59 ナツの勢い
家に帰って、寝て起きると14時になっていた。
思った以上に疲れてたのかもな。
結城さんはりこたんたちと配信のアーカイブを見てから帰っていった。
みんなも楽しかったらしく、またやろうねと話していた。
本当に思い出になる配信だった。何よりも心に残ったのは、4人の絆とトレンド入り・・・・・。
じゃなくて、あいみんの胸だよな。
ゆいちゃに揉まれてるあいみんの胸が忘れられないんだけど。
しかも紺色のブラジャーとかいう情報聞いちゃったし、あの4人っていつもそんな会話してるのか?
見ちゃいけないもの見ちゃったんだけど、頭に焼き付いて絶対忘れられない。
クッションに顔を埋めてもがいていた。
オフのあいみんが可愛すぎて・・・。
「おじゃましまーす」
ゆいちゃの声がした。
バッとクッションを隠して今起きたふりをした。
「あ、起こしちゃいました?」
「ごめん。今起きたけど、大丈夫。どうしたの? 色々と・・・」
ゴリラの被り物を被っている。
「配信で、たくさん顔を出してしまったので、オフモードのゴリラになることにしました」
「そ、そうなんだ。オフがゴリラモードだったんだ」
「へへへ」
テンション高く、近づいてくる。
「みんなは?」
「3人とも寝ちゃいました。私だけ元気です。朝、たっぷり寝たので」
ふふんと鼻を鳴らす。
「珍しいな、一人で来るなんて」
「一人じゃないですよ、そろそろ・・・・」
ピンポーン
チャイムが鳴った。
ゆいちゃがはーい、と言ってドアのほうへ走っていく。
「ナツ!?」
「おっじゃましまーす」
ナツが手を上げて、入ってきた。
薄いパーカーにジーンズだけでもお洒落だな。
ライブのときのオーラは無いけど、カッコよさを隠しきれない感じだ。
まさか、リア充がうちに襲来する日が来るとは・・・。
「へぇ・・・こんな風になってるんだ。あ、大学の教科書もある。データベースモデルね、俺も勉強してるよ」
「すみません。ナツがどうしてもさとるくんに会いたいってうるさくて」
「はぁ・・・・・・」
「うんうん。どうしても会いたくてさ」
ナツが頷いていた。
「色聞きたいことはあるんだけど・・・・まずは、どうして?」
「今朝の配信見ただろう?」
「まぁ・・・・」
「のんのん、最高に可愛かったよな? スクショもたくさんしちゃったし、ちょっとうとうとしてるところも・・・」
緩んだ口元が抑えられないよう。
そうだ。
ナツは陽キャと見せかけた陰キャだ。イケメンが霞むほど、のんのん推しオタクだ。
「えっと・・・」
「DMにも送った通り、のんのんの初恋の相手は俺だと思うんだけど。どう思う?」
「私は妄想だと思います」
ゆいちゃがぼそっと言う。
「さとるくんに聞いてるんだよ」
興奮して詰め寄ってきた。
「えっと、俺より・・・XOXOのメンバーとかのほうが相談しやすいんじゃない?」
「今日休みのはずなのにさ、全然応答してくれないんだよ。こんなに重要な話があるのに」
「・・・・・・・」
だろうな。
ゆいちゃがため息を付いていた。
「それでさ、のんのんって俺のこと好きだと思う? ちょっとでもいいんだけど、気持ちがあると思う? 本人はさとるくんが好きだって言ってるんだけど、俺のことも好きだよね?」
「あ・・・と、とりあえず、よくわからないけど、応援してるよ」
「ありがとう。嬉しいよ」
パッと明るくなって、ソファーに座り込んでしまった。
マジか・・・。長居しそうだ。
「ナツとのんのんって幼馴染なの?」
「そうそう。みらーじゅ都市の幼稚園から一緒だったんだ」
「へぇ・・・・・」
「私たち、みらーじゅ都市に幼稚園や学校は一つしかないので、必然的に一緒なんです。だから、のんのんとナツだけが一緒なわけじゃないですよ」
ゆいちゃが、補足していた。
「私もナツとのんのんを応援していますよ」
「ありがとう、頑張らなきゃな。もっともっとのんのんに近づけるように」
すごくテンションが高い。
なんか、面倒な人が来てしまったな。
「はぁ・・・のんのん可愛かったな。6時間配信なんて、嬉しすぎて眠れなかったよ。さとるくんももちろん見てたんだろ?」
