183 俺の嫁は世界最強に可愛い
『あいみさんが・・・・って、そ、そんなこといいじゃないですか。さとるくんが、話したいことがあったから呼ばれたんですよね。さとるくんから、話してください!』
「お・・・おう」
『なんのお話でしょうか?』
「・・・・・・・」
だよな。まずは、俺が話すべきだ。
「・・・・俺の最推しはあいみんだ。これは、一生変わらない」
『・・・わかってますよ・・・そんなの』
画面に映るゆいちゃが、力なく笑っていた。
『そんなこと言うためにわざわざ話したかったんですか? ちゃんと、さとるくんがあいみさんのこと好きなのはわかってますよ。あ、あいみさんと、お付き合いし始めたとか・・・』
「違う! そうじゃなくて・・・」
深呼吸した。ぐっと、手に力を入れる。
「ゆいちゃは俺にとって一番大事な人だ」
『え・・・・?』
「こんなこと言っても信じてもらえないかもしれないけど、つか、後ろにある推しグッズだって見られているわけだし・・・でも、これだけは本当だ」
『どうしたんですか? さとるくん・・・』
ゆいちゃがいつも見る配信画面の中で、首を傾げていた。
本当だったら、直接会って話したかった。
でも、これが、Vtuberに告白する方法なんだと思う。
すぅっと息を吸った。
「単刀直入に言う。俺の嫁になってくれ」
『な・・・・・・・』
「最推しは、あいみんでも、俺の嫁はゆいちゃだ」
『えっ・・・・』
「・・・・・・・・・・」
ゆいちゃを意識し始めたのは、あまりはっきりと覚えていない。
最初はゴリラの被り物で現れたから「なんだ、こいつ?」って印象だった。
でも、いつも話していて楽しいのはゆいちゃで、素でいられるのもゆいちゃで、夢を叶えてあげたいって思うのもゆいちゃで、いつのまにかゆいちゃを目で追うようになってしまった。
あいみんたちが、こっちの世界に戻ってこれないかもしれないと思ったとき、一番会えなくなるのが嫌だったのもゆいちゃだった。
俺はゆいちゃがずっと好きだった。
『よ・・・嫁って・・・』
ゆいちゃが驚いて固まっていた。
「・・・・・・・・」
嫁、嫁、嫁って、嫁だよな。まずかったか?
なんか、ゆいちゃの反応を見るに、変な告白した気がする。告白のサンプルとかチェックしなかったから。
SNSで暴走したオタクみたいになってる気がする。
一世一代の告白だったんだが・・・。
『あはは・・・でも、さとるくんは、ななほしⅥのみんなとか・・・あいみさんとか、想ってくれる人、いっぱいいるじゃないですか。私なんかよりも才能があって、可愛くて、みんなから人気のある人たちが、さとるくんのこと好きですよ』
「・・・・・・・」
『私は、かななんにもあいみさんにも勝てないです。実力も、人気も・・・』
「俺がななほしⅥのマネージャー補佐で頑張ってるのはゆいちゃのためだ」
『どうして・・・・』
「ゆいちゃ、言ってただろう? ファンを増やして、武道館ライブできるようになりたいって。ななほしⅥはトップアイドルだし、そこで仕事をこなして、いつか、俺が仕事を持ってこれるようになるよ」
『・・・・・・・・』
「俺はゆいちゃの夢を叶えたいんだ」
ゆいちゃの目を見て、真剣に話した。
『嫁・・・ですか・・・』
ゆいちゃがちょっと目を潤ませていた。
『だって、プロポーズじゃないですか。嫁になってくれ、だなんて』
「そりゃ、プロポーズのつもりだけど・・・」
『ぷ、プロポーズって・・・じゃあ、プロポーズなら直接会って言うものじゃないんですか?』
「・・・・だって、ゆいちゃが出てこないんだから仕方ないだろう?」
『それはそうですけど、なんだか勢い任せっていうか、なんていうか・・・』
「・・・・・・・」
最も過ぎる。
焦っていたとはいえ、画面越しで、しかもアバターに向かってプロポーズとか、ファンと変わらないよな。真剣さが伝わるわけない。
「い、今のはナシだ。ゆいちゃがこっちの世界に戻ってきてからもう一度・・・・」
『訂正はできません! 一度言ったら取り消せないのです』
「え・・・・・・・」
頬をピンクにしてにこっと顔を上げる。
『私、さとるくんの嫁になります。不束者ですが、よろしくお願いします』
「・・・・よ・・・・・よろしく」
ゆいちゃが画面の中で嬉しそうにほほ笑んでいた。一番、可愛いと思った。
「というわけで、私、ゆいちゃは、さとるくんの嫁になることになりました」
「嫁って籍入れたわけじゃないけど」
「さとるくんが言ったんじゃないですか」
