56 GW特別企画配信準備
あいみんの家で配信時間まで、まったりしていた。
「あーっ、りこさん。またババ引きました」
「んんん・・・・・どうして? どうしてわかったの?」
「どうしてというか・・・りこたん、意外と顔に出やすいんだよ」
「え? そんなことないわよ」
りこたんが不服そうな顔でこっちを見てくる。
並べるときに、ちょっと出すと必ず引いていた。
「これなら、私でも勝てそうですね」
「まだ練習なんだから。ちょっと顔に出ただけよ」
「ねぇ、さとるくん。軽い夜食作っておいたから、お腹すいたら食べてね。お茶やジュースも冷やしてるから」
のんのんがお皿に、ポテトやサーモンロールを並べていた。
「ありがとう、気が利くな」
「好きな人のためだもん。これくらい当然よ。あ、結城さんの分もあるから」
「ありがとう、のんのん」
鼻歌を歌いながらサランラップをかけていた。
のんのんはいい奥さんになるだろうな。
個人的にはナツとくっついてほしいと思っていたけど、どうなんだろう。
「磯崎君は寝なくて大丈夫なの?」
「俺はよく徹夜してるから、全然問題ないよ。結城さんは?」
「私は、さっきまで仮眠取ってたから。まさか寝ちゃうと思わなかったけど」
結城さんとゆいちゃは20時から22時くらいまでうとうとしていた。
りこたんとのんのんは自己管理できそうだから大丈夫な気がするけど・・・・。
「ふわぁ・・・・・」
あいみんがあくびをしていた。
さっきまでハイテンションでテレビゲームをしていたのに、今の時間になって急に眠くなっているようだった。
まだ22時半、ここから朝までなんだけど、配信もつのか?
「あいみん、シャワー借りてもいい?」
「うん。いいよー。バスタオルはここにあるから、ドライヤーはここ・・・あとは・・・」
あいみんが目を擦って眠そうにしながら、結城さんに説明していた。
「あ、じゃあ、俺、ちょっと自分の家に行ってくるよ」
「う、うん・・・・」
「・・・・・・・」
さすがに結城さんがシャワー浴びてるときにいるのはまずい気がした。
結城さんがあいみんのシャワールームで・・・って、変な妄想しちゃいそうだし。
「さとるくん、ちゃんと戻ってきてくださいよ。配信はここでリアタイする約束ですからね」
「わかってるって。すぐ戻ってくるから」
ゆいちゃに言うと、三人でまたババ抜きを始めていた。
30分くらい潰すか。
あいみんの家を出て、自分の家に戻ってくる。
電気をつけてソファーに倒れこんだ。
ほっとしたような、緊張しているような、変な気分だな。
とりあえず、30分くらい、あいみんの動画・・・じゃなく、アニメでも見ておこうかな。
クールダウンが必要だ。
ぼうっとしていると、ドアが開く。
「さとるくんだー、どうして家にいるの?」
あいみんがふらつきながら入ってくる。
飛び起きた。
「あいみんっ」
「さとるくんがいないから迎えに来たんだよ」
目を細くしながらソファーに座ってきた。
酔っ払いみたいになっている。
「へへへ、配信楽しみだね。ちゃんと見るんだよ」
「わかってるって・・・そのためにいるんだから・・・・」
「そうだった」
かくんとしながら、話しかけてきた。
前髪がぴょこんと跳ねて、可愛いが過ぎるんだけど・・・。
「あいみんは、ほら、自分の家で、みんなと話してたほうがいいんじゃないのか? 俺ももう少ししたら行くから」
「だって、今、結城さんがシャワー浴びてるから。あ、私も浴びたいな。入ってくる」
「ちょっ・・・・・」
あいみんが寝ぼけたまま、自分の服を脱ごうとした。
慌てて、服を下げる。
「むむぅ・・・・・」
「えっと・・・ほら、俺もすぐにあいみんの家行くから。みんな急にあいみんがいなくなると心配するよ」
「そう? 確かに心配しちゃうね。みんな優しいから。じゃあ、先行ってるね」
「・・うん・・・・・」
おぼつかない足取りで、戻っていった。
隣の家のドアの開く音が聞こえる。
「・・・・・・・・」
なぜ止めたんだ? 俺。
あとちょっとであいみんの下着が見えそうになって、焦ってしまった。
いや、でも、そこで紳士的な対応を取るのが推しに対する誠意だと思うんだ。
