28 愛の告白?
りこたんがパソコンの前に座って、結城さんと話していた。
「これで権限は付与したけど、ほしいデータは抜けそう?」
「お兄ちゃん、この前作ってもらったデータ抽出バッチそのまま使える?」
「iniファイルに設定が書いてあるから、そこを変えれば、ちょっと借りていい」
啓介さんがメガネを上げて、パソコンをカタカタ打っていた。
結城さんにテキパキとやり方を説明している。
さすが、職業にしているだけあって、かっこいいな。
家族思いで、仕事ができて、料理もできる。
何でモテないんだろう・・・・。
「ねぇねぇ、ダーリン、私、ダンスと歌もすごく上手くなってきたの」
のんのんが腕を引っ張ってきた。
「なんか前も聞いた聞いた気がする・・・・」
「何度でも聞いてあげてください。のんのん本当に頑張ってるんです」
ゆいちゃが余ったスペアリブを取り分けながら言う。
「そうなんだ。楽しみだね」
棒読みで言った。
「うんうん。楽しみにしてて。配信見てくれた?」
「あー今度見るよ」
「まだ見てないの? 見てみて、ほら・・・・・」
スマホで自分の動画のアーカイブを見せてきた。
あいみんを追いかけるので、精一杯なんだよな。
大学の予習と復習であまり時間ないし・・・・。
もっと、凝縮した紹介動画とかあればいいんだけど。
「あ、『VDPプロジェクト』の4人の全員で15分以内の動画とか作ればいいんじゃないかな? ほら、忙しい人向けにさ」
結城さんが反応する。
「それ、すごくいいかも。リアタイできる人も少ないし、アーカイブだって早送りしちゃう人もいるしね」
「確かに、俺みたいな社会人とかは全員の動画を追いかけるって無理だからな」
啓介さんがコーヒーを飲みながらマウスをクリックしていた。
「やりましょうか。場所はどこがいいかしら?」
「みらーじゅ都市の公園前とかは?」
「そこだと映えそうだしいいね」
「じゃあ、あいみにも早めに話しておきましょ。あの子そうゆうの好きだから」
のんのんも楽しそうにしていた。
「なんか本当に画面の中とこっちの世界を行き来してるように話すな」
「そうなんだってば」
「わかってるって。設定は守らないとな。それにしても、みらーじゅ都市ってすごいな。本当にそうゆう場所があるみたいだし」
頑なに信じていないんだな。
当たり前だけどさ。
本当に画面から出てきてるって知ったら、びっくりするだろうな。
「あはは・・・・そうですね・・・・」
「こうゆうのを作る技術職になりたかったな。ま、俺のやってることとは全然違うし、転職って言ったって難しいんだろうけど・・・」
啓介さんの中で今いるみんながVtuberで、画面とかモーションとか、作った人が裏にいると思っているんだ。
普通に考えて、そう思うか・・・。
「ほら、できたぞ」
「お兄ちゃん、ありがとう」
「こんなに早くできるなんて、さすがですね」
「理解できれば、難しくないよ」
妹とりこたんに褒められて、まんざらでもない表情を浮かべていた。
俺もいつか妹に、そんなこと言われてみたいな。
うちの場合、妹がVtuberにはまるなんて、天地ひっくり返ってもない話だし。
どう考えても無理だろうけどな・・・。
何かの拍子であいみんにはまってくれればな。
いや、希望を抱くだけ無駄だ。やめておこう。
「あ、ツイッターのDMきてる。あいみんからだ・・・」
りこたんがスマホを出していた。
「一人で寂しいって・・・しょうがない、啓介さんパソコン借りていいですか?」
りこたんが近づいて、髪を耳にかけていた。
「どどどど、どうぞ。もう、できるようにしてあるので・・・」
啓介さんが緊張しながら立ち上がって、こちらに座った。
「りこたんってめちゃくちゃ可愛いよな」
聞こえないような声で話しかけてくる。
