33 勉強だけは・・・
学食で結城さんが持ってきたグラフを見ながら話していた。
のんのん:30代から50代までの男性に支持。
チェンネル登録者数9万人、料理の回が特に1日ごとの伸びがいい。
ツイッターフォロワー数13万人。
配信時間帯は19時からがベスト?
「配信時間帯は『VDPプロジェクト』のみんなの時間帯と被らないようにしたほうがいいかな?って」
「そうだよな。必然的に」
もう一枚の紙を眺める。
1日ごとのアクセス数が書かれたグラフが書いてあった。
「それが、この前話したグラフだよ。下に日付が書いてあるから」
「本当だ。すごい伸びてるな」
2倍は伸びていた。
「でしょ? HPアクセス数もほら・・・ページごとのも集計してるんだけど、イベントのところをクリックする人が多いの」
「イベントか・・・『VDPプロジェクト』の発表以外に主なイベントなかったもんな」
HP作成するときに、今後何かあればと思って追加したページだった。
「作ったほうがいいかもね。四人の歌とダンスだけの配信ライブとか」
「それはいいな。みんな歌もダンスも練習してるみたいだし、途中経過でも見れたほうがファンは喜ぶしね」
もう一度、あいみんのグラフを眺める。
自分の作ったHPのアクセス数が、目に見えて伸びてると、嬉しいな。
「それでね・・・・本格的に活動するのに、『VDPプロジェクト』のユニットとしてのHPも作ったほうがいいんじゃないかと思ったの」
「あ、そういや、なかったな」
報告は各個人のツイッターと配信に任せてしまっていた。
4人はそれぞれ武道館目指して頑張ってるけど、ユニットとして報告したほうがいいしな。
「ねぇ、見て」
「・・・・・・」
結城さんがアイパッドで動画を見せてきた。
・・・・って、男性アイドルグループXOXOのHPなんて全然見たくないんだけど。
「ほら、こうゆう風に、全員がそろってると見やすいよね」
「そうだね・・・」
4人が学園で過ごす様子が動画で流れていた。
最新情報の欄にコラボカフェの情報が書いてある。
「ん・・・・? 気になったんだけど・・・・」
「え?」
「彼ら、頭脳明晰って設定なの? ちょっといい?」
メンバー紹介のところをクリックする。
全国でもトップクラスの偏差値を誇るセントバラ学園。
中でもハル、ナツ、アキ、フユはアイドルを続ける傍ら、高学歴男子として受験生向けに講義も行っている。
ハルは受験生に混ざって模試も受けており、数学の偏差値は84.5・・・・。
「84.5!? それって本当なの?」
「去年の受験生に混ざって受けていたらしいよ」
「マジかよ」
衝撃的だった。
「琴美・・・こんな設定言ってなかったんだけど・・・・勉強系Vtuberでもあるの?」
「そうなの。4人とも頭いいらしくて、講義を聞いてみたけど、本当に塾の先生みたいでわかりやすかった」
「・・・・・・・・・」
「・・・・見てみる?」
イケメンで頭がいいとか嫌味でしかないだろ。
音量を最小にして、ハルの動画をクリックする。
『本日はオイラーの定理について説明したいと思います。eπi+1=0、こちらのeは何を示しているか皆さん覚えていますか? 自然対数の底eですね、もっと具体的に説明すると・・・・』
ホワイトボードに図を書きながら説明していた。
「コラボカフェの印象と大分違うね・・・」
「アイドル活動と勉強系Vtuberの二つの顔を使い分ける、謎に満ちたアイドルってことらしいの。磯崎くん、本当に調べなかったんだね」
結城さんが頬杖をついていた。
「・・・妹に聞いた情報しかなかったよ」
あんなにチャラチャラしておいて・・・・。
勉強までできるのかよ。
「さすが、みらーじゅ都市のゲート管理してるだけあるなって思って。妹さん、受験生なの?」
「そうだな・・・。確か、数学は苦手だったはずだけど。色々納得したよ。でも、なんで勉強系Vtuberだって言ってこなかったんだ? アイドルだとしか聞いてなかったよ」
