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俺の推しは裏切らない!  作者: ゆき
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17 デスマからの帰還者

「AIロボットくんが入力したっていうDBテーブル見たんですけど、あれはデータを抜いても扱いが難しそうでした。テキストで入っちゃってるんですね。選択式とかだったらよかったんですけど・・・」

「そうね。うーん、一応あのテキスト項目にも規則性があるんだけど、振り分けるツールみたいなの必要かもね。キー項目はあるから、テーブル表もフォルダに入れておくね」

「ありがとうございます。じゃあ、クエリで抜いてEXCELで加工してってちょっと容量的に重いかな・・・」

 結城さんがマウスをクリックしながら言う。


「仮テーブル作ってからのほうがいいと思うよ」

「そうですね。兄もエンジニアなので、今度会ったら、やり方聞いてみます」

 結城さんとりこたんが楽しそうに話していた。


 この会話をイキイキとしてるところが、なんというか特殊だよな。

 授業ついていけないかもしれないって言ってたけど、ちゃんと勉強してることがわかる。


「根本的な質問なんだけどさ・・・」

「ん?」

「データ分析ってどうやるの?」

「はいはーい。私もそれ、わからない」

 あいみんが勢いよく手を挙げた。


「今考えてるのは、みらーじゅプロジェクトメンバーの配信にきている人たちの、男女比と年齢、媒体を見て、誰がどの層に人気があるのか割りだそうと思うの」

 結城さんが椅子を回してこちらを見下ろした。

「ふむふむ」

あいみんが前のめりになった。


 ノートに図を書きながら説明していた。

 字は・・・汚くてちょっと読みにくいな。

 申し訳ないけど・・・。


「20代学生ならどの時間帯も使うことがあるけど、30代40代は22時から24時くらいがコアタイムなの。社会人と学生の違いって感じだけど」

「なるほど。その時間にあった人を、配信時間帯に割り当ててくってことか」


「他のVtuberさんみたいにコラボしてもいいと思うし」

「そういえば、コラボしたことなかったね・・・」

「みらーじゅ都市では、いっつもみんな一緒に居るのにね」

 あいみんがりこたんにくっついていく。


「配信時間帯か・・・。今まではツイッターで何時からやりますって言うだけだったね」

「あいみんとりこたんの配信被ることもあるんですよね?」

「あはは、そうかも。私は曜日もバラバラだ」


「配信時間帯ってどうやって決めてるの?」

「なんとなく」

 あいみんとりこたんの声が被った。 


「・・・・・・」

「最初こんなに見てくれると思わなかったんだよね?」

「そうそう。こっちの人と話してみたかったからやってただけだから、数人でも気にしなかったけど」


「武道館に行くにはファンも増やさなきゃなので」

結城さんがピシッと言う。


 俺みたいな配信は絶対にリアルタイムで見たいコアなファンにとって、時間帯は大事だよな。

 結城さんも同じこと思ってると思う。


「二人って普段は何してるの?」

「私はみらーじゅ都市の情報部でデータ管理とかしてるかな。あとは、勉強したり、ショッピングしたり」

 りこたんが人差し指を頬にくっつけて話す。

 結城さんが素敵と言って、ぽうっとしていた。


「あいみんは?」

「私はAIロボットくんと遊んだり、音ゲーしたり、こんな感じで歌の練習したり」

 あいみんが軽く歌う。


 推しの歌声をこん近くで聞けるなんてな。


「・・・・あいみんの歌声って綺麗ですね」

「へへへ、そうかな? 褒められちゃった」

 お菓子を持ってにへーっと笑っていた。




 結城さんのスマホのLINEの着信音が響く。

「あ、兄から・・・・・・」


 突然固まって、表情がひきつった。

 メガネを上げる。


「・・・・・・・・」

 ノートを置いて、高速で文字を打っていった。

「大丈夫?」

「うん、全然」

「・・・・・・・」

 追い立てるように、着信音が鳴っていた。

 結城さんも、ただ事ではない様子で、文字を打っている。


「電話、したら・・・? 重要なことかもしれないし・・・」

「・・・・・・・・」


 ピンポーン


「え、まさか・・・・」

 嫌な予感がした。


「兄が・・・来ました」

 青ざめている。的中してしまった。


「わっ・・・結城さんのお兄さん? 会ってみたい」

「こ、こ、このお菓子も美味しいんですよ。実家でも、人気のクッキーで」

 話題を逸らそうとしていた。 

 

 ピンポーン、ピンポーン


 LINEの着信音がけたたましくなっている。

 いるんだろう? とドア越しに声まで聞こえた。


「で・・・出てあげたら・・・?」

「・・・・・すみません・・・。追い返すので」

 渋々立ち上がる。


 俺、ここにいて大丈夫なのか?

