4 女子人気のVtuber?
昨日の衝撃がいまいち抜けきらないまま、大学に来ていた。
一晩あけたら、夢だったんじゃないかとさえ思えた。
初めての一人暮らしで、ただでさえ慣れていないこと多いのに。
推しのVtuberが隣に住んでるとか・・・。
昼休み時間中、情報教室でみらーじゅプロジェクトという謎の組織について調べていた。
設定としては、人工知能を持つみらーじゅ都市に住んでるらしい。こっちの世界を知りたくて配信を始めた・・・ってよくある設定だ。
『みんなへ愛と勇気を届けるよ』という声が漏れそうになって、慌ててミュートにした。
公式HPはやっぱり作りこんでいて魅力的だ。
もっと早く見ておけばよかったな。
人気のVtuberってことと、あいみんの公式グッズとツイッターくらいしか調べていなかった。
みらーじゅプロジェクトの公式設定だとか、検索上位に上がってこなかったし・・・目に留まらなかっただけかもしれないけど。
SNSでもほとんど触れられていなかった。
検索すると、常にあいみんの動画が上位にあって、ついクリックしてしまうと、時間の許す限り見てしまう状態だった。
ん? でも、”みらーじゅプロジェクト 浅水あいみ”で検索すると、あいみんだけの公式HPとか出てくるんだろうか?
推しなのにも関わらず、ちゃんと調べていなかった。
3次元推し、佐倉みいなの結婚から、推しへの検索について慎重になってしまっていた。佐倉みいななんて匂わせ記事が出ていたし、嘘だと思ったら本当だったんだよな。
ま、あいみんは2次元だから、彼氏とか出てくるわけないんだけどさ。
検索ボタンをクリックする。動画とランキングを除いて、浅水あいみについて語るブログなどがずらっと出てきた。
ぱらぱらと、軽くクリックしていく。
ざっと見た感じ、共感しかねぇな。
照れながら首を振ってる部分でスクショを撮ってるブログ。
あいみんの可愛さについて論じていたブログ。
めちゃくちゃ趣味が合う。家に帰ったらじっくり読もうと思う。
いや、そうじゃなくて・・・。
公式HPよりファンブログが上位に出てくるなんて、どうなってるんだよ。
2ページ目で、やっと、みらーじゅプロジェクトの浅水あいみの公式HPっぽいURLが出てきた。
恐る恐る、開いてみる。
・・・・・・・・。
これは、あいみんの偽サイトだと思って、誰も二度と開かないんだろうな。
あまりの安っぽさに驚いていた。見なかったことにするのが一番かもしれない。
偽サイトじゃないよな? と、URLを何度も確認してから眺めていた。
何よりも、すっげーダサい。
何年前のWEBサイトだよって思うくらい、センスがない。
ちょこちょこ出てくるあいみんの静止画は可愛いんだけど・・。
素人の手作り感が溢れている。
HTMLからできている、完全な静的ページだった。
HPが動的ページになっていないなんて・・・。
右から左に流れていく、謎の虹色のバーみたいなのまであるし。
誰だよ、このバーくっつけたの。高速で『ようこそ』って文字が流れていって、ぞくっとしたんだけど。
嘘だろ。これが人気VtuberのHP。
低予算過ぎるだろ。エンジニアの身内に不幸でもあったのか?
右クリックしてソースコードを表示すると、いたずら書きみたいなアートまで出てきた。
「ここまで頑張った」とか、「誰か見てる?」とか中の人のコメントまで書いてある。
これって、本当にちゃんとしたエンジニアが作ったのか?
素人でも、俺のほうがいい仕事できそうなんだが。
「入学早々、勉強熱心ですね」
「あ・・・・・・」
「隣いいですか?」
メガネをかけた女子が声をかけてきた。
「あぁ・・・・」
あぶねー、ソースコード表示しておいてよかったよ。
学校では、あいみん推しであることは隠しておこうと思っていた。大学は初めの印象が4年間ついて回るって言うしな。オタクオーラは引っ込めて・・・。
「それって、貴方が作ってるHTMLなんですか?」
「いやいやいや、俺じゃないです」
思いっきり首を振る。さりげなく閉じていた。
「そんなに否定しなくても。あ、私もその授業取ったんです。教科書読んだけど、わからないことだらけで」
一番上に積み上げていたソフトウェア開発の手順を指していた。
「高校までは受験勉強ばかりで、プログラミングとかあまりやってこなかったから・・・不安で勉強しなきゃって思って。明日の2限からですよね?」
「確か、そうだったと思います」
少し緊張気味に話していた。
「でも、俺もプログラミングとか、あまり詳しくないんで・・・」
「さっき、ソース見てたじゃないですか。私、そうゆうちょっとしたことさえも勉強してこなかったんですよね」
髪を耳にかける。
「これは・・・」
最推しVtuberのHPがボロクソだったから呆然としていた、なんて言えないよな。
「はは・・・俺も色々勉強中で・・・」
「その教科書の並びを見る限り、インフラエンジニアというよりは、アプリケーション関連の仕事に就きたいと思ってるんですか?」
「まぁ、そんな感じです」
将来なんてあまり考えていなかったけど、適当に流した。
「私もそうなんです。将来的には・・・・あ、Vtuberとか、知ってます?」
「え? はい、話には・・」
ぎくっとして背筋が伸びる。
「私、将来的に、そうゆう技術の製作者側になりたいなって思っていて。具体的にはVtuberのゲームを作りたいんです。育成ゲーム」
目をキラキラさせながら言ってきた。
「じょ、女子でそうゆうのって珍しいですね・・・」
「そう。よく言われてしまうんですけどね。でも、私はみらーじゅプロジェクトの神楽耶りこのゲームを作りたいんです」
「神楽耶りこ・・・・?」
「りこたんのためのゲームです。私、それくらい、りこたんが好きなんです! りこたんは尊いんです」
「え・・・うん」
ぐぐっと迫ってきた。
神楽耶りこって、あいみんの次の次くらいに人気のVtuberじゃないか。
黒髪のちょっとクールなお姉さんキャラで、確かに女子に人気だと書いてあった。
あいみんと同じ、みらーじゅプロジェクトのVtuberだったのか・・・。
初めて知った。
知らないことばかりなんだよな。
全ては、三次元推しのショックを引き継いでるせいなんだけど。
「すみません。初対面で、すごく語ってしまいました」
顔を赤くしてメガネを上げた。
「全然です。俺も少しVtuberとかに興味あるので」
少しどころじゃなく、どっぷり浸かってるんだけどね。
「そうなんですね。Vのことならなんでも聞いてください。私、結構詳しいんですよ」
「よ、よろしく・・・」
にこっと笑うと、隣のパソコンでエクセルを開いて、教科書と照らし合わせていた。
真面目な子だな・・・。
この子に昨日あいみんが来た・・・なんて話しても、信じてくれないだろうな、と思っていた。
俺だって、あいみんに会ったとか、実感がないんだからな。