21 小さな単独ライブ
あいみんたちと秋葉原のカラオケ店に集まっていた。
秋葉原はオタクも多いからな。ばれないようにこそこそしながら山手線を降りていた。
「なんか、忍者になったみたいだったね」
「しっ・・今店員さん来るから」
店員がドアを開ける。
「失礼します、メロンソーダのお客様・・・・」
いなくなったのを確認してから、あいみん、りこたん、ゆいちゃが被っていたフードを取った。
「ふう・・・こんなことしなくても、ばれないと思うけと・・・」
「念のためです。皆さん熱狂的なファンも付いているんですから」
結城さんがA3用紙を渡してきた。
アイパッドをスクロールしながら、データ分析のまとめ結果について軽く説明する。
作ってきてくれた表を要約するとこうだ。
あいみん:10代から50代まで幅広くの男性に支持。3次元アイドルからの推し変で来ることが多く、アイドル推しのマナーができている。(俺のことだな)
チェンネル登録者数11万人、歌の回が特に1日ごとの伸びがいい。
ツイッターフォロワー数13万人。
配信時間帯は20時からがベスト。
りこたん:20代から40代の女性、男性ともに人気。社会人が多く、1回におけるスパチャの金額が一番大きい。
チャンネル登録者数9万人、高校の世界史と物理を説明する回が平均して伸び率が高い。
ツイッターフォロワー数14万人。
配信時間帯は21時半~22半がベスト。
(今は少ないけど、受験生をターゲットにするのもありだと言っていた)
ゆいちゃ:30代から50代の男性に人気。推している人に共通の特徴はほとんどないらしい。スパチャの額も跳ね上がったり、低くなったり、一貫性がないと言っていた。
チャンネル登録者数5万人、ゴリラの被り物での配信はあまり伸びていないが、ゆいちゃが顔を出してももクロの『行くぜ!怪盗少女』をカバーした回が爆発的に伸びていた。
ツイッターフォロワー数15万人。
配信時間帯は22時半から23時半がベスト。
「ほわー、こう見るとわかりやすいね」
あいみんとゆいちゃがA3で印刷された一覧を見ながら呟いた。
日付毎の配信とアクセス数を軸にしたグラフと、年齢層とその他興味のあることについて軸にしたグラフが並んでいた。
端のほうに詳細の説明が書いてあった。
ここ3か月以内のデータを元にしているらしい。
「結城さん、頑張ったね」
「結構楽しかったの。数字で見るとわかりやすいよね。ゆいちゃは、本当にアイドルとして求められているって感じ。今は少ないけど、きっとこれから増えてくると思う」
「・・・・・・・」
ゴリラの被り物を置いてきたからか、声が小さくなっていた。
「私は・・・世界史の話し面白かったのかしら? そうね、春っていったらみんな一つ学年が上がって、進路を決める時期だし・・・・そうゆうのもいいかも」
「はい。私も兄も、りこたんの勉強講座、わかりやすくて大好きです」
結城さんが熱を込めて言った。
「あ、ありがとう」
「いえ・・・推しなので・・・」
我に返ったのか、赤面していた。
ていうか、啓介さん、あの忙しい中、受験生の勉強講座まで見てるのか。
すごいな・・・。
「あと、コラボとかも1週間に一度くらいのペースで行うといいかもしれません。たとえば、りこたんとゆいちゃだったら、全く別の層ですし。それぞれの推しが相互でチャンネル登録してくれれば」
「そうね。ゆいちゃのチャンネル登録者数も伸びそうね」
「ゆいちゃはツイッターで歌って踊ってみたがすごい勢いで伸びたんだよね。その後、歌わなくなっちゃったから減っちゃったんだけど」
「あれ? どうして歌わなくなったんですか?」
「え・・と・・・なんか調子いいときじゃなきゃ、顔出さなきゃいけないし、恥ずかしくて・・・」
髪をいじりながら話す。
「もっと歌ったら、絶対人気出るのに」
「そうだよ。ゆいちゃの歌聞きたいって人、絶対たくさんいるはずだよ」
「そ・・・うかな・・・。もっと、頑張ってみます・・・」
