52 頑張りの原動力
呼び鈴を鳴らしたけど、あいみんが出てこなかった。
みらーじゅ都市に帰ってしまったのか?
「はいはーい、さとるくん?」
りこたんがドアを開ける。
「あ、りこたん。あいみんは?」
「さとるくんに彼女がいたって聞いて、みらーじゅ都市に戻っちゃったよ」
「・・・・・・・・・」
りこたんが腕を組んで、ちょっと怒ったような口調で話す。
「さとるくんに彼女ができるのはしょうがないと思うけど、ちゃんと話してくれてもいいんじゃない? 家に行ったりするんだから。しかも、いきなり家に連れ込むなんて」
「違うって・・・・」
「でも、女の子がいることは確かなんでしょ? あいみんショックで、明日からの配信できないって言ってるんだからね」
自分の家のドアが開く音が聞こえた。
「琴美?」
「お兄ちゃん・・・大丈夫?」
琴美と舞花ちゃんがひょっこりと覗き込んでいた。
「えっ・・・まさかその声はりこ・・・・・」
舞花ちゃんがあーっと声を上げそうになって、琴美が口を塞いでいた。
「あれ? 琴美ちゃん? ってことはその子は?」
「わ・・・私の友達です」
「え?」
「・・・そうゆうことだ」
りこたんがはっとして、頬に手をあてる。
「・・・ごめん、さとるくん勘違いしちゃって。そうよね。えっと、あいみんに伝えておくね」
「・・・・・・・・・・・」
戸惑いながら言っていた。
あいみんがそんなにショックを受けたことに驚いたけど・・・推される側もそうゆうものなのか。
「じゃあ・・・・」
「あっ、ちょっと待って。琴美の友達なんだけど、Vtuber目指しててあいみんに会いたいって言ってるんだけど。うちに来れるかな?」
「そうなの・・・?」
りこたんが舞花ちゃんのほうを見て、嬉しそうにしていた。
「あいみんに事情話して、呼んでくるね。なるべく早く戻ってくるから待ってて」
「あぁ。ありがとう」
ドアを閉めると、琴美と舞花ちゃんがひょいっと引っ込んだ。
「と、と、隣に、あいみんだけじゃなく、りこたんまでいるなんて」
家に戻ると、舞花ちゃんが顔を火照らせていた。
「よく声だけでわかったね?」
「あの声はりこたんですよ。しゃべり方も・・・・信じられない」
舞花ちゃんがおどおどしていた。
長いまつげをぱちぱちさせている。
「あいみんとりこたんが来るならもうちょっと具材買ってくればよかった。お兄ちゃん、お皿が足りないんだけど、紙皿とかある? なかったら買ってきてほしいんだけど」
「あぁ・・・・下の棚にあるよ」
棚を開けて、100均で買った紙皿を渡す。
「じゃあ、大皿に用意して、取り分けるようにしちゃおうかな? マッシュルームとポテトと鶏肉が少しあるから、昨日作ったホワイトソースもありし、グラタンも作ろうっと。品数多いほうがいいもんね」
琴美の家事スキルが上がってる。
料理サイト見ただけだろうけど、本当に要領がいいよな。
「琴美、私も手伝おうか?」
「いいよ。大丈夫だから、座ってて」
舞花ちゃんが緊張しながら座り直していた。
「おじゃまします」
20分くらいしてから、りこたんがドアを開けた。
あいみんが後ろからおそるおそるこちらを見る。
「あ、本当だ。琴美ちゃん・・・そっか。1日伸びたって言ってたもんね」
「いい匂い・・・ハンバーグ?」
「はい。よかったら食べて行ってください。作りすぎちゃったので」
琴美が機嫌よく2人を迎えていた。
あいみんがパーカーの紐を触りながら、琴美の横に立つ。
「わぁ、すごい。これ全部、琴美ちゃんが作ったの?」
「はい。料理が好きで」
ハンバーグ、野菜スープ、アボカドの前菜、グラタン、ほうれん草のバター炒め・・・・・。
確かにすごい。
さっきまでSNSに載せる用の写真撮影会で大変だったけどな。
ちらっと打っていた文章を見てしまったが、ハルアキに作ってあげたいメニューらしい。
「あの、あいみんさん、りこたんさんっ」
舞花ちゃんが急にぴしっとした。
「い、いつも見ています。今日は会えてすっごく嬉しいです。ありがとうございます」
「そ・・・そうかな・・・? 見てくれてるんだ? こちらこそ、応援してくれてありがとう」
あいみんがにやけながら、舞花ちゃんの隣に座った。
「さっきはさとるくんに彼女ができたのかと思って、びっくりしちゃった」
「お兄ちゃんに彼女ができるわけないじゃないですか。あの、この前はハルのボイスをありがとうございます」
「えへへ、喜んでもらえてよかった」
琴美が割って入るようにして座った。
