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俺の推しは裏切らない!  作者: ゆき
51/183

50 クッション

 パソコンの前に座って、旅行の動画を眺めていた。

 琴美が家にいると、あいみんの動画、アニメが堂々と見れないんだよな。

 なんとなく健康的な動画しか映せない気がして、ストレスが溜まっていた。


『おはよう。琴美ちゃん、起きて。今日も一日頑張ろうね』


 また聞いてる・・・・。夜なのに。


「あーハルの目覚ましボイス。よすぎるぅー」

 足をバタバタさせながら、ため息をついていた。

 ベッドにはXOXOのグッズが並んでいて、完全にオタク女子になっている。

 実家にいたときは、一度も見たことのない姿だ。


「・・・よかったな」

「うん。お兄ちゃんありがとう。今日の夕食も、何か作ろっか?」

「え・・・?」

「作ってあげるよ。何かリクエストある?」

 あからさまに機嫌がいい。

 いつかこの反動が来そうで、ぞっとする。


「・・・なんでもいいよ。適当によろしく」

「了解。じゃあ、インスタ映えする、オムライスにしよ。付け合わせはどうしようかな? この辺スーパーって、駅の近くのところしかないの?」


「裏側の角曲がったところに大きいのがあるよ。車の通りが激しいから気を付けて」

「うん。わかった」

 にこにこしながら頷く。

 勢いよくベッドから起き上がると、冷蔵庫の中と調味料を確認していた。


「えっと、卵が足りないから・・・・たまねぎも無いのね・・・調味料は全部ある・・・っと」

「・・・・・・・」

 琴美が髪を一つに縛って、エコバッグを持っていく。


「じゃあ、行ってくるね」

「・・・うん・・・・」

 ドアが風に押されて、バタンと閉まる。



 なんだこれ?


 ハルのボイスって何? なんか洗脳する特殊な周波成分でも含まれてんの?

 逆にこえーよ。

 何食ったらあんな毒の取れた妹になんの?

 顔面に全振りして、何年も性格には毒しかなかったのに。


「・・・・・・・・」

 試しに、あいみんのクッションをベッドに置いてみるかな。

 ここまでくると、むしろいつもの反応がなきゃ怖い。


  

 クローゼットに仕舞っていた、あいみんグッズを漁る。

 琴美には絶対開けるなと念をしておいた場所だ。


 ピンクの水着を着たあいみんがプリントされた、小さめのクッションを取り出した。

 離して、ゆっくりと眺めてみる。

 同人だから、ちょっと胸が強調されて、ポーズが少しエロいんだけど・・・。


 まぁ、実物のほうが数百倍は可愛いから、たまに愛でる用になっていた。

 


