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俺の推しは裏切らない!  作者: ゆき
21/183

20 好き違い

「磯崎君、おはよう」

 結城さんがメガネを外して、うっすら化粧をしていた。

 服装も、りこたんみたいなスカートを履いている・・・。雰囲気がらっと変わったな。


 りこたんの影響か?


「お・・・おはよう。ここいい?」

「いいよ」

 パソコンの前に、DBテーブルの関係を結んだER図を広げていた。


「あ、荷物どけるね」

「ありがと」

 朝、8時半。

 1限も始まっていない時間だったので、情報リテラシー教室には誰もいなかった。


「ん? そのサイト・・・」

「見ないほうがいいってわかってるんだけどね」


 Vtuberについて書かれている掲示板を見ていた。

 ぱっと見ただけで、あいみんやりこたんの中の人を詮索する書き込みや、みらーじゅプロジェクトの悪口、嫌味が目につく。


「・・・歌が下手なんて、よくそんなの書けるな」

「ここに取り上げられるってことは人気がある証拠だけどね」


 タンブラーに口を付けて言う。


「私だって見ているだけで腹立つけど、りこたんが画面から出てきて、誰かに勘づかれてないかな? って心配で・・・」

「確かに、2人とも目立つしアイドルみたいだけど・・・さすがにVtuberが出てきたとは思わないでしょ。ストーカーがつかないかは心配だけど」


「うん。ツイッターで、Vtuberの住所が晒されたってのを見て怖くなって」

「マジで?」

 ぞくっとした。

 スクロールする画面を目で追っていく。


「うわっ・・・高額スパチャ投げた人までさらされてるの?」

「そうゆう人もいるんだよ。私のフォロワーさんもたくさんスパチャ投げるから、画面キャプチャ撮られて、晒されてて・・・」

「ひどいな」

 見れば見るほど、イライラするな。


 浅水あいみの声はこの人じゃないか? って、全く知らない声優の名前が書かれていた。

 あいみんはあいみんなんだけどな。


「ん? Vtuberのみゅうみゅうって子は? かなり投稿があるみたいだけど」

「ついこの前、ツイッターで面白ネタ動画を呟いてバズったの。大手事務所のVtuberだから、バックも強くて、一気に有名になってる」


 みゅうみゅう、と検索すると、銀髪の大きな目の女の子が飛び跳ねている動画が出てきた。

 ちょっと変わった和服を着て、頭に花のかんざしを二つ付けていた。


「先々週まで、無名だったのに・・・」

「この子も武道館目指してるらしいし、ライバルになるかもね」


「あ、歌ってみた出してるんだ?」

「ボカロのカバーとか聞いたんだけど、すごく上手だったよ」

「ふうん・・・・」

 ま、あいみんのほうが断然可愛いけどな。



「来週、HP実装できそうだけど、結城さんのほうはデータ分析できた?」

「うん・・・ざっくりとは割り出せそう。曜日ごとのコアタイムと照らし合わせたら、ツイッターのDMで送るね」


「あのDBテーブルから引っ張り出してきたの? すごいね」

「お兄ちゃんがね。張り切っちゃって。ツールまで作ってくれたから、私はEXCELで言われるがまま一覧作るだけだったよ」

「あぁ、なるほど」


 『VDPプロジェクト』のやり取りは、鍵アカウントを作って、ツイッター中心になっていた。

 結城さんのLINEも知っていたけど、ほとんど使うことはないな。


 LINEのアカウントを持っていないあいみんが、結城さんとLINEしているとそわそわするからだ。



「明日はりこたんの歌とダンスが聞けるんだから。今日、4限目までぎちぎちに入れたんだけど、頑張らなきゃ」

 結城さんの表情がぱっと明るくなる。


「秋葉原のカラオケ店だけどね」

「どこでもいいよ。りこたんが見れるんだもん。いよいよアイドルユニット始動って感じで、嬉しいね」



「あの・・・ずっと聞こうか迷ってたんだけど・・・・」

「なに?」

「・・・結城さんって、その・・・女性が好きなの?」

「え?」

 目を丸くした。


「だって、ほら、りこたんへの入れ込み方・・・なんかもう、恋って感じじゃん。俺は別にそうゆうの、いいと思うよ。女子が女子を好きだって、おかしくないし」

「っ・・・・・・・」

 ペンがかたっと落ちた。


「そんな・・・違う違う。全然そうゆうのじゃないよ」

「そうなの?」

「りこたんは、こんな風になりたいなっていう好きなの。恋とか、付き合いたいとか、そうゆう好きじゃないよ。それに・・・私、男の人が好きだし・・・」

「・・・・・・」