 って思ったけど、別に二人きりでいるわけじゃないしな。

 あいみんもりこたんもいるし、大学のサークル仲間ってことにしておけば。


「もう、お兄ちゃん、こないでって言ったじゃない」

 よれよれのスーツを着た男性が立っていた。

 25歳くらいだろうか?

 もみあげが伸びきっていて、髭はボーボーだ。


「そんなこと言わないで。ほら、りこたんのタペストリー買ってきたから・・・て・・・・」

 すっと、玄関の靴に視線をやる。


「お・・・お・・・男の靴・・・・?」

 目が合った。


「みいなの家に、まさか、お・・・・・・・お・・・・・・おとこ・・・? 嘘だろ?」

「違うって、ほら、他の女の子もいるでしょ?」

「そんな・・・うぅ・・・・・」


 りこたんのグッズを抱きしめたまま、玄関で泣き崩れてしまった。

 結城さんが慌ててドアを閉めて、戻ってくる。


「すみません。兄は、システムエンジニアなんですけど、度重なるデスマで情緒不安定なんです」

「デスマ?」

 あいみんが聞き返す。


「帰れないプロジェクトのことです。やってもやっても、終わらないみたいで会社泊ってるんですよ。私の家が会社から近いからって、たまに変な時間に来るんです。迷惑なんですけどね」

「頼られてるんだね」


「周りは家庭があったり彼女がいたりするのに、自分はいないからって、こうやって妹にすがってくるだけですよ。大学生の妹が心配でって、周りに見栄張りたいだけなんです」

「・・・・・・・・」 

 なんだか、すごく可哀そうに思えた。

 未来の自分を見ているようだった。


「だ・・・だいじょうぶ? 俺、やっぱりカフェに行こうか?」

「本当に、気にしないでください。さっきの話の続きをしましょ」


「・・・・・・・・・」

 玄関でうずくまって何かぶつぶつ言っていた。

 システムエンジニア目指したらこうゆう社会人になるのかな。

 進路、真面目に考えようかな。


「俺だって、こんなに真面目にやってきても恋人いない歴イコール年齢だし・・・・。今日だって3日会社に泊ってやっと解放されて来たんだ。なのに・・・妹には彼氏が・・・うう・・・」

 気の毒すぎて、泣きそうになった。


「ち、ち、違うって、彼氏とかそうゆうのじゃなくて・・・。みんなの前で、何言ってるの? 自分がアイドルばっかり追いかけて、彼女できないからって妄想ばっかり」

「もう3次元は止めたんだ。今はゲームに・・・」


「どっちでもいいけど、今日は大事な日なの。デスマ帰りのお兄ちゃんが来るとややこしいの」

むきになっていた。

結城さんがずけずけと玄関に向かっていく。


「・・・・・・・・」

三次元・・・みいな・・・。

 なんだか、流れ弾受けたような気分になった。


「さとるくんは、あいみんの推しなんだからね。彼氏とか彼女とかそうゆうんじゃないんだから」

 あいみんが腕をぎゅっと掴んできた。

 頬をぷくっと膨らませている。


 一気に癒された。

 推しは尊いな。 


「みいなの家に男・・・。みいなの家に・・・」

「だから違うってば、話を聞いてよ。お兄ちゃん、見て、今友達来てるの。LINEでも言ったでしょ? 勝手に来ないでって」

「だって、いつもりこたんグッズ持ってくれば、入れてくれたじゃないか。男ができたから入れてくれないんだろ?」


「・・・・りこたんグッズは・・・貰っておくけど・・・」

 貰っておくんだ・・・。


 ビニール袋をすんなりと受け取って、中身を確認していた。

 結城さんのりこたんグッズにちょっとセクシーなりこたんがいた理由が分かった気がした。 


「今、りこたんが来てるの。あまり、りこたんりこたんって言わないで」

「は?」


「推しが来てるの。りこたんガチ勢だと思われたらどうするの? せっかく部屋も片付けたのに・・・。今は関係構築の大事なときなんだから」


「・・・あはは、丸聞こえだね」

「・・・・・・・・・・」

 もう、色んな事がバレバレだけど、聞こえないふりをしようと頷く。

 りこたんの顔が真っ赤になっているけど、結城さんはこちらの様子に全く気付いていなかった。


「りこたんってVtuber? って嘘だろ?」

「もう、お兄ちゃんには関係ないでしょ。早く帰って」


「待っ・・・・みいな・・・ともかく、お前に彼氏はまだ早いんだから」

「うるさい。用が済んだら帰って」

 強引に追い出して、ガチャっと鍵を閉めていた。




「すみません。で、何の話でしたっけ?」

 ふうっと息を付いて、戻ってきた。

「あ・・・と・・・・」

 ドア越しに、しばらくすすり泣く声が聞こえている。

 結城さんが何事もなかったように話を戻そうとしていたけど、ドアの向こうが気になって仕方がなかった。

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