55 特別配信ライブのテーマが決まりました
「あ、さとるくん。さとるくんも見て」
あいみんと結城さんがアイパッドを見ながら座っていた。
ゆいちゃがもぐもぐしながらくつろいでいる。
「へぇ、ロゴか」
「うん、4つあります。どれが一番いいと思う?」
ハートマークを交えたものやシンプルなロゴだ。
こうゆうのよくわからないし、一番手前にある4色の虹が入ったロゴを指した。
なんかカラフルで目立つし・・・。
「じゃあ・・・これで」
「わーい、私が考えたやつだ。さすがさとるくん、私のことよくわかってるね」
あいみんが嬉しそうに両手を広げていた。
心の中でガッツポーズをした。
「私はちゃんとりこたんの作ったやつを選んだの」
「ふふ、そうね」
結城さんが自慢げに言うと、りこたんが隣で笑っていた。
「むむ・・・推しのを選ぶとなると、ちょっとずるいです。私のだって選ぶ人はいるはずです」
ゆいちゃが頬を膨らませていた。
「たまたまよ、それよりもさとるくん、牛乳とアイスティーとコーヒー何がいい?」
「じゃあ、アイスティーで。ありがとう」
のんのんがアイスティーを注いで、グラスを持ってきてくれた。
そのままくっついてくる。
「ねぇ、さとるくん。私が作ったのどれだと思う?」
「もうっ、くっつきすぎ」
あいみんがのんのんとの間を割って入ってきた。
「よいしょっと」
「ちょっと、久しぶりにさとるくんと会ったから、ダーリンの隣がいいんだけど?」
「私もさとるくんの隣がいいのっ。それにダーリンじゃないでしょ」
のんのんとあいみんが睨みあっていた。
「はいはい、ロゴの話はこのへんで、本題に入りましょ」
りこたんがパソコンの前に座って仕切り直した。
「え、結局どうするんだ? ロゴは」
「ツイッターの投票で決めるんだって。もちろん、今みたいに名前は伏せて。そのほうが盛り上がりそうだし、ファンのみんなも楽しめるんじゃないかって」
「なるほど」
結城さんがメガネを触りながら説明してくれた。
「12時間配信、となると、緊張してしまいますね」
「そうなの。やりたいと言ったものの、体力持つかな? 途中で寝ちゃいそう」
あいみんが髪を触りながら言う。
「それでなんだけど、6時間配信にしたらどうかな? 今日の23時59分から始めて明日のの5時59分に終わるの」
「そうそう。GW明けの月曜から仕事や学校の人も多いし、12時間っていうと宣伝にはなるかもしれないけど、見る側も構えちゃうと思うんだよね」
結城さんと話していたことをそのまま伝える。
「そっか・・・それもそうね」
「みんななら、もう名の知れてるVtuberだし、6時間でも見に来てくれる人たくさんいるよ」
「そうそう。4人ともそれぞれファンがいるしね」
「へへへ・・・そう言ってもらえると、嬉しいね」
あいみんとゆいちゃが頬を緩ませながら照れていた。
のんのんもにやけを隠すように口を閉じていた。
「決まったら即お知らせ。本日、『VDPプロジェクト』の6時間配信決まりましたーってツイッターで呟いておくね」
「私も」
「おわっ・・・一気にいいねが増えてく」
「本当だ。びっくりです」
あいみんとゆいちゃがいいねの速さに驚いていた。
りこたんがパソコンで他のVtuberの動画をスクロールしていた。
「ゲーム配信、ホラー・・・キャンプ、色々あるのね」
「キャンプやりたいな」
あいみんが手を上げる。
「嫌よ。虫とかいるじゃない」
「私は虫とか全然大丈夫です。それにほら、この被り物を付ければ、森にもなじめますし」
「絶対嫌」
のんのんがぷいっと視線を逸らした。
「まぁまぁ、今から準備するならキャンプは現実的じゃないかな」
「ほほほほ、ほ、ホラーゲームは、どどどどどうでしょうか?」
「・・・ゆいちゃ、怯えすぎ」
「みんなでトランプとか、ボードゲームとかするのはどうかな?」
結城さんがちょっと座り直しながら話す。
「いいと思うけど・・・見てる人楽しいかしら?」
「4人でわいわいしながらトランプや人生ゲームとかするって、なんだか修学旅行思い出して楽しいなって。あ、私だけの意見だけど」
「確かに、4人でいるだけで、見ていて楽しいしな。GWの修学旅行ってことでいいんじゃないのか?」
結城さんも、何度もうなずいていた。
ホラーゲームならゆいちゃが怖がっちゃうけど、みんなでまったりしているトランプや人生ゲームとか、見ているほうも楽だし。
推しの修学旅行の女子会とか・・・俺が見たい。
「二人が言うなら確かね」
りこたんが微笑んだ。
「『修学旅行の夜更かし配信』ってタイトルにしちゃおう」
