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俺の推しは裏切らない!  作者: ゆき
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51 Vtuberのたまご

 スーパーの袋を持って歩く。

 ひき肉と付け合わせのキャベツやアボカド、飲み物が足りないからお茶とりんごジュースなどを頼まれていた。

 家には舞花ちゃんが来ていて、琴美がハンバーグを作ると言い出した。


 すっかり料理にはまって、誰かに披露したいみたいだ。

 インスタグラムに載せたところ反響が多かったらしい。


 窮屈だな。

 でも、あと1日だ。明日から自分の時間ができると思えば、頑張れそうだ。




「ただいま」

 ドアを開けると炒め玉ねぎのいい香りがした。


「お兄ちゃん、ちゃんと言ったもの買ってきてくれた?」

「ほらよ・・・・」

 どんと、袋を置く。

 ペットボトルを2本テーブルに置いた。


「ふうん。ベーコンって、薄切りの買ってきたの? 厚切りのほうがよかったのに」

 ビニール袋から食材を出しながら、ぶつぶつ文句を言っていた。


「はは、琴美はすごいね。勉強もできて料理もできて、可愛いんだから」

「そんなことないよ。欠点だらけだよ」


「・・・・・・・」

 本当にな。

 舞花ちゃんにはXOXOのファンであることは黙っているようだ。

 あれだけずらっとベッドに広げていたクッズは、綺麗に旅行バッグの中に納まっていた。

 俺も一切話さないようにと口止めされていた。



「はぁ・・・私は、琴美みたいになんでもできないから」

 自信なさげに言う。

「声優オーディションで選ばれたほうがすごいよ。羨ましいな、なりたいものが決まってて」

「全然なれてるわけじゃないよ。受かったのだって、運だし、まだまだこれからだもん」

 舞花ちゃんが首を振っていた。


「・・・あ、お兄さん、ここに座ります?」

「あぁ」

 ショートカットのくせっけで、小柄な女の子だ。

 声も特徴的だが、猫のような愛くるしい顔をしていた。

 琴美からは絶対に手を出すなと言われていた。

 

 ていうか、陰キャの俺が、んなことできるわけないんだけど。


「・・・Vtuberやってるの?」

「はい。でも本格始動の配信はまだで、事前のプロモーションに声あてたりしてるだけですけど」

プロモーションとかあるのか。

かなり力入ってるな。


「今は3Dモーション動画取るのに、他のVtuberの動きとか、話し方とか見て勉強してるんです」

「機械とか揃えるの大変じゃない?」

「それは大丈夫です。機械関係は全部会社が支給してくるんです。マイクも、あとイラストは専門の方が私をイメージして作ってくれて。ゆくゆくは英語もしゃべれるようになって、海外進出も考えてるんですよ」

 夢を話すと急にぱっと明るくなった。


「すごいな、なんて会社なの」

「Dプロダクションです」


「Dプロダクション!?」


 思わず聞き返してしまった。

 大人気Vtuberナナカツを生み出した、Vtuberの先駆けのような会社だ。


「え? 大手なのは知ってるけど」

 琴美がビニール手袋をはめて、ハンバーグ種をこねながら聞いてくる。


「倍率もすごかったでしょ。Dプロダクションは確か世界が選ぶこれから伸びていく会社の1つにも選ばれているはずだし」

「よくご存じですね」

「まぁ、お兄ちゃんは熱狂的なオタクだからね」

 舞花ちゃんが、そんなにすごいところからサポートを受けるVtuberになるとは・・・。

 幼いころから、顔も仕草も可愛らしかったのは確かだけどな。


「それは・・・本当に海外進出できそうだね」


「今はひたすら英語を勉強中なんです。本当は、もっといろんな言葉も話せたらいいのですが、私もともと何事も要領が悪いから。今日、会社の人と色々話してきたけど、ノート取るばかりで、頭に入らなかったし。バックはすごいのですが、全然やっていける自信が無くて・・・」


「舞花なら叶うよ」

 琴美が芯のある声で言う。


「だって、昔から努力家だもん。運動会もビリだったし、数学国語も0点取ったこともあったけど、絶対に最後まで諦めなかったし、私、そうゆうの本当にすごいなって思うの。普通みんな折れちゃうもん」

