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俺の推しは裏切らない!  作者: ゆき
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61 バイト先の恋愛事情

「磯崎君、久しぶりだね。GW全然シフト入ってないから」

「お疲れ様です」

 バイトが終わって、休憩室で制服を畳んでいると喜多さんに話しかけられた。

 2つ年上で美容関係の専門学校に通っている、サバサバしたタイプの女性の先輩だ。


「バイトは慣れてきた?」

「一応・・・皆さん優しいですし、まだドリンクは作れないのですが」

「ハハ、ドリンクはお酒飲める年齢にならなきゃ、わからないって」

「はぁ・・・・・・」

 見た目が派手で、初対面からガツガツ話しかけてくるから少し緊張していた。

 キッチンの社員とも仲が良く、店長の信頼も厚かった。

 女子からも人気があるらしく、一人でいるところを見たことがないくらいだ。 


「では、お先に失礼します・・・」

「あ、待ってよ。磯崎君に聞きたいことあって」

「え?」

「来週の火曜日、早番のシフト終わりにここで歓迎会あるんだけど、来れる? ほら、4月からバイト入ってきた子、磯崎君も含めて3人いるでしょ」

 あまりシフトの被ったことのない子だな。

 いつもいる人は覚えたけど、まだ知らない人が結構いた。


「えっと・・・」

「お疲れ様です」

 答えようとしていると、安月が入ってきた。


「おぉ、お疲れーっす」

「安月君は来てくれるでしょ? 来週の火曜日の歓迎会」

「もち、俺、飲み会あったらどこでも行くので」

 親指を立てていた。


「ハハハ、安月君、期待を裏切らないね」

「結構人数集まるみたいだし。久々の飲み会、キッチンの保田さんが賄いメニュー出してくれるって」

「本当? 保田さんの賄い美味しいもんね」

「メニュー採用されればいいのに・・・」

 無造作にセットされた茶髪を触りながら言う。

 クラスの上位カーストに入るような、そこそこイケメンの陽キャだ。

 大学3年生ということは聞いている。


「あの・・・」

「ごめんごめん、磯崎君は来れそう?」


「はい。でも、俺は授業5限まであるので、遅れてしまうんですけどいいですか?」

「全然いいよ。気にしないで。適当に始めてるから」

「喜多さん自分が飲みたいだけだもんね」 

 安月が軽く言うと、喜多さんが髪をかき上げた。


「人のこと言えるの? 安月君も楽しみなくせに」

「まぁ、前みたいに悪酔いだけはしないようにするよ」

 2人でくすくす思い出し笑いしていた。


「あ、またタバコ吸ってる。禁煙したんじゃなかった?」

「まぁまぁ」

 楽しそうに話していた。付き合ってるのかな? ってくらい仲がいい。

 正直、あいみんの配信をリアタイしたいから帰りたかったけど・・・。

 でも、お世話になってる人たちだし、断れないよな。


「お疲れ様です」

「詳細決まったら連絡するよ」

「ありがとうございます」


「磯崎君、俺、一服するから喫煙所までちょっと話そうよ」

「・・・はい」

 ポケットのタバコとライターを確認してから付いてきた。

 なぜ、俺?

