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俺の推しは裏切らない!  作者: ゆき
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24 料理対決

「わかった。私も『VDPプロジェクト』に入る」

「えっ」

「だから、さとるくん。私の部屋にも来て。アロマも炊いて、ここよりもずっと落ち着く部屋なの」

 のんのんが腕を掴んで、後ろに引っ張っていこうとしてきた。

 あいみんが服の裾をぎゅっと摘まむ。


「できないってば。さとるくんは私の部屋しか出入りできないんだからね」

「りこー、私の部屋に来れるようにアカウント作って」

『今、それどころじゃないの。後にして』


 モニター越しにりこたんが悩んでいる様子が見えた。

 あいみんだけ出られない理由が、まだわからないらしいな。


「もうっ、相変わらずシステムオタクなんだから」

「のんのん、いい加減さとるくんから離れてよ」

「付き合ってるんだから、これくらいするわ」

「だから、付き合ってないってば」

 のんのんがぴったりくっついてきていた。


 困ったな、そろそろ戻りたいんだけど・・・。


「さとるくん、ずっと黙ってる。のんのんのこと好きなの? 推し変しちゃうの?」

「え?」

 あいみんがうるうるしながらこちらを見上げてきた。


「推し変とか・・・いや、そうゆうんじゃなくて。早く戻らなきゃいけないから・・・・」


「あいみ、料理勝負ではっきりさせましょ。さとるくんが選んだほうが、さとるくんの彼女ってことでいい?」

 のんのんがすっと立ち上がった。


「え? ちょっと待って・・・・彼女とかそうゆうの・・・」

「わ・・・わかった」

「え? あいみんまで」


 彼女ってどうゆう意味か、この子たちわかってるのか?

