表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の推しは裏切らない!  作者: ゆき
66/183

65 おひとり様沼へ入ります

「遅くなってすみません」

「いいよいいよ。忙しいのに来てくれてありがとう」

 店長が奥の席ですっかり酔っていた。

 メンバーは20人くらい・・・シフト表に書かれている人数より少し少ないくらいだ。

 安月さんがこちらにアイコンタクトをして頷いてきた。


 かなり、緊張するが、喜多さんに何気なく、一言、聞くだけだ。

 あいみんにも言われたし、頑張らないと。

 これから喜多さんに好きな人がいるのか聞くっていう、大切なミッションをこなさなければいけない。



「・・・ここ、いいですか?」

「いいですよ。磯崎君、初めましてですよね? 私、最近ホールに入った小野です」

 自然な感じで新人の子と会話しながら、喜多さんの隣の席に座れた。


 ここからが本番・・・。


「はーい、皆さんそろったので、私のほうから重大発表させていただきます」

 喜多さんがハイテンションで、その場で立ち上がった。


「何々ー?」

「ごほん・・・では・・・」

 店長がいいぞ、と拍手をしていた。


「私、名字が神田になります」


「え!?」


「・・・・・・・」

 一瞬、沈黙した。

「キッチンの神田さんと結婚することになりましたー」

「マジで?」


 ガッシャーン


 皿をひっくり返した人がいた。

 新人である俺を含め3人以外、全員が驚いている。


「曽我君ってば、驚きすぎでしょ」

 喜多さんがお腹を抱えて笑っていた。


「いや、だっていきなりすぎて、びっくりして・・・」

「マジの話なの?」


「そうそう、付き合って1年でゴールインすることになりました」

「おめでとう、喜多ちゃん」

「ありがとう、ありがとう」

 幸せそうにお酒を飲んでいた。


「やるじゃん、神田さん。おめでとう」

 小太りの神田さんが嬉しそうに頭を下げていた。


 マジか・・・こんな展開、予想してなかった。

 安月さんのほうを見れなかった。

 俺の役割、到着10秒で終わったんだけど・・・・。





「うぅ・・・・・」

「安月さん、水持ってきました」

 公園のベンチで項垂れた安月さんに水を渡していた。

 2次会には行かず、酔っぱらった安月さんに連れていかれた。 


 落ち込んでしまうと思ったら、1次会では変わらず、チャラい感じで女子に絡んでいて、なんだか苦手な印象だった。

 顔はいいから、女子もまんざらでもないし。

 多分、根本的に人種は違うと思うけど・・・今の状況を見るに、さっきまですごく無理してたんだろうな。


「ありがとう」

 水を受け取って、飲み干していた。

 顔が真っ青になっている。


「大丈夫ですか? 吐きます?」

「いや、大丈夫。ふらついてるだけだから」

 ペットボトルの蓋を閉めると、少し水がこぼれていた。


「えっと・・・・」

「好きな人がいるどころか、いきなり結婚? とか、ありえる? 全然気づかなかったし。まだ、学生なのに・・・彼氏がいることくらいは覚悟できても、結婚までは想定してなかったよ」

