45 妹、襲来
「遅いんだけど」
「迎えに来てやってそれかよ」
「だって、お兄ちゃんの家遠くてわかりにくいんだもん」
琴美が最寄り駅で荷物を引きながら待っていた。
しばらく会ってなかったけど、やっぱりスタイルもいいし、顔だちも整っているし。
相変わらずの美貌だ。外面はいいらしいが、俺に対する性格には、かなり難ありだけどな。
昔は俺の後ろばかりくっついて歩いていたのに・・・。
中学に上がると兄妹だって隠すように言われた。
「何日泊まる気なんだよ。その荷物・・・・」
「4泊よ。はい、持って。重いんだから」
大きな荷物を渡された。
なんでこいつの荷物を持たなきゃいけないんだか・・・。
って口に出したら、3倍くらいにして言い返されるから言わないけどさ。
「離れて歩いてよ」
「はいはい・・・」
「あ、その荷物XOXOのハルくんとアキくんのウチワが入ってるだから、あとペンライトも。ちゃんと丁寧に扱ってよね」
「・・・・・・・・・」
ガーガーうるさいな。
2メートルくらい離れて、後ろから付いてくる。
4日間もいたら、あいみんの配信リアタイできないじゃん。
母親から、琴美のことをよろしくってLINEがきていた。
20時過ぎたら外に出さないようにって・・・当たり前だよな。あいみんの配信は我慢するか。
琴美の前で見て、色々言われたくないし。
「あれ? 意外と片付いてるのね?」
「まぁな」
琴美が家に上がると、部屋を舐めるように見ていた。
「てっきり、学校のプリントだとか、Vtuberのグッズとか、そこら中にある部屋だと思ってたのに」
「ちゃんと片づけくらいするさ。一人暮らしなんだから」
「だって、お兄ちゃんの部屋、キモいくらい佐倉みいなのグッズと塾の参考書で埋め尽くされてたじゃん。チェキもブロマイドも何枚も積んで、その辺に放置してあったし」
「もう、大分過去の話だろ」
「数か月前じゃない」
「・・・・・・・・」
古傷を的確にえぐってくる・・・・。
受験で追い込まれてたし、それしか癒しがなかったんだよ。
「はぁ・・・・疲れた・・・・。本当に遠いのね」
「駅から遠いほうが賃料が安いんだよ。あ、WiFiはそこに貼ってあるから」
「さんきゅ」
冷蔵庫から、麦茶を出す。
「ねぇ、どうしてこんなに部屋綺麗なの?」
「え・・・・・?」
「彼女でもいるの?」
「いや・・・・そうゆうわけじゃなくて」
あいみんたちが来るから、常に綺麗にしてあるんだよな。
本当は、クローゼットにすべて押し込んであるんだけど。
「って、冗談に決まってるじゃん。お兄ちゃんに彼女なんてできるわけないし」
「・・・勝手に言ってろ」
「探るだけ無駄だもんね。私にも麦茶ちょうだい」
「・・・・・・・・」
意地悪い顔で笑う。
本っっっ当に、性格が可愛くないんだよな。こいつ。
「明日はXOXOのライブだから、今日は準備して寝ようっと。メイクも・・・あーハルくんかっこいい」
当たり前のようにベッドに座って、床に置いた荷物を開いていた。
XOXOのグッズを一つ一つ眺めてから、バッグに移している。
すごくイライラするんだけど・・・。
何事もなく帰ってくれれば、なんだっていいや。
「勉強はちゃんとやってるのかよ。受験生だろ?」
「当たり前よ。言っておくけど、お兄ちゃんより偏差値高いんだからね」
「言っておくけど、数学物理は俺のほうが上だからな」
「偏差値は総合よ」
確かに琴美は容量がよかった。
顔と頭に能力がいった分、性格が悪くなったんだろうなって思うことにしてる。
「アキくんかっこいい。やっぱ、ハルアキよね」
アキのクリアファイルを見てにやにやしながら話していた。
「お兄ちゃん、お腹すいたんだけど何か食材ある?」
「野菜と、冷凍しておいたひき肉溶かしてるよ」
「へぇ、一応調味料も揃ってるのね・・・・」
琴美が立ち上がって、キッチンのほうへ歩いていく。
「勝手にいじるなよ。整理してるんだから」
「うるさいわね。わかってるわよ」
キッチン棚を勝手に開けられる。
右横に保管用のあいみんグッズがあるからハラハラしていた。
「自炊してるの?」
「そりゃ、一人暮らしだと自炊しないといけないだろ。貧乏学生なんだから」
「ふうん。じゃあミートソーススパゲッティでも作ろうかな。お兄ちゃんも食べるでしょ?」
