19 Vtuberの心とは?
「差し入れのプリンだよー」
あいみんが家に入ってきて、ぺたぺた駆け寄ってくる。
いつも配信が終わると10分くらい後に、あいみんが来るんだよな。
わかってるから、この時間だけ鍵を開けておくようになってしまった・・・。
「ありがとう」
「コメントくれてたね」
「この作業しながらだったけど・・・・」
「あ、すごい、りこたんの言ってた通り、出来上がってる」
「まだ細かいテストは必要なんだけどね」
「すごい。私が動いてるHPだ」
あいみんのおはよう動画をHPの中央に張り付けていた。
ピンクの近未来っぽい衣装で、今日も一日ファイトって励ましてくれる動画だ。
この動画を見ると、一日頑張ろうって思えるんだよな。
「ここクリックすると、あいみんのグッズが見れるようになってるんだ」
「おぉ」
「最新情報も更新しやすいように組んでるよ。DBテーブル借りたんだけど・・・・」
うんうん、と頷いていた。
多分、何もわかってないと思うけど真剣に聞いていた。
「あと、スマホで動かして確認しながらやって・・・iPhoneとAndroid」
「えらい、えらい。いつもありがとう」
「・・・・・・・」
あいみんが頭をわしゃわしゃってしてきた。
「プリン食べようっと」
「・・・・・・・・」
髪を触りながら、ぐしゃっとなったところを整えていく。こうゆう、大人っぽいところもいいんだよな。とにかく癒される。
って、そうじゃなくて。
最近、すごくすごく気になることがある。
あいみんにとって、俺ってどんな存在なんだろうな。
一般人がVtuberに抱くように、仮想世界のキャラと話してる感覚なんじゃないだろうか?
「あのさ・・・あいみんに聞きたいことあるんだけど・・・・・」
「なになに?」
ソファーに座って前のめりになった。
「え・・・・と・・・その・・・・」
「うんうん」
彼女みたいな距離で接してくるから、ドキドキするんだよな。
尊すぎて、ストレートに聞く勇気はなかった。
「俺が・・・・・・」
「うんうん」
空気を呑む。
「りこたん最推しになったらどうする?」
「えー・・・・」
ガーンと口を開けていた。
食べかけのプリンをテーブルに置く。
「どうしてどうして? 私のこと嫌いになっちゃった?」
「そ、そじゃなくて」
「じゃあ、どうして? どうして?」
椅子の後ろまで来て、肩を揺さぶってきた。
「もし、もしもの話しだよ」
「そうゆうこと。もしね? もし・・・・」
ソファーに戻っていって、足を組む。
「そりゃ、りこたんなら私だって大好きだし、しょうがないかなって思うよ」
「そう・・・だよな・・・」
「もちろんだよ」
うーん。どうゆうことだ?
さっきまでは、取り乱していたのに、急にクールな態度になった。
「じゃあ、ゆいちゃだったら?」
「ゆいちゃも可愛くて大好きだもん。しょうがないかなって思うよ」
「そうだよな・・・ゆいちゃ、一生懸命だしね・・・・」
「うん、いつも付いてきてくれる可愛い後輩だもん」
何の動揺もなく、プリンを食べていた。
これは・・・どうやって聞けばいいんだろう?
