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俺の推しは裏切らない!  作者: ゆき
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38 お花見デート

 しばらくすると、エレベーターという謎の乗り物の動きが止まった。

 ガタンと、扉が開く。

「着いた」

 あいみんが跳ねるようにして出た。

「さとるくんも早くー」

「うん・・・」

 ちょっと戸惑いながら出ると、乗り物が勢いよく戻っていった。

 俺、マジで画面の中の世界にいるんだよな。



「見て」

「わ・・・・すごいな・・」

 橋の下に、満開の桜が広がっていた。

 薄いピンク色の花びらが、雪のように落ちてくる。

 人間とAIロボットたちが花見をしているのも、ちらほら見えた。

 川の流れの音が気持ちいい。すうっと、心が解れていくようだった。


「どうして、桜が?」

「みらーじゅ都市の桜は向こうの世界のSNSの桜の情報を元に育つんだって。綺麗でしょう?」

「うん・・・・」

 あいみんが花びらを掴もうとしていた。


「ここ通るたびに、さとるくんに見せたいなって思ってたの」

「え・・・?」

 ドキッとした。

「だって、ほら、一人で見るよりも、誰かと見たほうが楽しいでしょう?」

「うん・・・・」


「わぁ、こことか、インスタ映えスポットじゃない?」

 あいみんが両手を広げていた。

「おっとと」

 少しバランスを崩していた。

「上ばかり見すぎるからだよ」

「だって、綺麗なんだもん」


「確かに、すごいな・・・・今年は引っ越しで桜見る余裕なんてなかったから・・・」

「よかった、じゃあ、ちゃんと目に焼き付けてね」

「うん・・・」


 桜はもちろん綺麗なんだけど・・・・。  

 あいみんと桜があまりにも似合いすぎて・・・。

 写真も動画も撮れない分、目に焼き付けようと思っていた。


「あーなんか安心したら、お腹すいちゃった」

「そうか、説明会は昼過ぎからだもんな」


「ねぇ、ちょっと歩こうよ。美味しそうな匂いもしてくるでしょう?」

「言われてみれば・・・・」

 二人で歩き出す。


「この匂いは・・・屋台も出てるの?」

 桜の木の下で、AIロボットたちが焼き鳥や焼きそばの屋台を出していた。

 氷の中にはペットボトルや缶ビール・・・ラムネまであった。


「すごい、向こうの世界のお祭りみたいだな」

「でしょう? SNSの情報からAIロボットくんがそっくりに真似てるんだよ」


「へぇ・・・・」

「私はね、お花見の外で食べる焼きそばが好きなの」

 焼きそばの屋台を指さして言う。


「フッ・・」

 噴き出して笑っていた。


「ん? 何がおかしいの?」

「ハハハ。だって、あいみん、いつも食べ物の話ばかりだからさ」

「う・・・動いてるからね。ダンスしたり、歌を歌ったり。お腹空くものなの」

 ちょっとむきになって言っていた。


「ごめんごめん。俺もお腹空いてたよ。そこの河原で食べよう」

「うん」

 あいみんが満面の笑みで屋台のほうへ走っていった。




「あいみん、最近お酒止めたの? ツイートしてないから」

「うん。今は『VDPプロジェクト』に全力投球したいの」

 焼きそばを取り分けながら話す。

 取り分け用の紙皿も、割りばしもAIロボットくんが回収に来てくれるらしい。


 便利すぎて、ダメ人間になりそうだな。


「はい、あいみんの分」

「ありがとう」

 箸を割って、桜を眺める。

 手前の川にはアヒルの親子が気持ちよさそうに泳いでいるのが見えた。


「『VDPプロジェクト』って楽しい?」

「もちろん。頑張れば頑張っただけ、みんなから応援してもらえるし」

 もぐもぐしながら言う。


「あいみんが頑張ってるなら俺ももっと頑張らなきゃな」

「さとるくんはもう十分頑張ってるよ」

「でも、俺があいみんにしてあげられたことなんて、HP作ったことくらいだし」


「十分すぎるくらいだよ。それに、『VDPプロジェクト』のHPも作ってくれてるんでしょう?」

「まぁ・・・一応・・・まだ形もできてないけど」


 みらーじゅ都市の焼きそばも、向こうの世界と同じものだった。

 あいみんと食べているからか、ほとんど味がしなかったけど・・・・。


「ここまでこれたのは、さとるくんのおかげだよ」

「え?」

 髪を耳にかけながら、こちらを見る。


「うん、何もわからずポンって、向こうの世界に飛び出してきちゃったけど、本当はみらーじゅ都市の人以外の人と話すの怖くて・・・。でも、隣に住んでたのがさとるくんでよかったなって思ってるの」