「うん・・・」
あいみんの部屋でオフまで見てしまったし・・・。
まぁ、余計なことは言わないでおこう。
「のんのん、優しいし、お洒落だし、何でもこなしちゃうし、お姉さんって感じで素敵ですよね」
「気遣いもできるしな」
「うんうん、そうそうよくわかってるね」
ナツが腕を組んで頷いていた。
「でも、のんのんの魅力を一番知ってるのは俺だと思うけどね。まず、小学生の時から知ってるし、最近の配信もすべてリアタイでチェックしてるし。何なら、グッズだってたくさん持ってるし、持ってる種類なら誰にも負けないだろうね」
「・・・・・・」
言ってることが完全にオタクよりだけどな。
「私だって、のんのんの手料理とかよく食べていますし」
「俺だって、調理実習でのんのんの作ったご飯食べたことあるもんね。小学校の時に・・・」
「むむ・・・・」
少しゆいちゃがむきになっていた。
ナツのん推しって言ってたけど、お姉ちゃんでも取られる感覚なんだろうか。
「でも、ナツはのんのんのおっぱいが柔らかいの知らないでしょ?」
「えっ・・・・」
「っ・・・・・」
流れ弾食らったように、顔が熱くなった。
ナツも真っ赤だ。
「ふふん。私はみんなのおっぱいよく触ってるんです。のんのんはそのまま揉みたくなる感じ、あいみんはぎゅっと掴みたくなる感じ、りこたんは・・・」
「わかった、わかったから」
ナツが止めると、ゆいちゃが勝ち誇った顔をしていた。
「じゃあ、私のほうがのんのんを知ってるアピールできたので満足です。戻りますね。さとるくん、ナツを適当によろしくお願いします」
「ちょっと待っ・・・・」
ささっとドアから出て行ってしまった。
「ナツは彼女とかいたことないの?」
「いないよ。俺はずっとのんのん一筋だからさ」
「へぇ、モテそうなのに」
「そう? 有難いことに、XOXOにいれば応援してくれる人もいるからね。それより・・・」
ナツがきりっとした表情で顔を上げる。
「さとるくんはさ、おっぱいって揉んだことある?」
「な、ないよっ」
急に、真剣になったかと思えば、何言い出すんだよ。
「俺もだよ。いいな、柔らかいってどんな感じなんだろう。のんのんのおっぱいか・・・ゆいちゃが揉んでるところだけでも見てみたいな」
「・・・・・・・」
見たことあるってのは呑み込んでおいた。
トントン
「おじゃまします。さとるくん、美味しいお菓子作った・・・」
のんのんがドアから入ってきて、ナツと目が合った。
「げっ・・・ナツ・・」
「えっ!? どうして、のんのんがさとるくんの家に?」
ショックを受けた表情で、こちらを見てきた。
「のんのんだけじゃないって。みんなここを行き来してるんだよ。ゆいちゃだってそうだっただろう?」
「そ・・・そっか・・・」
「どうしてあんたがさとるくんの家にいるの?」
のんのんが急に冷たくなって、ナツに近づいていく。
「それに、あいみの部屋のモニターからはあんたは出てこれないんじゃなかった?」
「ゆいちゃと一緒に出てきたんだよ。のんのんの配信について語ろうと思って」
「えっ・・・まさか、全部見てたの?」
「もちろん、リアタイしてたよ。当り前じゃん」
「っ・・・・」
ナツがニコニコしていた。
のんのんの顔がどんどん火照っていく。
ん? これはもしかして・・・・。
「そうゆうところがストーカーなのよっ。せっかくさとるくんのために焼いてきたのに、あ、あんたがいたら台無しだわ」
「そんなぁ・・・一緒に食べるよ」
情けない声を出す。
「さとるくん、ここに置いておくから食べてね」
「あ・・・ありがとう」
「今日はもう帰る。ナツがいないときに来るね」
「待ってよ。俺も一緒に帰るから」
のんのんの後をくっついていくようにして、家から出ていった。
パウンドケーキの甘くておいしそうな匂いがしている。
本当に気が利く女の子だよな。
「・・・・・・」
のんのんの反応を見るに、ナツが初恋だったって可能性もゼロではない気がするんだけど、今の気持ちはどうなんだろう。




