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俺の推しは裏切らない!  作者: ゆき
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27 社会人の手料理

「うぅ、緊張します」

 結局、全員で結城さんの家に行くことになった。

「みんな、いらっしゃいー。お昼抜いてきてくれた?」

 チャイムを鳴らすと結城さんが出てきた。


「あぁ。でも、ごちそうまでしてもらって、いいの? ちょっと大人数になっちゃったんだけど」

「いいのいいの。遠いところ、来てくれてありがとう」


「こちらこそ、あ、これよかったら」

「り、りこたん。はい、ありがとうございます」

 りこたんが菓子折りを渡していた


「お腹すきました。ぺこぺこですー」

「あ、ゆいちゃ、靴を揃えるのよ」

 ゆいちゃが真っ先に近づいていく。


「おじゃましまーす」

 靴を揃えて上がると、香ばしい匂いがしてきた。

 結城さんって、勉強と推し事ばかりだと思ってたけど、何気に女子力高いんだな。


「ん? りこたん、ゆいちゃ、のんのん・・・・あいみんは?」

「まだ画面から出れないんだよ」


「今、ゲート管理者に問い合わせ中で原因探ってもらってるの」

「・・・・結構大事になってきたね」

「フン、別にこのままでも問題ないんだけど・・・ちょっとだけ心配ね。ほんのちょっとだけだけど」

 のんのんがくっつきながら、ぼそっと呟いた。


「磯崎君、のんのんに推し変してあいみん出れなくなったんじゃないの?」

 結城さんが意地悪く言う。やっぱり、りこたんの百合見ちゃったこと引きずってんのかな。


「違うって・・・。ほら、スマホのロック画面もあいみんで」

「そうは見えないんだけど・・・・」

「あ・・・・」

 のんのんが腕を組んできた。


「私たちお付き合いしてるんです。ね、ダーリン」

「つっ・・・付き合うって・・・そんな簡単に・・・・」

 結城さんが、ドン引きした表情でこちらを見てきた。

「へぇ、礒崎くんてっきり推し一筋の推し仲間だと思ってたのに」

「誤解だって。全然そんなんじゃないし」

 ぶんぶん首を振った。


「のんのん、そろそろ・・・」

 少し強引に離れようとした。

「いつもこうしてるのに。どうしたの?」

「いつも? そうなんだー」

 結城さんが眉をぴくっと動かす。

 火に油を注いだ感じになってしまった。

 のんのんがしてやったりという表情を浮かべていた。



「はぁ、いい匂いですー」

「結城さん、料理するの?」

「あ、私じゃなく・・・・・」

 ドアを開けると、啓介さんがキッチンに立っていた。

 りこたんのタペストリーが、丁寧にビニールを被った状態で横に飾ってある。

 ぎょっとしてしまった。


「やぁ、妹がいつもお世話になってるね」

 メガネが曇っている。

 二品、サラダとチーズスティックのようなものが隣に並んでいた。


「うわっすごい」

「うぅ・・・これは、私といい勝負かもしれないわ」

 のんのんの言う通り、本格的洋食レストランに来たような感じだ。


「啓介さん、すごいですね。仕事も忙しいのに、料理もできるなんて」

「料理してるときだけが無になれるんだよね。あ、後10分でラザニアが出来上がるから、先にこっちを食べてて。前菜だから」

 大皿を二皿、テーブルの上に置いた。


「わぁ・・・・ありがとうございます」

「・・・・・・・」

 りこたんが、飾ってある浴衣を着たタペストリーを見つけて赤面していた。


「結城さん・・・啓介さん、将来料理関係の経営目指してるとか?」

「もてる努力はしてるのよ。いつできるかわからない彼女のために頑張ってるんだろうけど・・・・今までどこでも披露したことが無いから、単に気合入ってるだけ」

「・・・・・・・」

 こそっと言ってきた。

 耳が、いたい。


「いただきます。あーこれすごく美味しい」

「本当・・・ハーブも上手く使われていて、お酒が飲みたくなるわね」


「結城さん、あの、先に参照権限付与したほうがいいですか?」

「ううん。食べてからで大丈夫です。お腹すいたでしょう?」

 結城さんとりこたんが、クッションに座った。

 りこたんがスティックを食べて美味しいと呟くと、啓介さんがガッツポーズをしていた。




「あの・・・啓介さん、さっきから食べてばかりですみません。手伝いましょうか?」

 りこたんが啓介さんのほうを気にしていた。


「こんな可愛い女子ばかりに囲まれて、料理を振舞えるなんて・・・・。無になるために、始めた料理だったけど、やっててよかったよ」