「・・・・・・・・・」


「・・・・だから、『VDPプロジェクト』はもちろんすっごく大事だけど・・・さとるくんに向こうの世界のこともっと教えてほしいなって・・・」

「うん・・・・俺でよかったら・・・」

「本当?」

 あいみんが顔を赤らめながら言う。


「・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・」

 二人でちょっと無言になりながら、焼きそばを食べていた。



「そうだ、夏になったら、みんなで花火大会行こうよ」

「へ?」

「俺、上京したばかりだから、大きな花火大会って見たことないんだ。近くで見ると、ドンって音がしてすごく迫力があるんだって」


「行きたい、行きたい」

 あいみんが目を輝かせていた。


「私もね、みらーじゅ都市の花火大会はよく行くんだよ。ドンって鳴って、こう地面が響くくらいの音で、すごく綺麗なんだから」

 自慢げに話す。


「じゃあ、どっちが綺麗かどっちも見てから決めよう」

「そうだね、また一つ楽しみが増えちゃった」

 嬉しそうに左右に体を揺らす。


「あぁ・・・俺そのころには単位どうなってるんだろう? やばい、嫌なこと思い出しちゃったな」

「一つでも落としたら行かないからね」

「うわー。厳しいな。でも、絶対落とさないし」

 むきになって言うと、あいみんが楽しそうに笑っていた。


 実際1つも落とさないって難しいんだよな。

 まぁ、大学1年目から落としてられないか。

 推しが応援してくれるんだし。


「ふふ・・・さとるくんと話してるとなんだか楽しい」

「え・・・・?」

「深い意味はないからっ。もう私食べ終わっちゃったよ。早く、セントバラ学園に行かなきゃ」

 あいみんがティッシュで口を拭くと、川の近くに行ってしまった。


「待ってって」

 慌てて食べてから、あいみんの後を付いていく。

 途中でAIロボットくんがごみ回収に来てくれた。




 川の近くにはガラス張りの歩く歩道のようなものがあった。

 速度は個人によって選べるらしく、追い越してもぶつからないように運んでくれた。


「この歩道をずっと行くと、セントバラ学園があるよ」

「そうなんだ・・・って、結構ゆっくり行くんだね?」

 あいみんが、モニター画面で歩くくらいのスピードを選んでいた。


「ほら、隣の人とかは早いのに。結構ゆっくりしちゃったし、送れたりしないかな?」

「大丈夫だよ・・・・・」

 子供たちが、勢いよく桜並木と川の間を通っていく。

 彼らもVtuberのような活動をしているのだろうか?


 ぼうっと考えていると、あいみんが服をつまんできた。

「だって、さとるくんとゆっくり桜を見たいんだもん」

「・・・・・・・・・」

 へへへ、とこちらを見上げながら微笑んでいた。


「あ、さとるくん、唇に青のりが付いてるよ」

「うえ?え?」

 焦って途中のガラスを見ていたら、あいみんが人差し指で頬を突いてくる。


「なんちゃって嘘だよー。さとるくんは騙されやすいなぁ」


「うっ・・・・・」

 頬が熱くなって、あいみんに触られた部分を押さえた。

 あいみんがいたずらっぽくこちらを見上げる。


「あ、あいみんも、花びら付いてるよ」

 髪に付いた桜の花びらを取ろうとしたらするりと避けられてしまった。

「甘いなぁ」

「俺のは本当だってば・・・」

 少し腑に落ちない。


「ほら、見てみて」

「えーっと? ふふふ、付いてないじゃん。もう、騙されないんだから」

 あいみんがガラスで確認する前に、ふわりと花びらが落ちていく。

 桜を見上げながら楽しそうにしていた。


 あいみんの笑顔をたくさん見られて嬉しかった。

 みんなと過ごす時間も楽しいけど、やっぱり推しと話す時間が一番だな。

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