「はぁ・・・・」 

「今日は飲んで忘れるしかない・・・って、キッチンの神田さんか・・・。そこらの男だったら文句言えるんだけど・・・まさか、神田さんか・・・」

 顔はどう見ても安月さんのほうがイケメンなのに。

 見た目だったら、神田さんは俺寄りだと思っていた。


「付き合って1年って・・・出会ってすぐ、告白しておけばよかったな」

「仲いいことは知ってたんですか?」

「話してるところなんて見たことないよ。それがまた、しんどい・・・飲み会ではよくしゃべるのに、隠してたんだろうな」

「・・・・・・・」

 なんとなく、佐倉みいなの結婚を知った自分に似ていた。

 とか言ったら、かなり失礼なんだろうけど。


「安月さんなら、すぐ彼女もできますって。コミュ力もあるし、かっこいいですし・・・あと、後輩からも慕われてますし」

「男に言われてもな」

「・・・・・・・・」

 残念そうな目で見てくる。


 じゃあ、どう言えっていうんだよ。この状況。


「でも、ありがとな」

「・・・・・はい・・・」

 すん、となって、横に座る。


「合コンでもセッティングしてもらおうかな? 誘われてたんだけど、ずっとバイトが忙しいって断ってたんだよね」

 安月さんがシフトを入れてたのは喜多さんに会うためなんだもんな。


「・・・とはいえ、全然気持ちの切り替えできない。また、同じようなことになったらどうしようって。本当、女って信用できねぇよな」

 ペットボトルをぶらぶら振って、落ち込みっぱなしだ。

 さっきまで、テンション高かったのに・・・。


 どうにかして慰めてあげたかったけど、恋愛経験なさ過ぎてかける言葉が何も見つからない。


「磯崎君、失恋したことある?」

「もちろん、ありますよ。3年間推し続けたアイドルが結婚しました」

「・・・・・?」


 やべ、勢いで口が滑った。

 かなり、力を込めて言ってしまった。


「・・・いや、今の忘れてください」

「ハハ、それも失恋だよな。3年って俺が片思いした期間よりも全然長いじゃん。高校の3年間はでかいよな」

「はい・・・・・・・」

 否定されなくて、ほっとしていた。

 なんか、思ったよりもいい人かもしれない。


「今はなんか推しとかあるの?」

「・・・・他のバイトの人には言わないでくださいよ・・・・」


「わかってるって。俺も、こう見えて推しには理解があるから」

 スマホで『VDPプロジェクト』の画像を出した。

 一番、みんながキラキラしてるやつ・・・っと。


「これ『VDPプロジェクト』っていうVtuberなんですけど、この右の・・・」

「知ってる知ってる。あいみんだろ?」

「えっ?」

 スマホを覗き込みながら言う。


「俺はこの子が好みだね。のんのんの配信なら、勉強の合間に何度か見てるよ。可愛いよな」

「そ・・・そうですよね・・・」

「この前の6時間配信も見たよ。癒されるよな、動きも声も、めちゃくちゃ可愛いし。推す気持ちわかるよ」

 こんな身近に、『VDPプロジェクト』を知ってる人がいるとは・・・。

 すごく驚いていた。


 やっぱり、4人って有名なんだな。


「俺も失恋癒えるまでVtuber応援しようかな。彼女たちなら、裏切らないし」

「そうですよ」

 思わず立ち上がる。


「みんな一生懸命ですし、絶対応援してて損はないと思うんです。歌もダンスも練習して着実に武道館ライブを目指してて・・・」

「・・・・・・」

「・・・って、すみません。なんか急に、スイッチ入っちゃって」

 頭を掻いた。嬉しくて、やってしまった感が・・・。


「ハハ、いいじゃん。磯崎君面白いね」

「え?」

「そうゆう、正直な奴っていいよ。仲良くなれそうだな」

 太い眉を上げていた。


「俺も『VDPプロジェクト』推しになろうっと。のんのんみたいな子が現れるまで、のんのん推しになるわ。それに、俺、配信でのんのんにコメント読まれたことあるんだよね」

「そうなんですか?」

「そうそう。トマト煮込み料理作ってた配信で、俺も作ったことあるってコメントしたら、男の人も料理するなんて素敵ですねって」

「へぇ、いいですね」

 のんのんの料理配信、最初は塩対応って言われていたけど・・・。

 料理しながらだと、コメント読むのが大変って言ってた。最近は手が空いたときに一気に読むようにしているから、どんどんファンが増えていってるらしい。


「あれ、嬉しいよな。可愛いだろ? 俺の推し」

「・・・そうですね」

「ハハハハ、ロック画面ものんのんにしようっと。これは、沼にはまりそうだな」

 吹っ切れたように笑っていた。


「よし、そうと決まれば、まずはツイッターアカウントだな。実は、Vtuber推しのアカウントがあるんだよね」

「えっと、なんか意外ですね・・・・」


「そう?」

「だって、サークルにも入ってて女子の友達も多そうですし、てっきりVtuberに興味ないかと・・・・」

 安月さんがペットボトルを置いて伸びをした。


「だって、現実の女子とかぶっちゃけ何考えてるかわからないし、LINEとか送るのもこう送ったらどうとか、変な文送ったら晒されるんじゃないかとか、色々考えなきゃいけないし。バイトも勉強も忙しくて疲れてるんだからVtuber見て、癒されることだって結構あるよ」

 スマホを出してツイッターを開いていた。


「最推しは『VDPプロジェクト』の、のんのん、と。のんのん、エゴサするかな?」

「えっと・・・どうなんですかね?」

 確実にするってわかっていたけど、濁した。


「名前、覚えてもらえないかな。磯崎君もアカウント持ってるんだろ? 繋がろうぜ」

「はい、もちろん」

 アカウントを見せたら、フォロワーの500人という数に驚かれた。

 あいみん推しやってると、自然と増えていくんだよな。

 絵師とかすぐフォローしちゃうし、あいみんのいいところを書いてるアカウントとかも・・・。


 苦手なタイプだと思っていたけど、推しを通せば上手くやっていけそうだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