30 コラボカフェ潜入
秋葉原に到着すると、結城さんを探していた。
休日の秋葉原は人が多いな。
電気街口で待ち合わせしたはずなんだけど・・・・。
「磯崎君」
「あ、結城さん。ワンピース着てるなんて珍しいね」
裾丈の長い黄緑のワンピースを着ていた。
コンタクトをして、うっすら化粧もしている。
「りこたんたちと話すようになって、どこかに行くときはちゃんとおしゃれしようと思ったの」
「そっか」
結城さんが手櫛で髪をとかす。
「結城さんがいてくれて助かったよ。俺一人じゃコラボカフェなんて行けるわけないし・・・」
「今日は、どうして・・・・・私を誘ったの? だって、あいみんだってもう出られるようになったんでしょ?」
「その・・・Vtuberを秋葉原に連れてこれないじゃん」
「それもそうね。りこたんもあいみんも、結構有名になってきたし。この中で知ってる人も、多いかもしれないもんね」
「そうそう・・・・」
少し周りを見渡しただけでも、アニメやゲームのポスターが見える。
あいみんのコアなファンだってたくさんいるはずなんだよな。
何かあったら危ないし・・・。
アイドルグループXOXOのコラボカフェにあいみんを連れて行きたくないのが一番の理由なんだけどさ。
「最近あいみんのファンとゆいちゃのファンの伸び方すごいね」
「この数週間でチャンネル登録者数11万人から19万人、5万人から10万人だもんな。そういや、俺のHPのアクセス数は?」
「もちろん伸びてるよ。グラフにすると、あいみんがHP変えたって呟いてる日から、いきなりドンと跳ね上がって、そのままキープしてるの」
「そう言われると嬉しいな。レッドブル飲んで頑張った甲斐があったよ」
「よかったね」
結城さんはのんのんを入れた最新のデータを分析しているらしい。
今度、配信時間帯を決めていくと言っていた。
大学の授業の予習復習もあるのに、すごいよな。
俺も、何か『VDPプロジェクト』のためにできることを探さないと。
「で、肝心の今日の目的は、どこなの?」
「あぁ・・・・・」
琴美からきたLINEを確認する。
SEGU4号店か・・・・ここから近いみたいだけど。
「向こうってGoogle先生が」
「妹さん、アニメとかVtuberとか、アイドルとか、そうゆうのに興味ないんじゃなかった?」
「なんかよくわからないけど、ハマりだしたんだよ」
LINEを見る限り本当にファンらしい。
セントバラ学園だとか・・・謎めいたアイドルグループXOXOだとか・・・・。
マジでよくわからないんだが。
俺があいみんを思うように、琴美もハルとアキのことを思ってるんだとしたら、邪険にはできないよな。
絶対、否定だけはしないでおこうと決めていた。
「XOXOって知ってた?」
「ごめん、私もそうゆうの詳しくなくて・・・。磯崎君に言われて、調べた程度の知識しか」
「だよな」
結城さんも女性Vtuberしか知らないもんな。
「まぁ、妹の頼みとなるとどうにもならないよな」
「お兄ちゃんも大変だね」
あいみんのグッズさえ人質になっていなければ、来なかったかもしれないけどさ。
うちは正直、結城さんのところほど仲良くないし・・・。
「そういえば、XOXOのハルって、みらーじゅ都市のゲート管理者らしいよ」
「えっ、そうなの?」
「そうそう、俺話したんだよ」
りこたんとハルが話していたことを伝える。
結城さんも、俺と同じような反応をしていた。
SEGUの前を通ると、黒っぽい衣装を着たXOXOの看板が出ていた。
コラボカフェがある一番上の階に付くと、女子の行列ができていた。
「え、こんなに人気なの?」
「そう・・・みたいね」
アウェイな感じが半端なかった。
男とか、俺一人なんじゃないか?
前に並んでる女子のカバンにもXOXOのグッズっぽいアクキーが付いてるし。
「『ハルのミステリアスなお子様ランチ』と、『アキの知的な特性パフェ』・・・とか言うの頼まなきゃいけないんだけど、結城さんどっちか食べれる?」
「え、じゃあ・・・『アキの知的な特性パフェ』で・・・・」
お互い戸惑いながら、メニューを眺めていた。
結城さんもコラボカフェは初めてらしい。
しばらく待っていると、順番が回ってきた。
「お客様、おひとりにつき一品のご注文となりますがよろしいでしょうか?」
「はい」
受付のお姉さんが説明してきた。
「ハルとアキのアクキーとアクスタ、缶バッチを・・・・」
「申し訳ございません。アクキーはランダムになっておりまして、こちらから引いていただくことになります」
「そうなんですか?」
「磯崎君、ほら、コラボカフェの中に入って、周囲の人と推しを交換したりできるんだよ」
結城さんがこそっと話してきた。
ヤバいな。
そんな難易度高いクエスト、要求されてんの?