 陽キャとちょっと話す話題なんて持ち合わせてないんだけど。


 しぶしぶ外の喫煙スペースまで、一緒に歩いていく。




「・・・安月さんは、このバイトでどれくらいやってるんですか?」

「1年の時に始めたから、今年で3年目か」

 箱から一本タバコを取り出していた。


「長いですね」

「覚えること覚えたら、店長も優しいからね。アットホームだし」

「あ、GWはシフトありがとうございました。俺の分も入ってくれたみたいで」

 軽く頭を下げる。


「いいよいいよ。別に予定なかったし、稼ぎたいしね」

「・・・・・・・・」

 もう、20時、あいみんの配信の時間だ。

 今日はさすがに仕方ないか。アーカイブでも可愛いものは可愛いし。


「ところで、磯崎君って好きな人とか彼女いる?」

「い・・・いないですよ」

「そっか」

 推しはいるけどな。最推しのあいみんって存在が。

 もう、あいみんさえいれば充実してる。

 絶対、口には出せないけれど。


「じゃあ、率直に聞くけど、喜多さんのことどう思う?」

「どうって・・・優しいし、いい先輩だなって」


「だよな。俺、1年前から喜多さんに片思いしてるんだよね」


「えっ!?」

 フェンスを抜けたところで、思わず声を出してしまった。

 人が誰もいなくてよかった。


「あっ・・・と、すみません。びっくりしてしまって。でも、どうして俺に?」

「そうそう、そこでお願いなんだよ」

 指を鳴らしていた。


「今度の飲み会で、さりげなく喜多さんに好きな人いるか聞き出してほしいんだ。ほら、磯崎君話しやすそうだし。酔ったら、ぺろっと話しちゃうと思うんだよね」

「えっと・・・すみません、協力したいのは山々なんですけど。俺、入ったばかりです、あまり話したことないので、うまく聞けるか・・・」


「大丈夫大丈夫、喜多さんお酒が入れば、誰でも気軽に話しちゃうから」

「そうなんですか?」

「あぁ。でも、キッチンにも狙ってる人2人くらいいるからさ。もしかしたら、隠れて好きな人はいるかもしれないし、他に頼めなくて」

 そんなに人気者なのか。

 確かに大人の女性って感じの余裕と色気があるのはわかるけどな。


「わかりました」

 そもそも女子とそんなに話したことないんだけど。

 大学に入ってから、あいみん以外だと、結城さんと推しを通して話す程度で・・・。


「・・・できる限り協力します。でも、うまく聞き出せなかったらすみません」

「そしたらしょうがないよ。元々、直接聞けない俺がヘタレなんだから」

 いい人だし。

 これからもお世話になるから、良好な関係を築かないと。


「さんきゅ。助かるよ」

 手を上げて、にこっとしてきた。


「じゃあ、俺そこ曲がるので、お疲れ様です」

「おつかれぃ、ありがとね」

 ノリで付き合いそうなタイプなのに。苦手なものに巻き込まれてしまったな。

 まぁ、俺にどこまでできるかわからないけど。適当に立ち回るか。






 アパートの階段を上っていると、ぬっと人影が現れる。

 急にぱっと明るくなった。


「わっ・・・」

 あいみんがスマホのライトで、下から顔を照らしていた。


「うらめしやー」

「どうしたの?」


「遅いんだもん。さとるくんいなかったから、帰ってくるの窓から見て確認してたの。驚かせようと思って。幽霊だと思ったでしょ?」

「あぁ、うん」

 ぷくうっと頬を膨らませている。


 可愛すぎて・・・。こんな幽霊なら毎日来てほしい。


「で、どうして今日はこんな遅かったの?」

「え? っと・・・」

「配信も終わっちゃったよ。リアタイしてないでしょ」

 あいみんが、少し不機嫌になりながら、一緒に家に入ってくる。

 電気を点けると、タタタタと小走りでソファーに座った。


「今日はバイトだよ。先輩と話してて、長引いちゃって」

「そっか。確認だけど、先輩って男だよね?」

「あぁ、そうそう」

 クッションを膝に置いて、足をぱたぱたさせた。

 もこもこした水色の部屋着を着ている。


「どんな話したの?」

「片思いの相談。来週の火曜日に歓迎会してもらうんだけど、さりげなく、女性の先輩に好きな人がいるのか聞いてほしいって」


「わわっ・・・それは、なんか楽しそう」

 ものすごい食いついてきた。

 ゆいちゃもそうだけど、女子ってコイバナ好きだよな。


「面倒なこと任されちゃったけど、GWのシフトかなり融通利かせてもらったから、断れなくてさ」

「それは断っちゃダメ。頑張って、さとるくん」

 あいみんが立ち上がって両手をぎゅっと握り締めてきた。


「え?」


「だって、好きって気持ちは大事。ちゃんと、協力するの。わかった?」

「はい・・・」

 語気を強めて言ってくる。

 どうしてこんなに真剣なのかわからなかったけど、勢いに押されて頷いてしまった。


「そうだ、私たちも打ち上げしようよ。この前の6時間配信お疲れ打ち上げ」

「いいね。結城さんにも言っておくよ」

 あいみんの表情がぱっと明るくなる。


「じゃあじゃあ、そのとき、さとるくんが、ちゃんと聞けるか練習してあげる」

「いいって。それくらいできるよ」


「いいの。さとるくんが思ってる以上に、重要任務なんだから」

 あいみんが小さな手にくっと力を入れてから離した。

 ひまわりみたいに微笑む。


「みんなに言ってくるね。打ち上げは、私もお酒飲んじゃおうかな。へへへ、楽しみだね」

 あいみんが楽しそうだと、疲れが癒えるな。


「じゃあ、おやすみなさい。ちゃんと、寝る前にアーカイブ見てね。あ、でも疲れてたら寝てもいいからね」

「了解」 

 軽くスキップしながら家を出て行った。

 ドアがバタンと閉まる。


「・・・・・・・」

 今日も安定して可愛い。

 バイトの歓迎会は気が重かったけど、あいみんたちとの打ち上げは楽しみだ。

 こんな可愛い子推しが毎日癒してくれるんだから、ほかに好きな子なんて、できる気がしない。 

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