1 最高の推しVtuberあいみん
パソコンの環境が整った。
ネットで調査して、一番コスパのいい状況を揃えた。
大学で情報処理学部に入ったのもあったけどそれだけではない。
まずは、モニターが3台。ヘッドフォンは性能のいいものを1つと、スピーカー。
大学の推薦が決まり、11月から本格的にバイトをして、佐倉みいなのグッズのために貯金していたお金をすべて回していた。
ツイッターを確認。
Vtuberの浅水あいみちゃんこと、あいみんの配信時間まであと1分、59秒、58、57、56・・・・。
正面のモニターと、右のモニターを確認してあいみんの過去配信とチャット欄が映ることを確認して、左のモニターでツイッター画面を表示していた。
完璧だ。ペットボトルのお茶を飲んでマウスをクリックしながら待機していた。
時間になると、モニターに和室が映し出される。
『浅水あいみこと、あいみんだよ。みんなこんにちはわわ・・・』
猫耳を付けたあいみんがメイド服で盛大にずっこけていた。
『わわ、恥ずかしいところ見られちゃったな。尻尾見えちゃった』
右モニターチャット画面を確認。
めちゃめちゃ可愛いくて盛り上がっていた。
だって、もう可愛い意外ないだろ、こんなの。
目はぱっちりしていて、茶色い髪、胸は大きくて動くたびにぷるんと動いた。
背景が薄っぺらいのが、ちょっと惜しいが・・・。
まぁ、大手じゃないようだから、仕方ないけどな。
むしろ、あまり過剰に現実よりだと刺激が強すぎる気がする。
新たな推しができた。
3次元みたいに、絶対裏切らない、最強の推しだ。
俺のこれからの日々は、彼女の配信を楽しみに過ごすんだ。
大学での勉強も、バイトの日々も、あいみんのためだと思えばなんてことない。
『ねぇ、ねぇ、じゃあ今日もじゃんけんではじめるよ? 準備はいい? せーの、じゃんけん』
ぽーいのタイミングで、チャット欄にグーと打つ。
あいみんが出したのは、チョキだった。
『どうかな? どうかな? あいみんに勝っちゃったっていう人にサービスしちゃおうかな』
猫耳をぴょこんとさせながら、ぐぐぐぐぐと言って、何かを覗き込んでいるような素振りをする。
挙動と、声が最高に可愛いんだよな。
この辺もスクリーンショットをとっておこう。
後でじっくり眺めよう。
『わぁ、スパチャありがとー』
スーパーチャット、Vtuberにお金を投げるシステムだ。貧乏学生の俺には、1万だの、3万だの、5万だの投げれないけどな。
でも、できる範囲でグッズを買って応援する。
ちゃんと時間になれば、あいみんは配信してくれるし、誰かのものになることもないんだから。
あいみんは一目見たときから惚れたんだ。
仕草が可愛らしい、後は声。
何よりも歌声に惹かれていた。あいみんはたまに・・・。
『決めた、このぉ、さとるくんって人いますかぁ?』
「!?」
あれ? 俺、明日死ぬのかな?ってくらい動悸が止まらない。
震えながら、チャット欄に打ち込む。
『さとるくんは、ご新規さんかな? これからよろしくね』
にこにこしながら顔を画面に近づけてくる。
『わわ、画面に近づきすぎちゃったね。失敗、まだ慣れてなくて。ごめんね』
おでこを押さえながら、下がっていく。
マジで、推しって最高だな。さとるって名前、本名打ち込んでおいてよかったよ。
あ、ここもスクショしておこう。
『じゃあ、さとるくんの好きなポーズしてあげるよ』
チャット欄に俺にリクエストするような声が流れていた。
みんな、あいみんを応援する同志だ。
俺のリクエストはこうだ。
― あいみんの一番可愛いと思うポーズ ―
『きたきた、ん? 何々? 私の可愛いと思うポーズ? えー?』
耳を押さえながら、体を左右に傾ける。
『じゃあ、こうゆうのはどうかな?』
照れながら、ちょっとお尻を突き出して、こちらに視線を送りながら尻尾を振っていた。
スクショをとる。これ、俺のためにやってくれたんだよな?
最高じゃん。
『はい、恥ずかしいからここまでー』
顔を赤くしながら後ずさりしていくと、みんな戻ってきてーとスパチャを投げていた。
推しのグッズがあったら、抱きしめて悶えたいほどだった。
・・・・後でやろう。
マジであいみん可愛いんだよな。ツイッターだと、ちょっと素が出るところもまた可愛い。
あと、他のVtuberの子とコラボしたときにはお姉さんキャラになるらしいんだ。
まだ、見たことないけどさ・・・。
配信時間は1時間だったけど、あっという間だった。
あぁ、こんな満たされた気持ちになるなんて・・・。しかも、さとる君って呼ばれちゃったし・・・。
あいみんのツイッターを確認すると、これからコンビニでお酒とスナック菓子買って、夜までゲームしますって書いてあった。
こうゆうギャップがたまらないんだよな。
風呂から上がって、何度もさとる君と呼ばれたところを繰り返していた。
あと、ポーズをとってくれたところと。
「あーあいみん、最高だー」
「ただいまー、お疲れ自分。わーい、お酒だお酒ー」
叫ぶと同時に、知らない女の子が、家に入ってくる。
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
こちらを見る。モニターを見る。
こちらを見る。モニターを見る。
「すみません。し、失礼しました」
ジャージ姿の女性がドアを開けて出て行った。
顔はメガネを外していたから、よく見えなかったけど・・・。
今の何だったんだ? ばたんと、隣の家のドアが閉まる音が聞こえた。
青ざめていく。
否、気にする必要はない。もう二度と会わなければいい話だ。
ちょっとくらい、趣味を見られたって、向こうが勝手に入ってきたのがいけないんだから。
ていうか、声が・・・いや、考えすぎだ。
深呼吸する。
落ち着け、落ち着け・・・・今は色んなことがあって、動揺しすぎている。
無理もない。
最推しの結婚から、次の推しあいみんに辿り着くまであまり時間が経っていないんだ。
あいみんのことを思い出そうと、何度もアーカイブをチェックしていた。