48 XOXOのライブ
ZEPP TOKYOの前でスマホを確認する。
琴美からLINEで20分くらい遅れるときていた。迷っているわけではないらしい。
ガンダムの立像を通ってきたから、待ち合わせに遅れると思って慌てたけど・・・。
普通、推しのライブなんて1時間前には会場前に到着するだろうが。
「あ、すみません」
「・・・いえ・・・・」
XOXOの缶バッチを付けた女子3人組のバッグがぶつかってしまった。
どんどん人が集まってきて整列している。
着飾った女子ばかりで、かなり気まずい空間だった。
男なんてまず、いないし、居たとしても彼女とイチャイチャしながら並んでるし・・・・。
一人で会場前にいる男なんて白い目で見られそうだ。完全に、場違いだ。
「お兄ちゃん、あまり挙動不審で待たないでくれない? 目立つんだけど」
琴美が到着するなり、暴言を吐いてきた。
「いや、お前が遅れたから一人で待つ羽目になったんだろ?」
「だって、お台場きたらヴィーナスフォートとか行ってみたいところたくさんあったんだもん。しょうがないじゃない」
「・・・・・・・・・」
全く反省するそぶりすらない。
少しイラっとしながら、チケットを突き出してきた。
「あの・・・・」
隣にいた女の子が明るく話しかけてくる。
「ことちゃんのお兄さんですね。初めまして、のあっていいます。今日はありがとうございます」
「こちらこそ、愚妹がお世話になってます」
身長が低く、少しぽっちゃりした女の子だ。
レースがたくさん付いた、ロリータ系の服を着ていた。
「ねぇ、のあちゃん、早く席ついて物販に行こう」
「そうね。今回のライブ限定のクリアファイルやタオルもあるみたいだから」
「シッティング?」
「そう、XOXOのファンは上品に、がモットーなんだから。シッティングで思いっきり応援するの。常識でしょ?」
「・・・ファンってか、ただの付き添いだからな」
頭を掻く。
「XOXOは小学生のファンにも配慮して、シッティングなんですよ。スタンディングだとどうしても危険になってしまいますから」
「へぇ・・・・」
のあがひょこっと顔を出して説明してくれた。
席に着くと、やっと一仕事終わったような気がした。
大画面にXOXOのセントバラ学園の様子が映されているのを、何しに来たんだろうって思いながら眺めていた。
琴美とのあの荷物の監視役として、待っていた。
XOXOの音楽が流れていて、周囲からライブ前のワクワク感が伝わってくる。
ガールズドールの佐倉みいなを推していたときを思い出すな。
物販でチェキやブロマイド、タオルを買ったりしていた。
結婚発表後、トラウマになっていたけど、あいみんもこんな風にLIVEをするかもしれないと思えば、全然景色が変わって見えていた。
『VDPプロジェクト』の4人はどんなライブをするのだろう。
ま、XOXOのライブ自体は興味ないし、シッティングだし、途中でばれないように寝れるかな。
一人くらい寝ていてもばれないだろう。
「ねぇ、ここのハルアキすっごくかっこいいよね」
なんか色々入った袋を持って、琴美たちが帰ってきた。
「そうそう。数日前にアップされたセントバラ学園のショート動画。二人でバスケしているやつとか、もうかっこよすぎて」
「そうそう、何回も見た。絶対あんなの近くで見たら好きになっちゃうよね」
「ねー、頭もいいし、スポーツもできるなんて・・・本当王子だよね」
「あー、大学生になったら、そうゆう人いないかなー? あ、お兄ちゃん、ちゃんと見ててくれた」
こちらを見ると、急に冷めたような声で言ってくる。
声のトーンの高低差がすごい・・・・。
「・・・・見てたよ」
バッグの中をごそごそ開けて、ペンライトを2つこっちに渡してきた。
「はい、お兄ちゃんもちゃんと振って」
「え・・・俺も・・・・?」
やっぱり、こうくるよな。
「これは、一昨年のライブのものですね?」
「そう。すごく安くなってて、フリマアプリで買ったの」
親父・・・。
変に彼氏ができるよりもいいと思ってるんだろう。
