169 クリスマスは特別な・・・。④
インターネット物理モデルをわかりやすく表現した展示の前にいた。
ゆいちゃもこうゆうので教えれば、もっと理解が早いのかもな。
「これがインターネット物理モデル。この白と黒の玉は1と0の2進数をあらわしていて、メッセージの送信器。最初の4つは送り先を表す。銀色のタワーはそれぞれ独立していて、送り先がわからなければ、次のタワーへ渡すんだ。インターネットってすごくシンプルでしょ」
「え・・・うん・・・」
「わかりやすくできてるよね。インターネットって、シンプルだからこんなに広まっていったんだって」
「あ・・・そっか。そうなんだ、不思議だね」
反応が薄い気がする。
さっきは計算機と自然の展示を見てきたが、あまり反応がなかった。
計算機と自然っていう一見関係ないようなものに、関連性を見出すかなり面白い話だった。
ミクは面白くないのか?
インターネット物理モデルを視覚化したら・・・なんてインターネットインフルエンサーとしては絶対興味持つものだと思ったんだが。俺がずれてる気がする。
なんといっても美しいし・・・。芸術性もあるのに。
「もしかして・・・面白くない?」
「ごめん。私、高卒だしあまり勉強してこなかったからこうゆうのはさっぱり・・・インターネットぶつりもでる? って単語も初めて知ったから・・・」
「そうか・・・」
ミクが戸惑いながら話していた。
「あ、で、でも、ほらあっちのロボットは可愛いなって思うよ。なんか、動きとかいかにもロボットって感じで」
「・・・・・・」
無理してる感じが伝わってくる。
頭を掻いた。やってしまったような気がする。
「なんか、ごめん。考えてみれば、理系じゃないとこうゆうの面白くないよな」
「そんなことないよ。磯崎君って頭いいんだね」
「頭いいわけじゃないけど、こうゆうのが好きなだけだよ。夢があるじゃん」
「カナは好きかもね。こうゆうの」
「同じ大学だからな。そりゃ、興味は持つだろうね」
白と黒の玉がタワーに流れていく様子を眺める。
あいみんたちが、どうゆう仕組みでみらーじゅ都市から来たのかわからない。みらーじゅ都市がどんな技術を持っているのかも・・・・。
でも、きっとこうゆう研究の組み合わせなんだろうなって思っていた。
広場みたいなところで、少し休憩していた。
結局、俺の好きなところばかり回ってしまった感はある。ミクが合わせてくれるから、結局俺が充実した時間を過ごしてしまった。ミクの息抜きのために、今日一日オフになってるのに。
一応、握手会のことは話題に出ないことだけが救いだな。
ホットココアを持って、ミクのいるところへ戻ってくる。
「はい。熱いから気を付けて」
「ありがと」
にこっとして両手で受け取っていた。
「なんか俺の行きたいとこばっか行ってごめん」
「そんなことないって。磯崎君って将来こうゆうのを扱う職業に就きたいの?」
「たぶん、システムエンジニアとかになってそうだな。大変って聞くけど、なんだかんだシステム作るの好きだし」
ココアの湯気が鼻にかかった。
「ミクは声優アイドルじゃなければ何やってたの?」
「なんだろ・・・・保育士さんとかに、なりたかったかな。憧れの職業だったんだ」
走り回っている子供を見つめながら言う。
「子供好きなの?」
「うん、歳の離れた妹がいるんだけどね、妹の面倒見るの楽しかったから、保育士になってみたいなって。子供の成長を見れるって素敵な仕事だから」
「へぇ、ミクに合ってるね」
「そうかな? でも、私、馬鹿だからなれなかったと思うけど」
ツインテールの右側の髪を後ろにやった。
「奇跡的に声優アイドルになれてるけど、他になれるものなんてなかったかも。磯崎君みたいに頭よかったら、あまり悩んだりすることもなかったのかな?」
「いやいや、勉強できるできないは個性みたいなもんだし、俺だって悩みがないわけじゃない」