やっぱ嫁って言い方おかしかった気がする。
「おめでとうー!!!」
パパパパパパパパーン
クラッカーが鳴る。
あいみん、りこたん、ゆいちゃ、のんのんがこっちの世界に戻ってきてすぐに、パーティーが行われることになった。
といっても、あいみんの部屋でささやかなパーティーだ。クリスマスパーティーよりもちょっと大きめのパーティーって感じで、部屋は風船と花が飾られている。
あいみんとりこたんとのんのんで、少し大きめのケーキを持ってきてくれた。
他に誰かは呼んでいないし、配信メンバーだけの小さな小さなお祝いがしたいと、あいみんが提案してくれた。
「まさか、ゆいちゃが一番最初に嫁になるなんて思わなかったね」
あいみんがぷしゅっと缶の蓋を開ける。
「こんなお祝いの席なら、もっと人を呼べばよかったのに。結城さんとか、啓介さんとか・・・・」
「いや、まだ正式なわけじゃないし・・・周りの人たちには、ライブとか終わったら俺から説明するよ」
「あーあ、ゆいちゃがさとるくんと付き合うとはね。私もさとるくんのこと好きだったのに。どう? 今からでも私に乗り換えない?」
「えっ・・・いや」
のんのんがお酒を一口飲みながら言う。
「のんのんには、ナツっていうフィアンセがいるじゃないですか」
「あ、あいつがうるさいから、少し付き合ってあげてるだけ。別に、フィアンセとかじゃなくて・・・・」
「顔が赤いよ?」
「久しぶりに、お酒を飲んだからよ。別にナツは関係ないから」
りこたんにからかわれていた。『VDPプロジェクト』の雰囲気は和むな。
「ゆいちゃ、ずっと留年心配したんだからね。何も言ってくれないんだもん」
「あはは、真っ先に報告したつもりで・・・すみません」
「私なんて高校まで行っちゃったよ。先生にどうにかしてもらえないか聞こうと思って」
「わーー! りこさん、ごめんなさい!!!」
「りこたんがせっかちすぎるんだよー」
あいみんが言うと、どっと笑い声が響いた。
「あ、あいみんさん、あの・・・・」
ゆいちゃがあいみんのほうににじり寄っていった。あいみんがぎゅっとゆいちゃを抱きしめる。
「・・・ゆいちゃ、おめでとう」
「・・・・・・・・」
「あれだけ引っ込み思案だったゆいちゃが、こんなに成長して、私、とっても嬉しいよ。これからも『VDPプロジェクト』として、活動を盛り上げていこうね」
「・・・・はい・・・・」
しばらく、あいみんとゆいちゃが抱き合っていた。
俺がこの場にいていいのか悩んだけど、『VDPプロジェクト』には誰かを弾くような雰囲気は生まれない。心から推してよかったと思えるグループだ。
『VDPプロジェクト』を一生かけて推して、ゆいちゃの夢を絶対に叶えると誓っていた。
次の日からは、何事もなかったように日常を過ごしていた。
相変わらず、大学の課題はサグラダファミリアかよってくらい問題に問題が積み重なって、終わりが見えない。
ななほしⅥは、カウントダウンライブで大物プロデューサーに目を付けられ、番組を持つようになるまで成長していた。カナは単独で歌手デビューも決まって、バイトも鬼のように入っていた。
居酒屋のバイトにも、『もちもちサークル』にも顔を出せていない。夏までには一回くらい行きたいと思っている。
怒涛だ。春には琴美が同じ大学に入ってくる地獄も待っている。
毎日、心安らぐ暇もないどころか、MONSTERのお世話になりまくっている。早死にしそうだ。
でも、1つだけ確かなのは・・・。
そろそろか。
課題を置いて、ソファーに座った。
アイパッドの電源を入れて、ヘッドフォンを装着する。
『こんばんはー。『VDPプロジェクト』の定期配信へようこそ』
『今日も頑張っていこう! へへ、空回りしないように頑張る』
推しが今日も可愛いってこと。あと・・・。
『今日はゲームの日なのです。今流行りの、対戦ゲームなんか持ってきちゃいました。リスナーさんとできたらいいなって思って』
『ゆいちゃ、それ、ホラーゲーム』
『えぇっ!?』
ゆいちゃが明らかにホラーゲームのパッケージを持っていた。
相変わらずだな。
『じゃあ、ホラーゲームで、よろしくお願いします』
ゆいちゃが毛先を触りながら笑う。
1つ確かなのは、俺の嫁が世界最強に可愛いってことだ。
ここまでお付き合いくださりありがとうございました(*^^*)
思い入れがあり、そのうち続編書きたいなって思っているので、また始まったら見ていただけると嬉しいです。
今後ともよろしくお願いいたします!