「俺は別に2ついらないって・・・・1つでいいよ・・・」
「両手にペンライトが必要なの。仕組みはわかるでしょ? オタクなんだから」
「・・・・わかったよ」
ペンライトを確認する。ハート形になっていた。
大分きついな。
「私も準備しなきゃ」
「私も、私も」
二人でウキウキしながら、ペンライトを出して、缶バッチやランダムブロマイドを見せ合っていた。
会場が急に暗くなる。ざわめきが収まっていった。
『今日は俺たち、XOXOのライブに来てくれてありがとうございます』
『皆様をXOXOの世界へとご案内しましょう』
パン
ステージに光が当たると、XOXOの4人が3Dホログラムによって投影されていた。
大画面に薔薇の花束が映し出されて、パンと弾ける演出がされていた。
黄色い声援が飛び交う。
ハルの伸びのある歌い出しで曲が始まると、一斉にペンライトで会場が埋め尽くされる。
ナツはアクロバティックな技を決めてから歌ったり、アキは低音からゆっくりと声を出して、フユは一番小さかったが丁寧に音程が取れていた。
ダンスも少しの乱れもなく揃ってる。
レーザーの当て方も上手いし、全体的にクオリティが高いな。
トークも含め2時間、なんだかんだ眠くなったりしたけど、周囲の熱気に押されてペンライトを振っていた。
寝そうになると後ろの悲鳴のような叫び声で起きたりしていた。
『では、みなさんXOXOの世界は楽しんでいただけたでしょうか?』
『また、待ってるよ』
『皆様に楽しんでいけたのなら光栄ですね』
『そうゆうことで、次のライブもよろしく』
ハル、ナツ、アキ、フユがチャイムと共に画面の中に消えていった。
大歓声で、しばらく拍手が鳴りやまなかった。
やっと、終わってくれた。
ライブ自体はよかったけど、あいみん推しとしては複雑だ。
こいつらもみらーじゅ都市にいるんだからな。
「混む前に出るぞ・・・・」
「・・・・・・・・」
荷物を持って立ち上がる。
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
琴美は、ぐしゅぐしゅに泣いて立ち上がれなかった。
メイクもボロボロになって、アイラインが落ちたのか目の回りがパンダみたいになっていた。
隣に座っていた、のあも同じだ。
「推しを応援するってこんなに楽しんだね」
「うん・・・」
席に座りなおす。2人が落ち着くまで待っていた。
「・・・・・・・」
推しのライブだからな。仕方ないか。
「あぁ。だから、何もないって。今ライブ会場から出たところだよ。これから、琴美連れて帰るから」
終了時刻が30分も過ぎたから、親父から鬼のようにLINEの電話が入っていた。
しかも、琴美じゃなくて俺に。
「だから、大丈夫だって。ライブは伸びるもんなんだから」
琴美がのあに手を振っていた。
「はいはい、じゃあ帰るから切るよ」
通話を切ると、琴美が泣きはらした顔でこちらを見上げた。
「お父さん? 何か言ってた?」
「琴美の送り迎えちゃんとしてるかって、なんで俺に聞いてくるんだか」
「・・・・・・」
まぁ、あまりしつこくして、琴美に嫌われたくないからなんだろうけどさ。
つくづく、兄って損な役割だよな。
妹の面倒は押し付けられるし、せっかく来てやっても、悪態つかれるし。
「きっとお兄ちゃんが頼りになるからだよ」
「・・・・・・?」
飲んでいた水を噴きそうになった。
「お兄ちゃん、今日は一緒に来てくれてありがとう」
「え・・・・あ・・・うん」
琴美が楽しそうに笑っていた。
あまりにも、珍しくて驚いていた。
「すっごく楽しかった。ライブってあんなに感動するもんなんだね。もっと早く知っていればよかった」
「よかったな」
「帰りは、XOXOの音楽聞いて帰ろ。ライブの余韻で今日、ちゃんと眠れるかな」
ワイヤレスイヤホンを、耳に付けていた。
弾むようにしながら、後を付いてくる。
面倒な妹であることには変わりないが・・・・。
まぁ、兄としての義務は果たせたから、よしとするか。