「えっとじゃあ・・・ランダムアクキーは2つで」
「かしこまりました」
袋に入ったアクスタと缶バッチを受け取って、銀色の袋に入ったアクキーを引く。
「お食事のご注文はいかがなさいますか?」
「『ハルのミステリアスなお子様ランチ』と、『アキの知的な特性パフェ』で・・・」
誰がこの名前考えてるんだろ。
店内を見ると、女子ばかりで手に汗が滲んできた。
「では11番のお席でお願いします」
11と書かれた札を持って、恐る恐る中に入っていく。
「これは・・・もし、あるのが全部りこたんだと思うとテンション上がるんだけど・・・・・」
「まぁ、俺だってあいみんだと思っているしか・・・・」
「・・・・・・・・・」
当たり前なんだけど、店内中がXOXOで埋め尽くされている。
壁にはハルやアキ、ナツ、フユの等身大ポスター、かかっている音楽はXOXOの曲らしい。
モニターには、四人が歌って踊る動画が流されていた。
もう、空間全部が、XOXOだ。
想像以上にくる・・・イケメンが眩しすぎる。
あいみんだけは、絶対に連れてきたくないところだ。
琴美がハマる理由もわかる気がした。
否定するつもりは毛頭ないけど・・・兄としては少し複雑な心境だ。
でも、琴美もこんな気持ちで、俺のあいみんグッズを眺めていたんだろうな。
俺一人だったら、心が折れて帰ってしまったかもしれない。
「何とか購入できてよかった。アクスタと缶バッチ・・・・」
「料理頼んだからコースターもランダムで付いてくるらしいよ」
「マジか、喜ぶよ」
戦利品を眺めていた。
人差し指くらいしかないアクリルスタンドだけど、これがあいみんだと思うとテンション上がる。
キーボードの横とかに置きたい。
「いつか、『VDPプロジェクト』のみんなもこうやってコラボカフェしてもらえるといいね」
「あぁ、そうだな。あいみんのコラボカフェのメニューとかどうなるんだろ? これからくるお子様プレートだってあいみんだと思うと浮き立つんだけどね」
「私だってりこたんのパフェって思うと」
結城さんがにこにこしていた。
なんだか機嫌がいいな。
ま、イケメンのコラボカフェなんだから、そりゃ楽しいか・・・。
「のんのんが考えたら全部美味しそうだし」
「武道館ライブも大事だけど、ファンにとってはコラボカフェもありがたいよな。この空間が全部あいみんか・・・・」
「本当に、あいみんが好きだよね」
「もちろん。何があっても最推しはあいみんだ」
「ま、私もりこたん好きな気持ちは負けないけど」
結城さんが頬杖をついて、テーブルに書かれたXOXOメンバーのブロマイドを眺めていた。
海を四人で歩いてるもの、水をかけあっているもの・・・。
プライベート写真みたいなものか。
さすが人気アイドルグループだけあって、色彩も全体的に綺麗だな。
「あ・・・・これも、妹さん好きなんじゃない?」
「そうだな、写真撮っておくか」
スマホを出して、位置を整えてシャッターを切る。
光が反射したので、何回か撮りなおした。
店内はいつの間にか満席になっていて、外で待っている人が数名いた。
開店時間近くに行っておいてよかった。
「そろそろ、アクキー開封してみるか。俺、くじ運ないんだけど」
「うん、頑張って」
そっと、開封する。
これは・・・誰だ? えっと・・・・。
「フユ君2個だね・・・・」
「本当、くじ運ないんだよ。同じの2つか」
肩を落として、フユのアクキー二つを眺める。
「これだけ人数いるんだもん。ハル君とアキ君引いてフユ君推しな子もいるよ」
「うん・・・交換、しかないな。でも、そんなにうまくいくものなのか?」
「兄がゲームのコラボカフェ行ったときは、スムーズだったって」
「啓介さんコラボカフェ来たことあるの?」
「何回か行ったみたいだよ。あまり興味が無くて、聞き流してたけど」
マジか。
さすが啓介さん、強いな。
息を呑む。
店内にいる人、俺以外、全員女。
陰キャの俺に、アクキー交換クエストが始まるのか・・・・。