「琴美は何でもできちゃうからね。いつもクラスの人気者だったし、琴美がVtuberになったらきっと私なんかよりも・・・」 


「違うよ。舞花は諦めないことがすごいんだよ。最初は失敗しても、無理だって逃げたりしないところがすごいのっ」

 ぐるっと振り返って主張していた。


「だから、もっと自信もって」

「・・・・・・・・」 

「きっと、舞花なら良いVtuberになれるんじゃないかな。自分と同じ境遇の人に寄り添ってあげられるんだから」


「へぇ、なんか良いこと言うじゃん。どうした?」

「うるさい。お兄ちゃんは黙ってて」

 刺すような目つきで睨まれる。

 なんとなく、XOXOのハルが言いそうな言葉だと思ったけど、黙っておくか。


「そっか。そうだよね。私、みんなの支えになるようなVtuberになりたいな」

「俺もなれると思うよ」

「そう・・・ですか・・・?」

「うん」

 色んなVtuberがいるけど、俺も琴美と同意見だ。

 舞花ちゃんならできるような気がした。



「そういえば、お兄さんはVtuberの誰推しなんですか? 私、かなりチェックしてるので多分わかると思います」

「浅水あいみ・・・ってわかる?」


「もちろんです。この前、地上波で取り上げられてましたもんね」

 食いついてきた。

 グラスに注いだりんごジュースをこぼしそうになっていた。


「私もあいみん大好きですよ。いつも、コメントとか気にしていて、優しくて、一生懸命で、好きになる気持ちわかります。今は『VDPプロジェクト』で武道館ライブ目指してるって」

「そうそう。よく知ってるね」

「あいみんは私の憧れですから」

 舞花ちゃんが表情を明るくしながら言う。

 なんか推しが褒められると、自分が褒められているように嬉しいな。



「お兄ちゃん、あいみんにかなり入れ込んでるもんね。いつもリアタイしてるし」

「まぁ、そこそこ、健全に推してるだけだよ」

 ちょっと咳ばらいをする。


「健全? 昨日、お兄ちゃんのいない間にクローゼット開いちゃったんだけど」

「は? だって、それは見ない約束だっただろ!?」


「だって、オープンキャンパスで貰った試験用紙が下に入っちゃったんだもん。見ないように開けたのに、上からあいみんグッズが崩れ落ちてきたんだから仕方ないじゃない」

「・・・・・・・・」

 ものすごい責めたいんだけど・・・できない・・・。


「私もそこそこ被害者よ。あんなことになるなんて知らされていなかったんだから、扉に頭とか打ったし」

「うっ・・・・・・・」

「ま、親には内緒にしておいてあげるけど」

 悪魔みたいに笑う。何も言い返せなかった。


 とりあえず、このことを後で何かの交渉材料に持ち込まれたら、ハルの琴美専用ボイスでどうにかしてもらうしかない。

 何度も申し訳ないんだけどって、ハルにスライディング土下座きめたい。



「でも、そんな風に、応援してくれるって、きっとあいみんも嬉しいと思います。私だったら、お兄さんみたいなファンがいたら飛び上がっちゃうくらい嬉しいです」

 舞花ちゃんが花のように笑った。

 


「あーっ、どうしよう・・・ケチャップ服に付いちゃった」

 立ち上がって、服を見た。白いシャツに絵具みたいに伸びている。

 

「これくらい落ちるって。お湯で服の裏側から濡らして、食器用洗剤で洗ってきな」

「うん。お兄ちゃん、替えのスウェット持ってきて」

「あぁ」

 火を止めて、服を引っ張っていた。

 ベッドに畳んでいた、スウェットを洗面台に置いてやる。


 琴美が洗面台にいっている間、ハンバーグの種にラップをかけておいた。

 ケチャップの蓋をペーパータオルで拭く。


「お兄さん頼りになるんですね」

「いや・・・これくらい普通だよ・・・」

 舞花ちゃんが立ち上がって、琴美の作った野菜スープの匂いを嗅いでいた。


「いい匂い、絶対美味しい。さすが琴美ね」


「舞花ー、ごめんね。あとちょっとでとれそうだから待ってて」

「いいよ。作ってくれてありがとう」

 洗面台でごしごし流す音が聞こえた。

 何でもできるんだけど、こうやって、たまーに手間のかかる妹なんだよな。




「こんばんは、さとるくん。暇だから来ちゃいましたー」  

「えっ・・・」

 

 あいみんがドアを開けて入ってきた。

 いつもの癖で、鍵を閉めるの忘れてた。


「あっ・・・・・」

「ん・・・・?」 


 舞花ちゃんとあいみんの目が合う。


「さ、さ、さとるくんが、琴美ちゃんじゃない・・・知らない女の子と一緒に料理を・・・・」

「違っ・・・・舞花ちゃんはっ」


「まま、まい・・ごご、ごごめんさい。お邪魔しました」

 ものすごく動揺していた。

「待っ」

 否定する前に、勢いよくドアを閉めて出て行ってしまった。

 


「・・・・・・・」

 また、誤解されてしまった。

 既視感がすごい。

 


「ん? どうしたの?」

 上だけスウェットを着た、琴美が洗面台から出てくる。

 なんでタイミングよくこんな時に・・・。


「まさか・・・とは思うんですけど、今のってあいみんですよね? あいみんの声と動作そのものだったんですけど」


「・・・・・・・」

 鋭い。

 舞花ちゃんが信じられないという表情で、こちらを見上げてきた。

 琴美が無言のまま、あいみんを連れてきてほしいと目で訴えている。


 まぁ、あんな風に、Vtuberへの夢を語られちゃうと応援したくなるよな。

 どちらにしろあいみんへの、誤解を解かなきゃいけないし。 


 あいみん、呼んでくるか・・・・。

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