってるもんね」
「そうね。私はみんなについていくのがやっとだけど、最近少しずつできるようになってきたの」
りこたんがふぅっと息をついた。
「じゃあ、さとるくん、監督よろしくね」
「え? 監督も俺がやるの?」
「うん、あっ、女性の意見も欲しいから結城さんと2人でお願い」
「大丈夫、さとるくんが作ったのなら絶対いいのに決まってる」
「・・・が・・・頑張るよ」
急に緊張してきた。
結城さんにDM送っておかなきゃな。忙しくなりそうだ。
4人の頑張りはいつも見てるし・・・。
スパチャできない分、俺たちにできることで推しへの応援しないと。