ゆいちゃがもじもじしながら表を見ていた。
「せっかくだから、この通りの配信時間帯で固定しよ。私はちゃんと20時から配信できるように準備しなきゃ」
「いっつも3分とか5分とか遅れちゃうもんな」
「えへへ、だって、服とか選んでたら遅くなっちゃうんだもん」
舌を出して髪を触っていた。
ちゃんといつも見てくれてるんだね、と笑いかけてきた。
「私は21時半・・・と」
「あ、ツイッターで呟くのはちょっと待って」
あいみんとりこたんがスマホを持ったのでストップした。
「来週、俺があいみんのHP実装すると同時によろしく」
「そうだった」
「興奮して、すぐに呟こうとしちゃった」
あいみんが照れながら、スマホをテーブルに置く。
「来週からアクセス数とか、チャンネル登録数とか伸びたら嬉しいな」
結城さんが用紙の端っこをくるくるしながら言う。
「絶対伸びるって。嬉しいね、こうゆう表を見ると、私たち頑張ってきたんだなって思えるね」
「うん」
「ゆいちゃも、ちゃんと人前に出るときは被り物取らなきゃダメだからね」
「今もちゃんと取ってますよぉ・・・」
弱々しく言って、りこたんにくっついていた。
「でも・・・なんだか有名になったらりこたんが遠くに行っちゃうみたいで、ちょっとだけ寂しいなって・・・。その、有名になるのが嫌とかそうゆうのじゃないんだけど・・・」
「・・・・・・」
口には出せなかったけど、同じことを思っていた。
あいみんに人気が出るのは嬉しかったけど、こうやって話したりできる存在じゃなくなるのかなって漠然と思っていた。
「よいしょよいしょ」
あいみんが結城さんと俺の間に、どっかりと座る。
結城さんがちょっとびっくりしていた。
「私はどこにも行かないよ。ね」
へへへ、と首を左右に傾ける。
「いつも、さとるくんに推してもらえるように頑張るんだー」
「うん・・・ありがと」
結城さんが怪しむような目でこちらを見てくる。自分だって同じ感じでりこたんを推してるくせに。
「あの、私、みんなの歌ってダンスするところ見たいなって・・・贅沢なお願いだけど、いいかな?」
結城さんが少し緊張しながら言った。
カラオケのデンモクをテーブルに置く。
ゆいちゃが、カルピスをちびちび飲みながら、あいみんとりこたんのほうを見ていた。
「もちろん!」
「じゃあ、『VDPプロジェクト』始動記念のワンマンライブを行いましょうか」
「りこたんがMC?」
「この三人の中で、MCができるとしたら、私しかいないでしょ?」
りこたんが立ち上がって前のほうに行く。
笑い声が漏れた。
ダンスするにはスペースが狭い気もしたけど・・・。
慌てて、テーブルをどかして、スペースを作る。
「一曲目、何がいい?」
「ゆいちゃの得意な『千本桜』にしようよ」
ゆいちゃがカルピスを一気に飲んで、立ち上がった。
「私、歌います」
「おー」
テーブルをぎいっと動かして、前のほうに立つ。
マイクを持って、軽く発声練習をしていた。
「ゆいちゃ頑張って」
拍手をする。
ゆいちゃは、すごく上手かった。
高いキーも低いキーも出るし、ダンスしていても、声に乱れが無かった。
本当に、アイドルのライブに来ているみたいだな。
「結城さん、啓介さん・・・呼ばなくてよかったの?」
「いいの。これは私たちのプロジェクト始動ライブなんだから」
「贅沢すぎるな。俺らで独り占めか」
「そうね。でも、私たちもこれから頑張らなきゃ。Vtuberってたくさんいるから難しいかもしれないけど、絶対にみんなを、メジャーにしようね」
「うん」
結城さんが目を輝かせて拍手をしていた。
小さな小さな、カラオケルームだ。
あいみんが飛び込んで、途中から二人で歌っていた。
りこたんも引きずられる形で歌い始める。
正直、どうやってお客さんを集めればいいかとかも全然わからないけど・・・。みんななら、自然と人を惹き付けられる気がした。
この三人が有名になるのは、時間の問題と思っていた。




