64 4人の本音
外に出ると、結城さんが伸びをしていた。
「はぁ・・・みんなすごかったね」
「どっと疲れたよ。りこたん泣き出しちゃうし、あいみんは寝たままだし、のんのんはずっと絡んでくるし・・・でも、意外な一面を見れたな」
「楽しかったね。ゆいちゃがお茶飲んで一番落ち着いてるんだもん」
「ハハ、普段と逆転してたね」
4人とも酔ったらあんなふうになるのか・・・。
あいみんのキス顔が、めちゃくちゃ可愛かったけどな。
スクショ撮れるなら撮りたかった。
思い出すだけで、1週間アーカイブなしで生きていけそう・・・。
こんなの、絶対に本人に言えないけどさ。
「磯崎君はあいみんのこと、どう思った?」
「えっ? 何が?」
ギクッとする。
「ほら、結構寝たり起きたり繰り返して起きたりしてたでしょ。ふらっと少しだけ起きたときに言ってたこと覚えてる?」
「あぁ・・・えっと、片づけたりしてたからあまり・・・」
「そっか・・・」
キスしたかったってバレたのかと思って焦った。
「私に『誰かの役に立ってるのかな? このままみんなに忘れちゃったりしないかな?』って言ってきてね。あんなに着実に人気Vtuberになってるのにそう思うんだってびっくりしたの」
「・・・・・・・・・」
前から来た自転車を避けて、話を続ける。
「りこたんもずっとみんなに迷惑かけちゃったって泣いちゃうし。酔って泣いちゃうところもレアで可愛かったし、腕掴まれてりこたん慰める日がくるなんてもうギャップで悶えそうだったけど、まだ腕に感覚が残ってるし・・・」
「・・・・・・・」
深刻な話なのに、りこたんの話になると、いきなりオタクになっていく。
本人は気づいていないみたいだけど、結城さんって結構ディープな視点のオタクだからな。
「そんな深刻に考えることないんじゃない? みんな酔ってたんだし、ゆいちゃもちょっと思ったことでも大きく言っちゃうから気にしないでって言ってたじゃん」
「そうかなぁ・・・」
信号の前で止まって、ため息をつく。
夜風が、涼しくて気持ちよかった。
「・・・といっても、やっぱり、ファンとしては気にしちゃうよな」
「うん・・・みんなそうゆうの見せないから」
「・・・・・・」
気にしないでって言われても、ちょっと引っかかっていた。
心の中は結城さんと同じ気持ちだ。
「でも、私たちにできることはもっともっと応援することだよね。りこたんが不安に思わないくらいに」
「そうだな。ロゴができたら、『VDPプロジェクト』のグッズも作って、グッズ紹介とかも協力できたらいいな」
結城さんが何度も頷いた。
「学生だからできること限られてるけど、りこたんがちょっとでも不安に思わなくなるくらい、『VDPプロジェクト』を推していこうね」
「もちろん」
俺も結城さんも、ここ数週間で大分Vtuberについて詳しくなったと思う。
『VDPプロジェクト』の人気やいいところについて語り合っていると、いつの間にか駅の前まで来ていた。
「ここまでで大丈夫。送ってくれてありがとう」
駅の階段の前で、結城さんが立ち止まった。
「あぁ、気を付けてね」
「うん、後片付けお願いしちゃってごめんね」
「いいよ。俺、すぐ隣なんだから」
結城さんが、羨ましいな、と呟いて、バッグを持ち直した。
「また授業で。私、明日は2限からだけど、磯崎君は?」
「あ、やべ。俺1限だ」
「ふふ、頑張って。じゃあね」
軽く手を振って、スマホで時間を確認して階段を上がっていった。
完全に忘れてたけど、明日、普通に授業だった。
まだ、22時半だったけど、起きれるか心配だな。
「おじゃまします」
「あ、さとるくん、結城さん、電車の時間大丈夫でした?」
「かなり、余裕をもって出たから。全然問題ないはずだよ」
ゆいちゃがキッチンから顔を出していた。
「もう皿洗いは終わったのであとは掃除するだけです」
「ありがとう」
「いえいえ。いつものことですから」
あいみんとのんのんとりこたんが寝てしまっている。
ゴミ袋を持って、空き缶や割り箸を分別して入れていった。
「むにゃ・・・もう食べれない・・・」
あいみんが口をむにゃむにゃさせて、寝言を言っている。
「い・・・・いつもこんな感じなのか?」
「私たち4人だと・・・ですが。皆さん他の人と飲むことはないそうです。だから、さとるくんと結城さんが珍しいんですよ」
「そうなの?」
「みんな気を許した人とだけだそうです。まだ、お酒の飲み方わかってないからって」
「・・・そうなんだ」
ってことは、俺と結城さんには気を許してるのか。