 これをさりげなく置いて・・・と。

 琴美に見つかったら、キモいって言われるに決まってる。

 キモいって言われなかったら、ハルの音声に洗脳されている可能性がある。


 って、冷静に考えるとそんなわけないんだけどさ・・・。

 思うように推し活ができてないから、頭おかしくなってるのかな。




 ガチャッ


「じゃーん、あいみん登場」



「え!?」

 光の速度で、クッションを背中に隠す。


「あ、あいみん・・・急に、どうしたの?」

「ん? さとるくん、何か今後ろに隠した?」


「ううん・・・・えっと、ほら・・・今ヨガのポーズやってたんだよ。後ろに手をやるやつあるだろ?」

「それなら、私もできるよ。こうやって、手を後ろにくっつけるやつでしょ?」

 あいみんが後ろを向いた瞬間、布団の中にクッションを入れた。

 もぞもぞ動きながら手を合わせている。


 かなり、危なかった。


「ほら、すごいでしょ? 私、いつも柔軟してるから体柔らかいの」

「へぇ・・・すごいね・・・・」

 脂汗が出ていた。

 ヨガのポーズなんて知らんが、どうにか誤魔化せた。


「今日はこんな時間に、何かあったの? いつもなら配信終わりに来るのに」

「そうそう、琴美ちゃん喜んでくれたかな? って。ハルのボイス」

 あいみんがにこにこしながら聞いてくる。


「あぁ、ものすごく喜んでたよ。変なモノでも食べたんじゃないかってくらい、一日中テンション高くてさ」

「本当? よかった。頑張って取ってきた甲斐あった」


「機嫌がいいから、今日も夕食作ってくれるらしいし。すごいな、ハルって・・・」

「琴美ちゃん、料理できるの?」

「まぁ、最近やり始めたらしくて・・・得意だってわけじゃないと思うけど・・・」


 ちらっと布団のほうに目をやる。

 動揺しすぎて、ちゃんと隠せていなかった。

 あいみんのクッションの3分の1がはみ出ている。


「これが、XOXOのライブグッズ? タオルもあるんだ。琴美ちゃん、本当にファンなんだね」

「そ、そうそう」

 琴美がベッドに広げていたXOXOのハルとアキのグッズに近づいていく。

 危険地帯に入ってしまった。

 どうにかして、気を紛らわせて・・・。



「あいみん、今日の配信はどんなことするの?」

「えーっとまだ決まってな・・・・あ、こうゆうロゴマークのタオルとか私たちも作りたいなって思ってたの。『VDPプロジェクト』にもロゴ、あったほうがいいよね?」

「うん・・・」

 今、ロゴとか考える余裕ではない。


「私そうゆうの苦手なの。さとるくんは?」

「俺も、センスとかは無いから・・・のんのんは?」


「のんのんはセンスいいけど、こうゆうパソコンで作る何かって苦手だからなぁ・・・でも、聞いてみようかな」

 あいみんの意識をベッドから逸らしたいのに、全然気が逸れない。

 あと少しで、クッションにたどり着いてしまう。


「えっと、そうそう・・・そろそろ琴美が・・・」

「ごめんごめん。夕食の時間だもんね」

 あいみんが布団をちょっと引っ張って立ち上がった。



「ん? これもXOXOのグッズ・・・?」

「あっ・・・・・」

 隠していたクッションに手を伸ばす。



 終わった・・・。

 血の気が引いていく。


「これ・・・私・・・? さとるくん、こうゆうのいつもベッドに?」

 あいみんがクッションを見て、顔をぼっと赤くしていた。


「いや、違・・・それは、その・・・」

「おっぱいも・・こんなに大きい・・。でも私だってよせればこれくらい・・・」

 自分の胸と比べて、俯いていた。


「むぅ・・・・・」

 ふるふると体を震わせていた。

推しにキモいとか言われたら明日から生きていけない。

 全身の力が抜けて、崩れ落ちそうだった。


「今日は、もう帰る。配信があるから」

「うん・・・」

 あいみんがクッションを突き返してきた。

目を合わせずに玄関のほうに行く。

 さすがのあいみんでも、これはドン引きするよな。

 水着のあいみんを傍に置いておきたくて、衝動買いしてしまったけど・・・。

 精神的ダメージがすごい。あいみんがいなくなった後、泣いておこうと思う。


「あ、さとるくん」

「ん?」

 ちょっと恥ずかしそうにしながら振り返る。

「嫌だったわけじゃないからね。さとるくんの推しは私なんだから、あのクッションを枕の傍に置くのは、いいんだけど・・・胸はもうちょっと成長するの待ってってことだからねっ」

「え・・・・・」

「まだ成長期なのっ。ヨガとかやってるし、すぐあんな体型になるからね。ちゃんと、私を見てね」

「・・・・・・・」

 腕を伸ばして訴えていた。こんなに、可愛いVtuberいるのかよ。

「じゃ・・・じゃあね・・・・配信はアーカイブだと思うけど、ちゃんと見てね」

 あいみんが家から出ていった。

 推しが尊くて、鼻血が出そう。


 

「ただいま、あれ? お兄ちゃん、誰か来てたの?」

 玄関の靴が少しずれているのを見て、聞いてきた。


「いや・・・・少し、掃除したんだよ。埃っぽかったから」

「ふうん。お兄ちゃんも玄関とか掃除するんだ」

「一人暮らしだしな」

 琴美が何の疑いもなく鼻歌を歌いながら、台所に食材を並べていた。


「ねぇ、卵8つ入りのが特売だったから8つ入り買ってきたの。賞味期限長いから適当に食べてね」

「うん・・・・・」

 あいみんのクッションは元の棚に隠していた。

 さっきの、あいみんとの会話で、琴美の反応まで正面から受け止める体力と精神力が無くなっていた。

 しばらく、穏便に過ごしたかった。  

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