 じーんとしていた。


「お兄ちゃん、推しの前だからあまり気持ち悪いこと言わないで。タペストリーだって本当は仕舞っておきたかったのに」

「こうやって、りこたんに見守られて作業すると落ち着くんだよ。料理だって美味しくなる気がするしさ」

「りこたんは私の推しなんだからね」

「妹の推しは俺の推しでもいいだろ」

「いいけど・・・でも、あくまで、りこたんは私の用事で来たんだから」

 結城さんがちょっとむきになって言い返していた。



 笑顔のりこたんが写ったタペストリーを見つめる。

 俺だって、あいみんに見守られながら勉強してる。

 啓介さん・・・疲れてるんだよな。


 結城さんは文句を言っていたけど、俺も将来啓介さんみたいになると思う。愚妹がいるし。



「ゆいちゃは、ゴリラの被り物、被らなくても大丈夫なんですか?」

「はい。まだ、突発的に被りたくなるんですけど、今日は大丈夫な日です」

「大丈夫な日とかあるんだ・・・・」

「はい、でも、急に恥ずかしくなる時もあります」

 ラザニアをフォークですくいながら話す。


「ゴリラの被り物被った子と、電車に乗るなんて冗談じゃないわ」

「あはは・・・あ、りこたん、サラダ取り分けようか?」

「あ・・・お願い・・・・」

 りこたんが顔を真っ赤にして俯いていた。

 さっきの兄妹の会話が効いてるんだろう。


 この兄妹、推しが目の前にいること忘れて話し出すんだよな。

 結城さんは全く気付いていないみたいだけど・・・。




「ふう・・・これで完成っと・・・・」

「スペアリブだー」

 お店で出るようなスペアリブが出てきた。

 焦げ目も付いていて、ガーリックの匂いが食欲をそそるな。


「結城さんのお兄さん。ありがとうございます。美味しかったです、あ、ここに座ってください」

「じゃあ、遠慮なく・・・」

 ゆいちゃとりこたんの間に座った。

 メガネを拭きながら、ちょっとだけ口角が上がっていた。



「で? 磯崎君とのんのんが付き合ってると?」

 座るなりいきなり切り込んできた。


「は?」

「そうなんです」

「違う違う誤解ですって」

「Vtuberと付き合える時代か・・・羨ましいな・・・・」

「いや、マジで違うんで」

 結城さんがイラっとしながら、啓介さんに麦茶を注いで渡していた。


「俺は応援するよ。Vtuberとの禁断の恋」

「本当に違うんですって」

「お兄ちゃん、違うらしいでしょ。しつこい」

 啓介さんが親指を立ててきた。

 ゆいちゃがふうふうしてから、スペアリブを口に運んでいる。



「啓介さん、仕事は忙しくないんですか?」

「ものすごい忙しい。でもりこたんの配信だけは個室トイレに閉じこもったりしてリアタイしてるよ。推しの力って偉大だね」

「・・・・・・・・」

 隣にりこたんがいるのに、気にせずに話していた。

 強いな・・・。


「ねぇ、お兄ちゃんは彼女を作ろうとは思わないの? 職場の人とか・・・毎度、こうやってりこたんが来るたびに来られると、妹としては不安になってくるんだけど・・・」

「みいな、俺は多分一生彼女はできないと思う。そもそもモテない上に、職場に女性がいない。話すとしてもコンビニの店員のみ」


 声に力がこもっていた。

 というか、魂がこもっていた。


「あきらめろ」

「えー・・・・何とかして」

「なんともならん」


「あ・・・・俺も妹と弟がいるんですけど、二人とも血のつながりを疑うほどリア充で・・・。これから実家帰るたびに彼女いるか聞かれそうで怖いですよ」

「そうだったのか」

 啓介さんが同志を見るような目を向けてきた。


「マジで気を付けてくれ。オタクグッズ見られたときは、ごみを見るような目で見てくることがあるからな。みいなの場合、運よくVtuberにはまったからこうやってから打ち解けてるけど・・・俺が高校の時なんてもう・・・」

 レンズの奥の小さな目に哀愁が漂っていた。


「き・・・肝に銘じておきます」

「・・・・・・・・」

 結城さんが聞こえないふりをしている。 



「さとるくん、妹いるんですか?」

 ゆいちゃがこちらを覗き込む。

「あぁ・・・インスタばっかやってるけどね」

「じゃあ、ご挨拶しないと」

 のんのんが口を拭いてから言う。


「私もご挨拶しないとです」

「どうしてゆいまで・・・」

「さとるくんの妹ならきっと可愛いです。私、可愛い子が好きなのです」

「・・・・・」

 なんか、ぐだぐだで疲れてきた。

 早くあいみん来れるようにならないかな。

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