「磯崎君はどうゆうことで悩むの?」
「そりゃ・・・ありすぎて言えないよ」
ココアを一口飲む。
地獄のような大学の課題のことはもちろん、ゆいちゃのこととか、推しのこととか、バイトのこととか、妹の琴美のこと、妹の友達の舞花ちゃんのこと・・・。
大学に入ってから、未経験のことが多すぎる。
高校のときは、受験勉強のことしか考えていなかったのに。
「じゃあ、そんな磯崎君の悩みが吹っ飛ぶような場所行ってみよ」
「えっ」
「今限定で、大きなクリスマスツリーがあるんだよ。ツリーの下にプレゼントがたくさんあるんだけど、そこに小さな箱を置いておくと、願いを叶えてくれるんだって」
「へぇ・・・なんか、どこでも聞くな。そうゆうの」
いかにも、SNS映えを目指す女子が好きそうだ。
あいみんたちに言ったら、絶対行くって言うだろうな。
「ココア飲んだら行ってみよ」
「あぁ。つか、先に言ってくれたらよかったのに。今日はミクの行きたいとこに行く日なんだから」
「科学館も楽しかったよ」
「気を遣ってくれてどうも」
ミクがふふっと笑った。
「本当に楽しかったのに。磯崎君って、普段こうゆうのが好きなんだね」
「まぁ・・・だから、大学に行ったからな」
「ただVtuberのオタクなだけかと思ってた」
「ただのVtuberオタクだよ」
ココアを飲み干す。天井を見上げると、天体の展示物が浮いていた。
一歩外に出るとカップルだらけだ。
科学館はそうでもなかったのに。そこらじゅうでイチャイチャしている。
噴水の前には人だかりができてるし。なんかイベントでもやってるのか?
「まだ、夜じゃないのに、こんなにカップルいるんだ」
「どこ見てもリア充だらけだな」
さっき横目で見えたカップルなんて、柱に隠れてちゅーしてたんだけど。
いやいや、全然隠れてないし。見えまくってるし。
何、この感じ。居づらくて、思考停止しそうだ。
着いて早々帰りたいんだけど。
「お兄さん、お姉さん、ちょっと」
サンタの格好をした男性が近づいてきた。
「わぁ、お姉さんめちゃくちゃ可愛いっすね。アイドルみたい。マスクしてるのに、ものすごいオーラがありますね」
「はは、そうですか?」
「・・・・・・・・」
実際、アイドルだからな。ミクがマスクを鼻の上まで伸ばして愛想笑いしていた。
「こんな可愛い彼女がいて羨ましいっすよー」
「いや、彼女では」
「今、限定でイベントやってるんですよ。あの2人協力型の音ゲームで、見事500スコア以上獲得した方は、こちらのクリスマス限定キャラ、こっこちゃんのキーホルダーと、大観覧車チケットを用意しているんですよ」
「こっこちゃんのキーホルダー????」
ミクが食いついた。
「可愛い!この白いふわふわな感じすっごく可愛い!!!」
白くて丸い雪をイメージしたようなキャラクターが赤いサンタの帽子を被っていた。これが・・・そんなにいいものなのか? サイズも掌くらいしかないし。
「挑戦しますか?」
「しま・・・」
「します!!!!!!」
前のめりになって言っていた。
「あははは、彼氏さん頑張らないとね」
「だから、彼氏では・・・」
「行こ行こ! そこに並べばいいんですよね?」
「はい。このチケットを持って、係員に渡してね。じゃあ、健闘を祈るよ」
「ありがとうございます」
ミクが頭を下げてチケットを受け取って、すたすたと歩いていった。
列はカップルでみっしりぎっちりしていた。
てか、どこ見てもカップルだ。友達同士とか、家族でとかいないのかよ。
「ミク、俺、悪いけど音ゲー苦手だからな。アイドルストーリーのゲームでちょっとやってる程度だし」
「大丈夫、私が得意だから」
「そ・・・・」
ミクが自信満々に頷いていた。
見た感じ、2人協力といっても別々にスコアつくみたいだし、なかなか難しそうだ。
ものすごくはりきってるとこ申し訳ないが、ミクがフルスコア出したとしても厳しそうだな。
 