「配信見てるけどさ、あんなに真面目で情報処理のノウハウも持って、いつも勉強家でさ・・・。俺のスパチャのコメントとかも読んでくれるんだ」
「はぁ・・・・」
スパチャ投げ始めたんだな・・・。
「それでいて、ちょっとダメなところもあって。いいよな、可愛いよな」
夢でも見るような感じで、遠くを見つめていた。
「結城さんも同じようなこと言ってましたね」
「兄妹似るもんだな」
後ろに手を付いて、ポテトスティックをつまむ。
「ところで磯崎君は誰が好きなの?」
「え?」
「妹・・・なわけないよね? のんのんと付き合いながら妹にも手を出して、あいみんを推してるとか・・・まさか、そんなことないよね?」
殺気に満ちていた。
誤解が多すぎる。
俺の信頼のためにも、はっきり言っておかなきゃな。
咳ばらいをして立ち上がる。
「俺の推しはあいみんなので。推す力は誰にも巻けません」
力のこもった声で言う。
ここまで言えば、誰も疑ってこないだろう。
「あ、さとるくん・・・」
りこたんがゆっくりとこちらを振り向く。
「ん?」
「今、ちょうどあいみんのところとつながってるけど・・・・」
「っ・・え・・・・」
画面に映ったあいみんが硬直していた。
どんどん顔が赤くなっていって俯く。
「な・・・んか、みんな忙しそうだし・・・今日は会話に混ざるのやめておく」
「え? ちょっと、さっき決まったことがあって、動画のこととか」
「みんなが戻ってきたら聞く。楽しんで・・じゃあ・・・・・」
「あ・・・あいみん・・・・・?」
バチっとモニターが切れて、データをテスト抽出したEXCEL画面になっていた。
「・・・・・・・・・・」
「随分、大胆な告白したね」
結城さんに言われる。
え・・・・・・・。
今の俺、告白してた?
で、あいみんが画面を閉じたってことは、俺、よくわからんが振られたのか?
あいみんにとっては迷惑で・・・・。
逃げ出したってことなのか?
「まぁ、気を落とすな。ファンはいくらいたっていいだろ」
「・・・・・・・・」
「俺だってりこたんが好きだけど、今みたいになったら立ち直れない。けど、君はまだ若いんだし、頑張れ」
啓介さんがポンと肩を叩いてきた。
全然、悲しみが癒えない。
もう、家に帰って布団に蹲りたいくらいなんだけど。
「私が慰めてあげるってば、ね」
のんのんから頭を撫でられた。
ショックすぎて、放心状態だった。
ゆいちゃが、ジュースを飲みながら肩をすくめていた。
気の毒そうな視線が、心臓に来るな・・・・。
「俺・・・今日、帰ろうかな・・・」
「待って」
結城さんがこっちを向いて、引き留めてくる。
「磯崎君の気持ちを聞いちゃって、あいみんがただ照れただけ。別にそんなに落ち込む必要ないでしょう?」
「嫌われた・・ってわけじゃなくて?」
「考えすぎだよ」
「え・・・・そうなの?」
「それもそうね。急に、あんな大声で言われてびっくりしただけだと思うわ」
りこたんが頬を押さえながら言った。
「大丈夫、話の流れでそうゆうふうに言っちゃったって、あいみんに伝えておくから。すぐに元に戻るわ」
「あ・・・うん、ありがとう」
マジか。
俺、嫌われたわけじゃないのか。
命拾いした気分になった。
「いいな・・・私もあいみさんみたいに思われたらな・・・」
ゆいちゃが、画面を見ながら小さく呟く。
「え?」
「冗談ですよー」
からかうように笑った。また、傷口に塩を塗るようなことを・・・。
「ねぇお兄ちゃん、デザート食べていい?」
「もちろん、プリンを作ってみたんだけどな」
「わー、お菓子も作れるんですか? すごいです」
ゆいちゃが目を輝かせていた。
「私よりも・・・できるかもしれないわね・・・」
のんのんがちょっとだけ悔しそうにしている。
結城さんが冷蔵庫にあったプリンのお盆を出すと、ゆいちゃがはしゃいでいた。