かなり攻めたタペストリーとか持ってるけど、あんなの実際に見たら不純な気持ちを持ってしまう。
夜中だし、歯止めが利かなくなる。
・・・・今の理論だと、持ってる時点で、まぁ、不純だな・・・。
両手で顔を叩いた。
なんか、清らかな音楽とか聴いて、心を洗い流してからいこう。
清純な気持ちが大事だ。まずは、平常心にならなきゃな。
あいみんの家に戻ると、あいみんが結城さんに抱きついて寝ていた。
小さな口をむにゃむにゃさせて、頬を肩にぴったりくっつけていた。
「あ、磯崎君」
「んんん・・・・・」
可愛い。羨ましい。
「寝ちゃったの。いい匂いって、近づいてきてそのまま、くたーってなって」
「お子様なのよ。全く、自己管理ができないんだから」
「・・・へへへ・・・・」
のんのんが頬をつついても、にやけるだけで起きる気配がない。
「ごめんね、結城さん」
「全然、なんか可愛くて癒されるし・・・・。それよりも、りこたん、配信準備はどう? 何か手伝ったほうがいい?」
「道具はAIロボットくんに頼んだから大丈夫。のんのん、ナツもリアタイするって。のんのんから連絡が欲しいって来てたけど」
「どうでもいいわよ、あんな奴」
のんのんがツンとしていた。ゆいちゃがくすくす笑っている。
ゆいちゃはナツのんのカップル推しらしい。
「ほら、あいみ、いい加減起きなさい」
のんのんがあいみんの腕をぐいっと引っ張った。
「はっ・・・もう配信の時間? あれ? 配信してた?」
「これから始まるのよ。全くもう・・・」
「みんなで配信してUNOやってる夢見てた・・・」
あいみんがはっとした表情をしていた。
恥ずかしそうに、ティッシュでよだれを拭いている。
「あいみんって寝起きいいんだな」
「さとるくんの家に行かないときは、配信直前まで寝てたりしてたもんね」
「りこたん、それは内緒だってば」
あいみんが手をぎゅっと握って振り回していた。
「ん・・・? さとるくんの家にも行ってたような?」
「えっ・・・あ、あいみん、それよりも早く行かなくていいの?」
慌てて話題を逸らした。
別に、やましいことなんて何もないんだけど・・・。
一応な。
「そうだ。髪とかちゃんと直さなきゃ」
ぴょんとした部分を触っていた。
「じゃあ、いってきまーす」
「さとるくん、ちゃんと見ててね。コメント頑張って見るから。あいみ、狭いから早く降りて」
のんのんが手を振ってから、モニターの中に入っていく。
「また後でね」
「うん・・・・・」
りこたんがキーボードを避けて、モニターを前に出して見やすいようにしてから、中に入っていった。
結城さんがびっくりしながら、パソコンに近づいていった。
「本当だ・・・・。こんなことができるなんて。えっと、疑ってたわけじゃなくて、初めて見たから・・・」
「だよな。俺も初めは驚いたよ。てか、いまだにこんなことができるなんて信じられないし」
「私も・・・どんな技術なんだろ」
「あ、画面には触らないほうがいいよ。入っちゃうから」
「わっ・・・・」
結城さんがぱっと手を離した。
画面を見ると、あいみんとりこたんがAIロボットくんと何か話してる様子が見えた。
ゆいちゃが、こっちに向かって手を振っている。
結城さんが、少し動揺しながら手を振り返していた。
ソファーに座って、ツイッター画面を眺める。
『VDPプロジェクト』の配信ライブがあるってことで、盛り上がっていた。
りこたんが修学旅行の思い出について募集したらしく、リプライがたくさん付いていた。
これは、抜粋しなきゃ、読み上げるのも大変そうだな。
「楽しみだね、配信」
「あぁ・・・」
結城さんがパソコンの椅子に座って笑いかけてきた。
あいみんのボディーソープなのか、すごくいい匂いがする・・・。
「ん? 磯崎君どうしたの?」
「いや・・・あいみん大丈夫かな? って思って」
視線を逸らした。
「大丈夫だよ。よく寝てたもん」
「・・・・そうだな」
結城さんと二人きりだけど、二人きりじゃないんだからな。
「よし、アイパッドとスマホの二台体勢でいかなきゃ」
結城さんがアイパッドを開いていた。
しっかり、推しをサポートしないと。
自分のアイパッドとスマホを出して、配信コメントとツイッターのトレンド入り準備をしていた。




