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俺の推しは裏切らない!  作者: ゆき
59/183

58 配信終了オフモード

『みんなのおかげでトレンド入りできました。すごいね、3位だって。ありがとう、夜の背景さんありがとう、クラリさん、え、こんな時間まで友達と見てたの? いいね、ありがとう』

 あいみんがコメントを読み上げていた。


『焼き芋さんもありがとうございます。あ、スパチャも、ありがとうございます』

『ゆい、寝ちゃ駄目よ。ほら、挨拶だから起きて』


『むぅ・・・起きてますよぉ』

 のんのんが座ったままうとうとしているゆいちゃを揺さぶった。

 目がほとんど開いていない。


『改めてみなさん、ありがとうございました。せーの』

『今後も私たちをよろしくお願いします』

 りこたんの掛け声で、4人が配信が頭を下げて手を振っていた。


 カーテンの隙間から朝日が漏れている。

 6時間配信、すごいな。

 お疲れ、とコメント欄に打っていく。すぐに流れてしまったけど、見えたかな?


 配信はもちろん、ツイッターも応援するコメントで溢れていた。

 面白いツッコミする人とかもいて、すぐに拡散されてトレンドにも上がっていた。




 アイパッドの配信が途切れて、モニターに終わった後のみんなが映る。


『わぁ・・・疲れた。けど、楽しかったね』

『そうね。こうゆう突発的なの、これからも企画してもいいかも』


『のんのんが珍しく乗り気だ』

『もちろん徹夜は肌に悪いから避けたいところだけど、でもこんなに応援してもらって、嬉しいなって』

『相変わらずツンデレだなぁ』

 あいみんがにやにやすると、のんのんが照れながらツンとしていた。


『みんな頑張ったね。日本のトレンド3位なんて、すごいし、同時接続だって1万のときあったもんね。ふぁあ、さすがに眠いけど』

 りこたんがあくびをしながら嬉しそうにしている。



 4人を眺めながら、ペットボトルのお茶を飲む。

 全然、眠くならなかったな。

 あいみんがAIロボットくんにいじられたり、りこたんの配信者への告白、ゆいちゃのアニメのモノマネもあって、終始楽しかった。

 ずっと仲良くわちゃわちゃしているだけなのに、4人のいいところが詰まった配信だった。

 コメントもたくさん読み上げていたし。


 こんな配信できるVtuberは『VDPプロジェクト』の4人しかいないだろうと思って眺めていた。 



「結城さん?」

「すぅ・・・すぅ・・・」

 後ろを振り返ると、結城さんが熟睡していた。

 ずっと寝ている。

 まぁ、緊張と疲れもあったんだろう。



 そろそろ結城さんを起こして、俺も部屋に・・・。


『あっ・・・・ゆいちゃ、もう・・・』

『あいみんさんの、おっぱい柔らかいです。ふかふか』


「!」

 秒でモニターの前に座り直す。

 ゆいちゃが寝ぼけながら、あいみんに抱きついて胸を揉んでいた。


『ん? あいみん、胸大きくなった?』

 りこたんがまじまじと見つめていた。


『へへへ、そうかな? あっ、ゆいちゃ揉むのは駄目だってば。反応しちゃうから』

『え、あいみんって黒の下着付けてるの? 肩ひもが見えちゃったんだけど・・・意外かも・・・』


『紺色だもん。紺色の下着をつけると、スタイルが良くなるって、なんかの掲示板で見たの』

『そうゆう変なこと信じるんだから』

『あいみんさんのおっぱい・・・』

 あいみんのささやかな胸がゆいちゃの手で揉まれている。



「・・・・・・・」


 やばい。すごい状況だ。

 もう完全にみんなオフモードだ。

 みんな眠いのか、俺が見ていることに気づいていない。


『もう、ゆいちゃってば、完全に寝ぼけてるし』

『これは覚えてないやつね』


『んっ・・・ゆいちゃ、なんか今日いつもより力が強いんだけど』

『疲れていると人っておっぱいを強く求めるらしいわ』

 りこたんが真剣に話していた。


『ゆいちゃに揉まれれば、あいみの胸だって大きくなるかもよ?』

『のんのんまで、意地悪言うんだから。ゆいちゃ、自分のおっぱいで我慢しなさい』


「・・・・・・・」

 バグってるだろ。こんなの・・・。

 今、見ちゃったし、てか、目が離せないし。

 もうここまで見たら、話しかけられないんだけど・・・どうしよう。

 隣の家に帰るにも、結城さんをここに置いて? ってなるし。


『あっ、もしかしてさとるくん見てるんじゃない?』


「!?」

『!?』


 咄嗟にモニターから離れる。


 やばい。りこたんに気づかれた。


 って、俺は何も悪いことしていないんだけど。

 見ちゃいけなかったよな。

 推しが胸揉まれるとか・・・紳士的な推し事を掲げているのに、誘惑に負けてしまった。

 

