43 Vtuber地上波進出
『では、ただいま大人気Vtuberのあいみんこと浅水あいみさんと中継が繋がっております。あいみんさん、あいみんさん聞こえますか?』
『は・・・はい。あいみんです。よろしくお願いします』
「あいみんだー」
「嬉しいですね。こうやって、配信以外の画面で見ると不思議な感覚です」
りこたんとゆいちゃがテレビに向かって拍手していた。
ゆいちゃがゴリラの被り物を膝の上に置いて、足を伸ばしている。
『あいみんさん、今日は緊張してるのかな?』
『はいっ・・・とっても。でも、頑張りますのでよろしくお願いしますっ』
あいみんが肩を上げて、手を握り締めていた。
テレビで見る推し、ちょっとおどおどしていて、最高に可愛いな。
録画できないから、目に焼き付けておこう。
りこたんが出てれば、啓介さんに頼めたんだけどな。仕方ない。
一人暮らしで、勉強と推し追いかけるだけになりそうだから、テレビなんていらないと思ってたけど・・・・。
こうやって朝の番組で取り上げられているあいみんを見られるだけで買った価値あった。
上京する前、佐倉みいなクッズじゃなく、テレビを購入した自分を褒めたい。
『そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。では、本日はVtuberとは何か、なぜこんなに浅水あいみさんが愛されているのか・・・から取り上げたいと思います』
アナウンサーの爽快感のある声で話す。
画面が変わって、Vtuberとは何か取り上げる録画動画に変わった。
世間では、まだVtuberについて知らない人が多いんだよな。
3Dモデルや動き方について、専門家らしき人が饒舌に説明している。
企業視点からあいみんというキャラの作り方について真剣に話していたけど・・・。
まさか、あいみんが本当に動いていて、現実世界を行き来しているなんて思いもしないだろうな。
「えっ、ほかのVtuberって、人が描いたりしてるんですか?」
「そうなのよ。私も最初は知らなかったんだけどね」
「私たちと同じく、みらーじゅ都市みたいなところから映しているんだと思っていました。へぇ、あんな機械を使ったりするんですね」
りこたんとゆいちゃがソファーに座ってくつろいでいる。
画面の向こうにいるはずのVtuberがここにいる時点で、専門家たちからすると想定外の事象だろうな。
改めて、あいみんたちを守るためにも、行動には気をつけなきゃな。
ツイッターを見ると、あいみんへの応援コメントで溢れていた。
この勢いだと、マジでトレンド入りするかもしれない。
「さとるくん、ちゃんと見てます? あいみんが出ますよ」
「見てる見てる」
パソコンの椅子を近づけて、テレビをガン見する。
『あいみさんも歌ったり踊ったりする動画を上げてるんですよね?』
『はい。そうですVDPプロジェクトっていう4人グループで、武道館ライブを目指してるんです』
『武道館ライブ、それはまた大きな夢ですね』
『はい』
「あ、今私たちについて紹介してくれました」
「こうやってテレビでワードを聞くと、一歩ずつ夢に近づいてる気がするね」
あいみんは可愛い。可愛いんだけど・・・。
『VDPプロジェクト』って省略名称じゃなく、『みんなのVちゅーばー、異世界からピースを届けるプロジェクト』って正式名称言ったほうがよかったんじゃないか?