 そうだったんだ。

 てっきり恋かと・・・・。


「純粋に憧れてるだけ。女子の友達少ないのもあるかもしれないけど・・・りこたんみたいな子と親友になれたらいいなって。心の支えなの」

「・・・・そか。勘違いしてごめん」

「ううん。でも、これだけりこたんが大好きだったら、そう思われても仕方ないよね・・・。大好きなことは大好きだから、そこは勘違いしないでね」


「うん・・・あぁ、もちろん」

 落としたペンを拾っていた。


 意外な答えだった。

 絶対、りこたんのことが恋愛対象として好きだと思っていたのに・・・。


「じゃあ、磯崎君はあいみんのこと好きなの?」

「もちろん、好きだよ」


「付き合いたいって思うの?」

「それは・・・・・・・」

 真剣な表情でこちらを見つめる。


 なんだろう。

 もちろん好きだけど、Vtuberと付き合いたいって、そうなのか?

 自分でもよくわからん。


 結城さんがりこたんに恋愛感情があるって聞いたら、相談したかったけど・・・・。


 止めておこう。

 変な人に思われたくない。


「Vtuberだし、結城さんと同じ憧れって感情だよ」

「本当に? リア恋じゃないの?」

「あぁ。全然」

 全力で、流した。

 結城さんが疑うような目でこちらを見ていた。


「そう・・・それならよかったけど」

 小さく呟く。

「え?」

「私も、Vtuberに恋したっていいと思うよ。お兄ちゃん、すっかり、りこたんに惚れ込んじゃったの」

「そうなの? 啓介さんが?」

「そう。無理やり時間つくって、配信もリアタイしてるって。ゲームで課金してた分を、りこたんのグッズにあててるらしいの」


 もしかして、この前結城さんの家に行った時、応援してもらったからか?

 あんなふうに言って貰えたら、好きになってもおかしくないと思ったけど・・・。


「他人から見ると普通かもしれないけど、妹から見ると、ちょろくて恥ずかしくなる。りこたんだから仕方ないって思えるけど」

「・・・・・・・」


 それな。秒で落ちたんだな。

 でも、結城さんも似ているとこあると思うんだけど・・・。


「じゃあ・・・推し用のアカウントとかあるよね? ツイッター、フォローしたほうがいいかな・・・?」

「いいよ、私もフォローしてないし。さすがに家族に自分のアカウントを見られたくない・・・」


「そ・・・それも・・・そうだな」


 自分に置き換えたらゾッとした。

 弟と妹がいるけど、どちらにバレても地獄だな。

 あいつら、本当に俺と血がつながっているのかわからないくらい、リア充だからな。 


「ねぇ、みゅうみゅうって子の声、ちょっとあいみんに似てると思うんだけど」

「え? そうなの?」

「聞いてみて」

 スマホでスクロールして、片耳だけイヤホンを付けた。


『だべさ。私もそう思うべなー』


「・・・・・・・」

 確かに、声質がちょっと似ている気がする。

 でも、それより気になるのが・・・。


「方言なの・・・・?」


「そう。北国の子らしいよ。東北から上の方言を使いこなす、マルチリンガルって言われてるんだ。歌うときとのギャップで、バズったんだよ」

「なんか急に親近感があるな・・・・」


 北国出身の自分にとって、すごく懐かしい感覚があった。


「あ、磯崎君って東北出身なの?」

「いや、生まれが北海道だけど・・・・」

「そっか」

 もう一度聞いてみる。


「・・・・やっぱり、懐かしい。じいちゃんちの言葉聞いてるみたい。俺みたいな層にうけるんだろうな」

「あれ? あいみんから推し変しちゃうの?」


「そんなことないって。ちょっと、調べてみようかなって思っただけだよ」

「本当に?」

 意地悪っぽく笑っていた。


「でも・・・一応、あいみんには黙っておいてね・・・」

「どうしよっかなー?」

 茶化して、なかなか頷いてくれなかった。



 画面を課題のEXCELに切り替えて話す。

「それより、今日の課題やっておかないと」

「俺もまだ終わってないよ」

「推し事と勉強の両立って大変だよね」

 今日の2限目の解析学のノートを出す。

 家にいるときは『VDPプロジェクト』のことが中心で、結城さんも俺も朝課題をやるようにしていた。


 大学に入ってから結城さん以外とは話す機会がなかった。

 ノートを取るのに不足分があるから、友達は多いほうがよかったけど・・・。


 今は、『VDPプロジェクト』の応援に専念するほうが大事だな。

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