「私たち修学旅行経験したことないんだけどね。さとるくんが言うなら確かだわ。きっと、ファンのみんなも喜んでくれるね」
のんのんが少し体を伸ばしながら言う。
「久しぶりにお酒飲むのは?」
「ゆいちゃが未成年なんだからダメでしょ。それに、あいみん、お酒飲んだらすぐ寝ちゃうんだから、配信にならないし」
「はーい・・・」
あいみんがりこたんにたしなめられていた。
「でも、修学旅行って知ってます。枕投げとかするんですよね?」
「やりたいやりたい」
「ゆいちゃが圧勝しちゃいそうだね」
「私だって最近体力付いてきたんだから」
あいみんとゆいちゃが楽しそうに話している。
この雰囲気を配信でみんなに見せてあげたいな。
「磯崎君は修学旅行とかどうだったの?」
「えっ・・・俺はいいよ。受験とかあったから、あまり気にしてられなかったし」
「そっか」
「・・・・・」
中学高校の修学旅行とか・・・リア充たちは女子と連絡とって会ってたみたいだけど・・・。
陰キャの男たちと集まってくだらない話してたから、女子が何をしているかなんて聞いたこともなかったな。
てか、修学旅行中に女子と話した記憶もない。
4人の話を聞いていると、こっちまでワクワクしてきた。
「タイムテーブル作ってみたら? 修学旅行らしく」
「あ、さとるくんも乗ってきたね」
あいみんがにやにやしながらこっちを見てきた。
「私、打っていくから案を出してみて」
「はーい」
りこたんがみんなの意見を一つにまとめていた。
~ 22:00 各自睡眠
~ 23:59 配信準備、配信開始
~ 02:00 ババ抜き、UNO(負けたら罰ゲーム)
~ 03:00 休憩タイム
~ 04:00 人生ゲーム
~ 05:00 ごろごろしながらトーク
~ 05:59 ファンのみんなとコメント交流
「こんな感じだけどどうかしら? もちろん、時間は臨機応変に」
りこたんがプリントを印刷して、テーブルに置いた。
「なんかこうやって見ると、すっごく楽しそう」
「本当に修学旅行みたいですね」
「結城さん、さとるくん、こんな感じでどうかな?」
「・・・・・・・」
結城さんと顔を見合わせて、噴き出していた。
「修学旅行の夜をタイムテーブルにするとか、マジで楽しいな。すっげーいいと思うよ」
「私も、この中に入りたいなって思う。絶対リアタイする」
「俺もマジで楽しみにしてる。参加したいくらいだよ」
「ね、私もVtuberだったら、4人の中に入りたかったな」
童心にかえった気分で話す。
「やったー、そんなに喜んでくれるなら嬉しいね。頑張らなきゃ」
あいみんが満面の笑みでクッションを抱きしめていた。
「ちゃんと2人とも、寝ないでリアタイしてくださいよ」
「もちろん。コメントもするよ」
「私も私も」
結城さんが身を乗り出していた。
「じゃあ、2人とも今夜はこの部屋に泊まっていけばいいんじゃない?」
「え!?」
りこたんがとんでもないことを言い出した。
「それがいいよ。私が休憩タイムでたまに行き来するから、そしたら2人とも参加してる気分になれるでしょ?」
あいみんがにこにこしながらこちらを見ていた。
「いい案ね。ちゃんとさとるくんが見てくれているか、確認できるし」
「あ、結城さん、この部屋ちゃんとシャワールームもあるから大丈夫だよ。ほら、ボディーソープも化粧落としも全部あるの」
あいみんがバスルームのドアを開けて説明していた。
「お・・・俺、家に戻ったりするから・・・」
「えっと・・・着替えとか持ってきてなくて・・・」
「大丈夫です、パジャマ貸してあげますので」
ゆいちゃが結城さんの傍ににじり寄っていく。
「本当?」
「うんうん。基本画面越しになっちゃいますが、たまに交代でこっちにも来るので、一緒に楽しみましょ」
「あ、ありがとう」
「・・・・・・・」
男女で一晩過ごすとか・・・。
いや、あいみんたちがいるから二人きりじゃない。
こうゆう風に考えていると、キモいって言われそうだ。
主に琴美だけど。
「じゃあ、泊っていくね」
「え? いいの?」
「だって、みんながここまで言ってくれてるし。私も4人の中に入ってみたかったの。修学旅行とか、そんなに仲いい友達いなかったから・・・こうゆう思い出作ってみたいなって」
結城さんが声を小さくしてから、鞄の中を確認していた。
「決まり、さとるくん、今日の夜は楽しみだね」
あいみんが肩をぴょんぴょんさせていた。
マジか・・・。
楽しみ・・・だけど、啓介さんにバレたら確実に殺されるな。この状況は。