省略名称だと何が何だかわからない。
もう、正式名称は忘れられている気がするけど・・・とりあえず、HPには書いてあるしいいか。
最推しの一生懸命さと可愛さが、伝わればなんだっていいや。
「のんのんも一緒に見られればよかったのにね」
「そういえば、のんのんはどうしたんだ?」
「みらーじゅ都市のメイメイから配信でどんな服着ればいいかわからないって泣きつかれて」
「朝から、衣装合わせしてるんですよ。のんのんが選んだ服は間違いないですから」
りこたんとゆいちゃが重ねるように言う。
『今日はあいみんさんが部屋から、今練習している歌とダンスを届けてくれるとか』
『はい。部屋からですが、AIロボットくんと一緒に照明とかキラキラさせて、一生懸命頑張ります』
AIロボットくんが二体、あいみんの前でスタンバイしていた。
「あいみん、歌って踊るの?」
「そうだよ」
「・・・・・・・」
こっちまで緊張してくるな・・・。
『では、武道館ライブを目指すVtuberの浅水あいみさんが歌う、ボーカロイド人気曲の・・・・』
画面が暗くなり、AIロボットがあいみんにスポットライトを当てていた。
あいみんがにこっと笑って顔を上げる。
さっきまでの緊張は無くなり、スイッチが入ったのが分かった。
ライブ会場になるような笑顔で、配信の部屋とは思えないほどのびのびと歌っていた。
時間を忘れてテレビに釘付けになっていた。
人気が出るだろうなって思う。
だって、こんなに魅力的なんだから。
あいみんが歌い終わって、一瞬間があった後、りこたんとゆいちゃが沸いていた。
「わー、さすがあいみんだね」
「ダンスも完璧でした。これは一気に・・・あ、トレンド入りしてます。10位です」
「本当にすごいな」
ゆいちゃが嬉しそうに体を揺らしていた。
『あいみんさん、さすが人気のVtuberだけあって、こちらでもライブ感が伝わってきて一気に引き込まれましたね』
『はい。私もライブ映像見ているような感覚になりました』
アナウンサーの反応も良かった。
ありがとうございます、と話すあいみんは、いつものあいみんに戻っていた。
『コメンテーターの中野さん、Vtuberのあいみんさん、いかがでしょうか?』
『時代の流れですね。こんなに歌ったり踊ったりできるなんて、まるで私たちと同じ人のアイドルが、画面の向こうでライブをしているみたいでした』
40代くらいの女性コメンテーターが話す。
「あ、結城さんからDMがきてる。啓介さんも見ていたみたいで、HPへのアクセスがぐんと伸びてるって」
俺のところにも啓介さんからLINEが来ていた。
りこたんも特集してくれーっと・・・。
限界オタクになってるっぽい。あの兄妹。
絵文字とスタンプで荒ぶっているのが伝わってきた。
「はっ・・・アクセスが伸びるってことは、またあいみさんだけこっちの世界にこれなくなるっていう・・・」
「それは大丈夫。ハルに今日はサーバーに負荷がかかるって話してるから」
「そうですよね。もう、あんなの懲り懲りですもん」
「・・・・・・・・・・・」
ぼうっとテレビを眺めていた。
あいみんが手を振って、アナウンサーにカメラがあたる。
東京の人気のスイーツ食べ歩き特集画面に切り替わっていた。
りこたんとゆいちゃが、食べ歩き特集のもちもちスイーツを見て、しばらく話していた。
「さとるくん、HPは予定通り今日の12時にリリースで大丈夫ですか?」
「あぁ、問題ないよ。もう準備してあって、後はデプロイするだけだから」
『VDPプロジェクト』のステージング環境に上げたHPを開く。
javascriptのバグは何とか潰せて、ページは問題なくアクセスできるようになっていた。
りこたんの力を借りてだけど・・・・何とかうまくいきそうだ。
「お疲れ様です」
「ありがとう。とりあえず、この今日のあいみんで認知度が上がりそうだし、これから忙しくなるかもな」
「はい。頑張ります」
ゆいちゃがこぶしを振って気合を入れていた。
「あー緊張したよー」
バタンとドアが開いた。
あいみんがなだれ込んでくる。
「みんなぁー」
「あいみん」
すぐにソファーにいた、りこたんとゆいちゃに抱きついていた。
「よくできてたよ。えらいえらい」
「うぅ、一人ってやっぱり緊張するのっ。今度は4人で出たいよぉ」
「ダンスも完璧でしたよ。あいみさん、さすがです」
りこたんがあいみんの頭を撫でていた。
「・・・さとるくんもちゃんと見てくれた?」
上目遣いにこちらを振り返る。
「もちろん、すごくよかったよ。トレンドに入ってるし、みんなの反響も・・・」
「そうじゃなくて・・・」
あいみんが立ち上がって目の前に立つ。
スマホで見せようとしていたツイッター画面を、手で押さえられた。
「さとるくんはどう思った?」
真剣な表情をしていた。
「歌もダンスもすごくよかったよ。高音も綺麗に出ていて、本当・・・すごいなって」
「本当? へへ、そんなに褒められちゃうと嬉しいな」
へらーっと笑う、いつも配信で見るあいみんの顔だ。
頬を赤らめて、少しご機嫌になりながら、りこたんとゆいちゃの間に挟まっていた。
狭いソファーに、ぎゅうぎゅうになっている。
「ねぇねぇ、さとるくん。プリン買っててくれた?」
「うん」
「じゃあ、プリン食べながら、エゴサしちゃおう」
三人ぴったりくっついて、キャキャっと話す声が部屋に響いている。