 なんとなく理解していないような気がする・・・。



「え・・・と、ごめん。そろそろ戻りたいんだけど、学校があるから」

「結城さんにノート取ってもらえばいいでしょ?」

 あいみんがぴしゃりと言う。


「・・・・・・・・・・」


 確かに出席は取らない授業だけど・・・。

 結城さんに借りを作っちゃうな。

 まぁ、早めに終わってくれれば、間に合わないこともないか。


 って、そうじゃなくて。

 モニターの向こうのゆいちゃと目が合った。

「ゆいちゃ、手引っ張ってくれる。抜け出したいです・・・・」

 こそっとモニターに手を差し込もうとした。


『だーめでーす。なんだかおもしろいんだもん。ふふふ』

 悪魔かよ。

 頬杖を付いて楽しそうにしていた。



「のんのん、私が勝ったら、いちいちべたべたしないでよね。彼氏とか言うのも禁止」 

「いいわよ。料理には自信があるんだから」

 のんのんが髪をポニーテールに結びなおした。



「でもキッチンなんて、ここに無いような気がするんだけど」 


「AIロボットくん、お願い。あ、さとるくん、ちょっと端に寄ってて」

「へ?」


 AIロボットくんがせわしなく動き始めた。

 絨毯をバサッと剥がして、端に寄せる。

 もう1体AIロボットくん(2号らしい)が来て、床をガタガタいじっていた。


「これって何? 何が始まったんだ?」

「キッチンの用意」

「キッチンって? この部屋にそんなスペースな・・・」


 AIロボットくん同士が顔を見合わせて、リモコンのようなものを操作すると床が競り上がってきた。

「・・・マジか・・・・・」


 コンロや水回り、オーブンも付いた新品同様のキッチンが出てきた。

 まな板、包丁、皿、おたま、しゃもじ、炊飯器・・・全て揃っている。

 さすが、インターネットの世界というか・・・。


 俺たちの世界で、移動に時間かかるのが不思議だと言っていたけど、こんなにすぐに出てくるなら、さぞかし不思議だっただろうな。


「種目は何にする?」

「さとるくんが決めて・・・・」


「じゃ・・・じゃあ、チャーハン・・・とか・・・」


 一番早く終わりそうだからだ。

 できれば、4限の授業は出たい。

 プログラミングの授業はこれからのためにもやっておきたかった。


「わかったわ。あいみん作れるの?」

「も・・・もちろん」

 ちょっと自信なさそうだな。

 心の中で頑張れって応援していた。


 のんのんはレースの付いたエプロンを着て、あいみんはシンプルなチェックのエプロンを着ていた。

 とりあえず、あいみん可愛いな。



 AIロボットくんがピッと笛のような音を鳴らすと、あいみんとのんのんがキッチンに立った。

 上から吊るされたアイパッドのようなもので食材を選んでいる。

 レタス、豚肉、玉ねぎがサクサクとキッチンの上に出てきていた。


 すごい世界だな・・・。ここは。

 2人の様子を、呆然としながら見ていた。


『モテる男は辛いですねー』

 ゆいちゃがゴリラの被り物を取って、にやにやしていた。


「他人事だと思って・・・・」

『のんのんがあんなにデレるの珍しいんですよ。面白くて』

 のんのんが手際よく、レタスを切っていく。

 反対に、あいみんがざくっざくっとぎこちなく包丁を使っていた。


「あいみんって料理できるの?」

『お菓子しか作ったことないんじゃないですかね? 基本私と一緒で食べるの専門なんです』

「そうだよな」


「わわっ」

 まな板をひっくり返して、AIロボットくんが受け止めていた。


「AIロボットくんありがとう」

 AIロボットくんは2体ともあいみんに付きっきりだ。


「慣れないことするからそうなるのよ」

「そんなことないもん、できるもん」


 切った野菜を見る限り、どう見てものんのんのほうが美味しそうだな。

 のんのんがフライパンに油を敷いて、野菜を炒めていた。

 炒め玉ねぎのいい匂いがする。


 ザザザー


 あいみんがみじん切りになっていない玉ねぎを投入している。

 ざく切りのチャーシューが入ったように見えた。


「あの、チャーハンってそんな難しい料理だっけ?」

『私も作れないのでわかりません』


「・・・・・・・・・」

 ゆいちゃが頬杖を付いてる横で、りこたんがスマホで色々検索している。



「ふう、できたわ」

 のんのんが一口食べて、美味しいと微笑んでいた。

「まだ終わってないの?」

「もうすぐできるの」


「あまり無理しなくていいんじゃない?」

 皿に盛りつけて、持ってくる。



「食べて食べて、絶対美味しいから」

 のんのんが座って、皿とレンゲを渡してきた。

 上にレタスが載っているから色も鮮やかで、お店のチャーハンみたいだった。


 一口食べてみる。


「美味しい。すごいな」

 正直あまり期待していなかったけど、今まで食べたチャーハンで一番美味しいかもしれない。

 具材の比率がちょうどよくて、ご飯と綺麗に混ざっていた。


「私も、できたっ」

 あいみんがAIロボット二体を引き連れて近づいてくる。


 レンゲを入れてみる。

 これは・・・・本当に食べられるのか?

 チャーハンというより、ご飯にチャーハンの具を混ぜたような料理だった。

 焦げたような匂いがするし・・・。


「そんなの私の彼に食べさせたら可哀そうだわ」

「彼じゃないし。見た目じゃないもん。味で勝負するんだもん」

 あいみんがぐちゃっとした何かを差しだしてくる。


「食べてみて」

「うん・・・・」

 ごくりと息を呑んで、レンゲですくう。


 ・・・・想像通りの味だ。


 べちゃッとしてるし、焦げてるし、多分、自分で作ったほうがはるかに美味しいな。

 どうやったら、ここまで失敗できるんだ?


「どう?」

「お・・・美味しいよ・・・」 


 推しが作ったものなんだから美味しいに決まってる。

 美味しいって思いこみながら食べることが大事なんだ。

 ガツガツ飲み込んでいた。


 AIロボットくんたちが、気の毒そうにこちらを見ている気がした。



「うっ・・・お腹が・・・・」

 突然、腹に激痛が走った。


「どうしたの?」

「腹が痛い・・・・ゆ、ゆいちゃ」

『もう、仕方ないですね。さとるくん、手を伸ばしてください』

 脂汗を掻きながら、モニターのほうに手を伸ばす。

 ゆいちゃが一気に引っ張り上げてくれた。



 キーボードを飛び越えて、床の上に転がる。

「痛って・・・」

 頭を打った。

 りこたんが椅子に座って、ブツブツ言いながら環境設定を調べている。



「すみません。ちょっと強引でしたね。大丈夫ですか?」

 ゆいちゃが覗き込む。

 モニターにはあいみんとのんのんが映っていた。


「お疲れ様です」

「あぁ・・・ありがとう・・・」

 ゆいちゃにぽんぽんと頭を撫でられた。


『あ、どっちが美味しいのか聞いてなかった。さとるくん、どっちが美味しい?』

『私のほうが美味しいに決まってるじゃない』

『さとるくんが決めるんだもん』


 画面からあいみんとのんのんの声が聞こえていた。


「と・・・トイレに籠る・・・・」

「お大事にされてください。胃薬準備しておきますね」

「お願い・・・します・・・・」

 ゆいちゃがゴリラの被り物を被りなおして、優しく言った。

 うずくまりながら、トイレのほうに歩いていく。


 この調味料、2年も賞味期限切れてた、って声が、画面のほうから聞こえていた。

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