 とりあえず、床に寝ておこう。

 自然に自然に・・・何も自然じゃないけど。



『むむ・・・ちょっと、確認してくる。りこたん、ゆいちゃをよろしく』

 

 ゴソゴソ ゴトン



 あいみんがモニターから出てくる音がした。


「結城さん・・・あれ? さとるくん?」

「・・・・・・・」

 全力で寝たふりをしていた。


「わぁ・・・寝ちゃったのか・・・ん? さっきコメントでお疲れって見かけたような気がしたんだけどな」

「っ・・・・」

 こんなときに、お疲れコメントが裏目になるとは・・・。


「さては、お疲れも半分寝ぼけて打ってたな?」

「・・・・・・」


「へへへ。なんだかんだ強がってたけど、さとるくんも疲れてたんだね。起きてたら、ちょっと私のレアなオフを見られたかもしれないのに、残念残念」

 ほっとしたように話していた。

 ・・・・・ばっちり見たんだけどな。


 あいみんがプラス思考でよかった。


「あっ・・・さとるくん大丈夫?」

 のんのんの声がする。


「寝ちゃったみたい。さとるくん、起きて。風邪ひいちゃうよ」

「ん? あぁ・・・」

 目を擦りながら体を起こす。

 全力で、寝起きの演技をしていた。


「ごめん、寝ちゃって。でも配信は見てたから」

「わかってる。さとるくん、いつも私を応援してくれてるもんね」

「私たちを応援してるのよ」

 のんのんが腕を組んでこようとすると、あいみんがぐいっと間に入ってきた。




「はっ・・・配信は?」

 結城さんがバッと起きてきょろきょろしていた。

「ふふふ、結城さん寝ちゃったのね?」

「り、りこたん」

 りこたんがモニターから出てきた。

 静電気でぐちゃっとなった髪を、整えている。


「おはよう、結城さん。よく眠れた?」

「ごめん、途中まで起きて応援してて、あれ・・・いつから寝ちゃったんだろう?」


「全然気にしないで。だって、授業終わった後に、夜通し配信だなんて、リアタイできなくて当然だもの。応援してくれてる気持ちだけで十分」

「あ・・・・ありがとう、りこたん」

 りこたんが微笑むと、結城さんがメガネを直していた。


「りこたん、さとるくんも寝ちゃったんだよー」

 あいみんがりこたんの服を引っ張っていた。

「そうだったの? 珍しい」


「リアタイしてたんだけど、途中で眠くなったりしてて・・・さっき、寝てたみたいで・・・」

 頭を掻く。

 全然、眠くなったりしてないけど。

 むしろ、さっきが一番冴えてた。


「寝てないアピールとかするもん、男子ってやっぱり子供だね」

「あはは・・・・」

 あいみんがにんまりしていた。

 紺色のブラジャーって・・・駄目だ。忘れよう。


 何も聞いてない。何も見なかったんだ。


「ん? さとるくん、本当に寝てたのかな?」

「えっ」


「だって、まだ椅子が温・・・」

 りこたんが言いかけてハッとした。


 パソコンの椅子の背もたれに手を置いている。

 そっか。さっきまで座ってたから、体温が残って・・・。


「ん? どうゆうこと? まさか、さとるくん寝たふりしてたんじゃ・・・」

「い、いや、違・・・・」

「見てたの? さっきのやり取り」

 あいみんの頬が少しずつ赤くなっていく。


「ふふ、冗談よ。ごめんごめん。疲れが溜まってたもんね」

 りこたんが、椅子からぱっと手を離す。


「あぁ・・・うん・・・・」

 ギクシャクしながら返事をする。


「はぁ・・・よかった」

「え?」

「な、なんでもない。もっかい寝ていいよ。配信終わったから」

 背中をとんと叩かれた。

 

 りこたんがくすくす笑っている。

 全部わかってて、楽しんでるな?


「結城さん、眠かったら、まだ寝ていってもいいよ?」

「じゃあ、お言葉に甘えて、少しだけ配信のアーカイブ見てまったりしていこうかな? あいみんの部屋、なんかリラックスできて」

「そう? そう? 嬉しいな」

 左右に揺れていた。


「ゆいちゃは寝ちゃったけど、私はまだ眠くないし、結城さんとここで配信のアーカイブ見ようかな?」

「私もそうする。さっきまで眠かったのに、目が覚めちゃった」

 あいみんがソファーに座っていた結城さんに近づいていった。

 結城さんがアイパッドを開いて、配信のアーカイブを映す。


「そうそう、ここですぐ負けると思わなかったの。あいみんがジョーカーのほうに目をやっちゃうから」

「え、そうだったかな? あーここ、こんな感じで映ってたんだ」

「コメントにもあった通り、りこたん顔に出すぎ」

「そう? んー、ちゃんと誤魔化せたと思ったのに・・・」

 きゃっきゃしながら、3人が結城さんを囲んで話していた。


 なんとか、つっこまれずに済んだ。

 あいみん・・・紺色のブラジャー・・・。


 徹夜明けの朝なんだけど、全然眠くないな。 

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