みたーじゅ都市のVtuberでも、例えば、こっちの人間と付き合うとか・・・・そうゆう感覚はあるのだろうか。
よくわからない。
どうして、いつも家に来るんだろう。
こっちの世界に興味があるだけって言われたらそんな気もするんだけどな。
ボールペンを頬にあてる。
「じゃあ、万が一、結城さんと付き合うってなったら?」
「えっ・・・・・・」
あいみんが勢いよく立ち上がる。
同時に、ドアがバーンと開いた。
「こんばんはー」
りこたんが、ゴリラの被り物をしたゆいちゃと一緒に入ってきた。
「あれ? どうしたの? 何か話してた?」
「ううん。私のHPどうゆう感じかなって覗き込もうとしてただけだよ」
「あー見た? かなりいい感じに出来上がって来たものね」
あいみんがさりげなく話題を逸らしていた。
ゆいちゃがドドドドと歩いて、近づいてくる。
「わぁ、本当、すごいですね。短期間で」
「ほ、ほら・・・りこたんのHPのベースがあったからだよ」
マウスをクリックする。
「これならきっとアクセス数も上がるわ。大変だったでしょう? どれくらいかかった?」
「うーん、ここ1週間、ずっと夜中にやってたからな。どれくらいって言われると、わからないな。音楽聞きながらやってたときもあったし」
「あまり追い込まないようにね」
「別に好きでやってるから」
睡眠時間も取れるし、好きなことだし、苦にはならなかった。
動くたびに、達成感があったし・・・。
正直、啓介さんの置かれている環境に比べたら、マシだよな。
「へぇ、さとるくんも色々、頑張ってるのね」
りこたんがパウンドケーキを出しながら言う。
「りこたんの手作り?」
「そう。最近、お菓子作り配信をすることもあるの。レシピはフォロワーさんから貰ったりして・・・。これはドライフルーツ入りのパウンドケーキ、温かいうちに食べようと思って」
「あぁ、紙皿あるから出すよ」
戸棚のほうに歩いていった。
女子って甘い物がつきものなんだな。
結城さんの家に行ったときも、クッキーを出してきたし。
「ねぇ、さとるくん? さっきからずっと、落ち着かないけど、どうしたの?」
「え?」
「何かあった?」
りこたんがパウンドケーキを皿にのせながら言う。
「いや、何でもないよ。テストで頭使いすぎたのかな?」
不自然だけど、思いっきり誤魔化した。
今日、あいみんしか来ないと思ってたんだよ。
二人が来るなんて、聞いてなかったし。
俺のことどう思ってるのか? とか、仮想世界のキャラって感じなのか・・・。
ストレートな質問しなくて、心底よかったと思っていた。
「さとるくんもそうなんですね。私も頭使うと体が熱くなるタイプです」
ゆいちゃがゴリラの被り物を直しながら共感してくれた。
「ゆいちゃは今、どんな表情でいてもわからないよ」
「へへへ、そうでした」
「『VDPプロジェクト』始動って告知するのは、さとるくんのHPが出来上がって、結城さんのデータ分析が終わってからにしようと思ってるの。HPと配信時間帯の決定を一緒にしたいねって」
「・・・そうそう。その頃には、私たちもダンスも歌も形になってきてると思うし・・・」
あいみんがもぐもぐしながら言う。
「りこたんはもうちょっと練習が必要ですけどね」
「うぐ・・・・」
ゆいちゃに言われると、りこたんがちょっと頬を赤らめていた。
「でも、りこたん努力家だから大丈夫です」
「そういや、メンバーはもう決まったの?」
「最初は私たち3人でやろうかなって思ってるの。声はかけてるんだけど、みんなゲーム配信したりしてるから忙しいらしくて」
「そっか」
「私が振り付けしてるんですけど、三人のダンスはだんだん合うようになってきたんです」
ゆいちゃの華奢な肩が弾んでいた。
「じゃあ、今度結城さんもいるところで見せてよ」
りこたんがダンスするって言ったら、絶対に見たいだろうからな。
パウンドケーキを食べる。焼きたてで美味しかった。
「・・・なんか今日のさとるくん、結城さんのことばかり気にしてる気がする。二回も話題に出そうとするんだもん」
「へ?」
あいみんがじとーとした目で見てきた。
「そうなんですか?」
「違うって。普通に考えて、推しが歌ったり踊ったりするところ、見たいって思うだろ。健全でまともな考えだよ」
「そ・・・それはそうですね。私も最推しの柴犬の虎太郎がダンスしたりするとか言ったら、最前列で見たくなります」
「だろ? だろ?」
ゆいちゃの最推しって柴犬だったんだ。
いつもゴリラ被ってるし、まぁ、普通のアイドルを追いかけているわけないと思ったけど・・・。
「私も頑張らなきゃね。推してくれる人が見てくれるんだから」
りこたんがぐっと両手を握りしめていた。
あいみんがお茶を飲みながら、こっちを見ていた。
目が合うと、すぐにぷいっと逸らされてしまった。
ぷくっとさせてるのも可愛いけどさ・・・。
うーん。
プログラムなら答えがあるから楽なんだけどな。
Vtuberの乙女心、よくわからん・・・。