「妹さんからすれば、デフォルトの知識だったんじゃないかな?」
「・・・・・・・・・」
これだけのスペックを持ってるなら、熱狂するのもわかる気がする。
「はぁ・・・・・・」
大分、落ち込んでいた。
もう、鞄を持ってこのまま帰りたいくらいだ。
「どうしたの?」
「いや・・・・なんか、こんなハイスペックな設定ありかよって」
「あいみんを取られるかも? とか思ってるの?」
「え・・・いや、そうゆうわけじゃないけど」
その通りだったけど、首を振った。
結城さんがちょっと怪訝そうな顔をする。
「同じみらーじゅ都市にいるし。本当は接点があるかもしれない? なんてね、裏で実は付き合ってたりとか?」
「・・・・・・・」
あいみんに限って絶対そんなことはないと思うんだけどな。
可能性が0じゃないところがしんどい・・・。
「りこたんたちと同じみらーじゅ都市にいることは、mネットのどこの情報にも載ってないから、私たちしか知らないことだけど」
「・・・・・・」
「裏で親密なやり取りしてたりして」
「そんなことあったらライフポイント0なんだけど・・・」
「ごめんごめん。冗談に決まってるじゃない。万が一そんなことあったら、あいみん、すぐに素直に言っちゃうでしょ。そんなに気になるならあいみんに直接聞いてみたら?」
ツンとしながら言う。メガネをちょっと直していた。
「・・・・聞く勇気が無いっていうか・・・・」
りこたんは自分しか接点がないような話をしていたけど・・・・。
あいみんの口から聞かないとどうしても気になっちゃうんだよな。
「でも、よく考えて。私たちだって、一応この大学、そこそこ頭のいいほうだよ。磯崎君だって、高校の時の偏差値それなりに髙かったでしょ?」
「まぁ・・・・ギリ、入るレベルだったけど・・・」
「私もそうだけど・・・・」
佐倉みいなを応援しながら、必死に受験勉強していた頃が懐かしい。
勉強の合間の癒しだったんだ。
あの頃は、あいみんを応援しながら志望校に入ってるなんて想像もできなかったけどな。
「じゃあ、総合の学力の部分ではそんなに差がないんじゃない?」
「そう・・・かな? いや、でも、偏差値が桁違いすぎて・・・」
84.5とか、本当に存在する数字なのかよ。
「大丈夫。むしろ大学に行ってる分、習ってることが多いはずなんだから。まだ入学したばかりだけど・・・・」
結城さんがアイパッドを閉じながら言う。
「それに、大事なのは推す心じゃない?」
「推す心・・・」
「私は彼らよりも、磯崎君のほうがあいみんに近いと思うけどな。だって、いつも配信終わったら磯崎君のところに来るんでしょ?」
「それはそうだけど・・・・・」
チョコレートを一つ口の中に放り込みながら言う。
「それって、みらーじゅ都市の中のことはわからないけど・・・XOXOのメンバーよりも、磯崎君のほうが優先順位が高いってことは確かじゃない? 論理的に考えて」
「うーん・・・・・・・」
あいみんの場合、外の人間と話したくて報告してくるような気もするんだよな。
別に俺である必要はないような気が・・・。
「結城さんから見て、あいみんって俺のこと・・・」
「はい、この話はもうおしまい」
結城さんが聞こうとしたことをぶった切って、ルーズリーフを開いた。
「この整列アルゴリズムがわからないの。ヒープソートのとこ、ノート取れてなくて。見せてもらっていい?」
「あぁ・・・ちょっと待って。そんな難しい話じゃないよ」
鞄からノートを出した。
「ほら、未整列のデータを木構造にするんだよ。この場合、一番上を5にして・・・・」
説明すると、うんうんと頷いていた。
DBのテーブルを触ってるからか、理解するのが早かった。
結城さんはXOXOについて意識することないって言ったけど・・・・。
とりあえず、勉強だけは負けたくない。
『VDPプロジェクト』のHPだって、XOXOよりもいいものを作ってやると、闘志を燃やしていた。