「それにしても、りこたんさんまで隣にいるなんて、二人で住んでるんですか?」
「ううん、配信のない日だから画面から出・・・・・」
「えっと、たまにりこたんが遊びに来てるんだよな?」
「そ、そうそう」
危ない。
あいみんがするっと、画面から出てきていること話してしまうところだった。
りこたんもヒヤッとした表情をしていた。
「いただきます。ん、このハンバーグ美味しい・・・ソースも、お店のハンバーグみたい」
「アボカドのサラダも美味しいし。琴美ちゃん、料理上手なのね」
「ありがとうございます。レシピ通り作っただけなんですけどね」
あいみんとりこたんに褒められて、まんざらでもない顔をしていた。
「うちらの中では、のんのんとりこたんが料理上手だもんね?」
「のんのんには負けるよ。プロみたいなものだもの」
「いいなぁ、私も練習してるけどなかなかうまくいかないの。いっつも焦げちゃうんだもん・・・練習してるけど・・・」
あいみんが小さな口でもぐもぐしながら言う。
「琴美だって、家では全然作ってなかったよな?」
「うっさい。お兄ちゃんは黙ってて」
「・・・・・・・」
にこにこしながら、刺すように言ってくる。
でも、死ねまでは言われなかったから成長してると思った。
「あいみんさん、最近歌もよく歌ってますよね?」
「へへ、そうだね。歌だけは、だんだん自信付いてきたから。コメントでも褒めてくれる人たくさんいるし」
前髪をちょっと触りながら照れていた。
素直で可愛いな。癒される。
「・・・みんなすごいですね、たくさん才能があって・・・」
舞花ちゃんの声が少し小さくなった。
「私なんて配信機材渡されても、どう使うかわからなくて心配なのに、あいみんさんもりこたんさんも配信しながら、他にもいろんなことができちゃうんだから」
「全然そんなことないよ。私たちの場合、みらーじゅ都市から直接配信してるから、準備とかはAIロボットくんがやってくれるし覚えることあまりないんだ」
「・・・・・・・!?」
りこたんと目が合う。
あいみんがさらっとすごいことを言った。
「え?」
「そうそう、Vtuberは自分の設定に忠実なんだよ。苦労してるところって、いくら親しくても絶対見せないんだよな?」
「そうなの。ね、あいみん」
「んん・・・うんうん」
りこたんと俺だけが慌てていた。
ワンテンポずれて、あいみんが気づいたようだ。
やっちゃったって顔でこちらを見ていた。
「そっか・・・どこにいても設定に、忠実に・・・」
「夢を与える仕事だもんね。私は普通に進学するけど、将来誰かに夢を与えるような仕事に就きたいな・・・」
琴美がスプーンを置いて口を拭いた。
「えっと・・・あと夢は大きく持っておくといいよ。頑張ろうって気持ちになれるの」
「そうね。私たちだと、武道館目指してから、本格的に始動した感じだもんね」
「そうそう」
りこたんが少し足を崩す。あいみんが大きく頷いていた。
「決めました。私も武道館ライブ目指します、それくらい認められるVtuberになります」
舞花ちゃんが両手を握り締めて言う。
「会社の目標はそれはそれで・・・自分の目標は武道館ライブって決めました」
目をキラキラさせていた。
「じゃあ、あいみんとライバルだな」
「へ? そ、そそんなつもりじゃ・・・・」
委縮していた。
「うん。ライバル、だけど、一緒にVtuber盛り上げていこうね。最初はできなくても、一生懸命な気持ちは伝わるから大丈夫」
あいみんが笑いかけると、舞花ちゃんの肩が少しずつ下がっていった。
確かに、みんなでVtuberを盛り上げていければ、押す側としても嬉しいな。
「ね? さとるくん」
「え・・・・? 俺?」
「推してくれる人がいると、もっともっと頑張れるから」
「・・・・・・・・」
あいみんが上目遣いにこちらを見る。
「お兄ちゃんあいみんばっかだもん。はいっ」
琴美が不機嫌になりながら、食べ終わった皿を突き出してくる。
「洗い物はちゃんとやってね。私が作ったんだから、それくらい協力して」
「・・・・・はい」
しぶしぶ立ち上がって、台所に立つ。フライパンとまな板がそのままになっていた。
まだ食べてる途中だったのに・・・。
「さとるくん、琴美ちゃんには敵わないね」
「そんなことないですよ。この前だって、待ち時間に遅れたくらいで・・・・」
何を言い出すかハラハラしていた・・・・。
でも、まぁ、琴美とあいみんが楽しそうだから・・・今日はいいか。