結城さんに言ったら、喜ぶだろうな。
ゆいちゃが皿を拭きながらこちらを振り返る。
「あーっ、もしかして、さとるくん、あいみさんが誰にでもキス魔になるんじゃないかって不安に思ってます?」
「うっ・・・・・」
図星だ。
考えないようにしていたけど、もしXOXOと飲み会があってこんな風になってたらって・・・。
俺だから我慢できたけど、他の男なら・・・。
「あいみさんはそんな人じゃないです。酔っても、好きでもない人とキスしたがるわけないじゃないですか」
「えっ・・・」
「勘違いしないでください。あいみさんは、私にもキスしようとしてきますからね。さとるくんだけじゃないですから」
ぴしゃりと刺してくる。妄想の余地すらなかった。
「わ、わかってるって」
「ふふん・・・じゃあ、いいんですけど」
ゆいちゃがにやにやしている。
完全に弄ばれてるな・・・。
「でも、こうやっていつもお世話になってる3人の緩んだ顔を見るのは、なんだかほっとするんです。みんな最近忙しくて、プレッシャーもあるのに我慢して、頑張りすぎちゃうから」
ゆいちゃが、りこたんの髪を撫でる。
「私は一番年下だからって、何かあれば3人がいつも率先してやってくれてるんです。本当、もっと頼ってほしいんですけどね」
「・・・・・・・」
3人とも眠ったままだ。
誰かのための配信って、俺が思っている以上に大変なんだろうな。
結城さんの言う通りだ。
これからも推しが不安にならないくらい、応援していかなきゃな。
「りこさん、起きてください。もう時間ですよ」
「えっ? 結城さんは?」
「もう帰りましたよ。さ、みらーじゅ都市に帰りましょうね」
ゆいちゃがりこたんを無理やり起こして、パソコンのモニターのほうに連れていった。
まだ、足元がおぼつかない感じだ。
「あ、のんのんも一緒に連れて行くので待っててください。ほら、のんのん」
「わかってるわよ・・・今、行こうとしてたところで・・・・すぅ・・・」
半分寝ながら、ゆいちゃにおんぶしてもらっていた。
「じゃ、ちょっとみらーじゅ都市に行ってきます。すぐに戻ってくるのであいみさん起こしておいてください」
「あぁ」
ゆいちゃがりこたんを支えて、のんのんをおんぶしたままモニターの中に入っていった。
相変わらず、力が強い。ゴリラに憧れてるだけある。
「あいみん、起きて、みんな帰っちゃったよ」
「まだ寝たりないのぉ・・・・」
足をじたばたさせて、寝返りを打った。
部屋着がちょっと上がって、お腹が見えている。それ以上いくと・・・・。
「っと・・・・・・・・」
慌てて、近くにあった毛布を掛けた。
あいみんが信頼してくれてるんだから、紳士的な態度をとらなければ。
深呼吸して、無駄にカーテンを閉めなおしにいった。
「ただいま、よいしょっと。もう、のんのんが暴れるから大変でした」
ゆいちゃがモニターから出てくる。
「あれ? さとるくん、あいみさんを起こしてって言ったのに、毛布掛けたら熟睡しちゃうじゃないですか」
「えっと・・・お腹出して寝てたんだよ。風邪引くだろ」
「まぁ、仕方ないか。寝てるあいみさんは揺さぶらないと起きないですからね。一番起こすの大変なんですよ」
「え・・・・」
すっとその場にしゃがむ。
「起きてください起きてください。みんな帰っちゃいますよー」
「・・・・・・・」
がしっと体を掴んで、人形みたいに思いっきり揺さぶっていた。
かなりわしゃわしゃ揺れている。
あんなの俺ができるわけないだろ。
毛布が無ければ、肌とか見えちゃったかもしれないし。
「ん・・・? ゆいちゃ?」
「ふぅ、やっと起きましたね」
あいみんが目をこすりながら起き上がった。
「さとるくんだ、おはよ」
「お・・・おはよ」
目が合うと、にこぉっとして手を振ってきた。
可愛い。
「帰りますよ」
「はーい。ゆいちゃ、おんぶして」
「はいはい」
ゆいちゃがあいみんをおんぶしていた。
するりと毛布が落ちていく。
「じゃあ、さとるくん。あとの片づけは私がやっておきますので。今日はありがとうございます」
「うん・・・」
「やだ、さとるくんも一緒にみらーじゅ都市に行くの。あれからしばらく来てくれてないの」
あいみんが目をとろんとさせながら、手を伸ばしてきた。
手を握れないのが・・・しんどい・・・。
「さとるくんは学校があるので家に帰るんですよ」
「むぅ・・・じゃあ、ゆいちゃと帰る」
ゆいちゃがあいみんを宥めながら、モニターの中へ入っていった。
「・・・・・・・」
空き缶と、燃えるごみの袋をそれぞれ縛る。
毛布を畳んで、ソファーの上に置いた。