「え? 作れるの?」
「一人分作るのが難しいの。捨てるのもったいないから食べて」
「うん」
お兄ちゃんのために作るよ、とか、同じ食べ物ならかわいらしく言ってほしいんだけど。
まぁ、それはそれで不気味だからいいけどさ。
麦茶を飲んで、おとなしくパソコンで大学の課題を開いていた。
「美味いじゃん」
ガーリックの香りがよく、玉ねぎに甘みが出ていて美味しかった。
「でしょ?」
粉チーズをかけながら、得意げになっていた。
「料理なんてできたっけ?」
「レシピを見ればすぐに作れるの。一人暮らしに向けて、練習してるんだから」
「受験生は受験勉強に集中しろよ。大学受からなきゃ、そもそも一人暮らしなんてできないんだから」
「いちいち、うるさい。そうぐちぐち言ってると一生モテないよ」
勝手に、テレビをつける。
「そういえば、この前、朝の番組で浅水あいみってVtuber出てたけど、お兄ちゃんの推しなんでしょ?」
「あぁ、最推しな」
堂々と言う。
「XOXOも取り上げられればいいのにな。ハルの説明、すごくわかりやすいし、地上波で取り上げられてもいいはずなのに」
「へぇ・・・・」
「コラボカフェ行ったんでしょ? かっこいいと思わなかった?」
「まぁ、いいんじゃない?」
「お兄ちゃんにXOXOの良さはわからないと思うけど。声だってすごくいいの。あんなイケメンに授業を教えてもらえたら、勉強頑張ろうって思えるわ」
XOXOのハルと会話したことがある・・・なんて、言えないよな。
信じてもらえないと思うし。
「あ、Vtuberといえば、私の幼馴染の舞花って覚えてる?」
粉チーズの蓋を閉めた。
「よくうちに来てた子だろ?」
「うん。今でもうちに来たりしてるんだけど」
小さいころから琴美の後ろを付いて回っていた童顔な女の子だった。
恥ずかしがるから、挨拶しかしたことなかったけど。
「今、Vtuberとしてやってるのよ」
「え!?」
フォークを落としそうになった。
「声優オーディション受けたら、そのままスカウトされたんだって。高校卒業したら進学せずに社会人になるらしいの。大手プロダクションのVtuberとしてやっていくんだって」
「マジか・・・・」
「まだやり始めたばかりだから、モーションとか色々勉強してるって言ってたけど・・・・そのうちお兄ちゃんの推しになってるかもよ?」
「・・・・恐ろしいこと言うなよ」
妹の同級生が推しになるとか・・・下手なホラー映画より怖いって。
「舞花の声、すっごい可愛いもん。17歳だって出せばもっと登録者数増えると思うのに、舞花的には絶対に素性は明かしたくないんだって。プロ意識高いよね」
「そりゃそうだろ。Vtuberなんだから」
パスタを巻きながら言う。
「ふうん。そうゆうもんなんだ。さすが、お兄ちゃん、詳しいね。Vtuberにリア恋してるだけあるね」
冷やかすように笑ってきた。
「リア恋っていうか・・・推しだって」
「まぁ、私もXOXOが好きだし全否定はしないけど。大学に入ったんだから、彼女くらい作って」
ドアがばたんと開く。
「さとるくん、配信前に遊びに来ちゃいました・・・」
「あいみ・・・・」
あいみんが勢いよく入ってくる。
「え!?」
ヤバい・・・・。
琴美、鍵を閉めてなかったな。
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
琴美とあいみんが見つめあっていた。
時が止まった。
「さ・・・さとるくん・・・その子は・・・・?」
「あ・・・・・」
「ご、ごごごご、ごめんなさいっ。失礼しました」
転ぶようにして、家から出て行った。
なんか、あいみんに変な誤解をされてしまった気がする。
琴美がフォークをカチャっと鳴らした。
「お・・・お兄ちゃん・・・・今のって?」
「・・・・・・・・」
下を向く。パスタの味とかしなくなった。
「どうゆうことなの? ねぇってば」
琴美が信じられないという顔でこちらを見てくる。
「えっと・・これは・・・」
どう説明するか・・・。
Vtuberとして活動している舞花ちゃんの話を聞いてしまったから、あいみんが隣の家の画面から出てきてるなんて言いにくいしな。
面倒なバレ方をしてしまった。




